第三話 チュートリアルの終了
草原から続く踏みしめられ、草も生えなくなった道を逸れ、足を覆うか否かの高さの草中を進めば、間も無くそれは姿を現した。
「鶏みたいだな」
思わず呟いてしまったが、まさに姿形は鶏にしか見えない。
大きさこそ通常の鶏より一回りは大きく、何やら足も太いがその程度の差異だ。
その頭上をフォーカスすれば名前もまさにワイルドチキン。
どうやらアクティブ属性らしく、クケェエェ! などと威嚇しながらこちらに向かってくる。
「AI故か、意志を感じぬ。威を感じぬ。恐るるに足らず」
苦笑と共に初期装備の片手剣を素早く剣帯から抜き放ち斬りつける。
狙い違わず首筋をなで斬れば、急所判定故かあっさり光の粒子となり消え去ってしまった。
視界端のログには経験値と素材らしきドロップの名前だけが簡素に流れている。
「流石に最序盤では苦戦させる要素もないか」
これでは剣の理を披露する暇もないか、是非も無しとならばと色々試すまで。
それからSFO内で一時間ばかり。
現実で三十分が経過した頃、剣鬼は頃合いかと鶏相手の試し斬りを中断する。
幾つか情報サイトと差異が見受けられた為だ。
先ず、ベータテストではこのある種チュートリアルマップでも装備のドロップが確認されていた。
都合50体近く鶏を倒したが落としたのは素材と思しき幾つかのドロップのみ。
後はレアドロップと見られる、情報サイトにもあった換金アイテム銀の卵三個のみだ。
他にも旅人の初期物理スキル、横薙ぎに剣を振るうスラッシュのダメージ倍率が変化している可能性が高い。
硬直時間もベータテストより若干短いと思われた。
また、いわゆる通常攻撃にもなんらかの倍率判定が組まれてるとしか思えない場面が見受けられた。
急所判定やクリティカル判定とは明らかに別の枠だろう。
ベータテスト通りなら、通常攻撃でのダメージはSTR×1+(物理攻撃力×1-相手物理防御力)×主属性耐性%×1となる。
「明らかになんらかの補正が入ってる時がある……」
どこにどんな補正が加わってるのかは不明だが、スキル主体のスキル習得は避けたい剣鬼にとっては朗報である。
アクティブスキルの類は強力だが、剣鬼が現実で振るう剣術とはあまりに相性が悪かった。
強制的な肉体アシストもそうだし、技後硬直に至っては論外だ。
練ったエネルギーを絶えず内で回し、より洗練させ次へと繋ぐのが基礎理論なのだから。
「……まぁ、SFOじゃ内力の類は認識されないみたいだけど」
如何な現実をもした第五世代仮想現実とは言え、そこまでの演算は組まれていないらしい。
同時に殺人刀の十八番たる殺気、気合の類もダメとなれば、剣鬼にとっては片手をもがれたに等しいだろう。
「プレイするのはやまったかも……」
誰が思うだろうか、現実より下手すれば仮想の方が動きが悪くなるなど。
しかもSFOにおいてAGIの上昇は単純に動きの高速化を示さない。
身体能力の向上は主に物理系ステータスの総合及び、スキルやバフの効果が主になる。
そうなると暫くは現実より鈍い身体を使っての戦闘がメインとなるのだから、ある意味縛りプレイか、もしくはドM思考か。
どっちにしても、とある事情でSFOをプレイしている剣鬼のモチベーションは低くなる一方だ。
「ステ振りは王都行って、剣士クラスに就いてからでいいな」
初期クラスの旅人に旨味はないし、極める事で就けるストレンジャーのクラスも興味はない。
ならある程度の勝手が分かった段階でさっさと進むべきだろう。
そう思考をまとめ外れた道筋を修正がてら、時折現れるワイルドチキンを蹴散らしていく。
「あっ、激レアドロップ」
通算70体に迫ろうかという段階で、如何にもなファンファーレが鳴り響き、ログに黄金の卵のドロップが流れる。
鶏500体で期待値一個と考えれば上等すぎる確率だ。
単なる換金アイテムだが、レアドロップはレアドロップ。
多少浮ついた気持ちに鼻歌を交えながら、初夏手前の暑さを照り付ける太陽の下を歩き出す。
「……日向ぼっこしたい」
もう間も無くインスタンスフィールドを抜ける外だが、こうも見事な物理演算、麗らかな陽気では抗いがたい欲求だ。
とは言えそれではSFOにログインしてる意味がないと、欲望に抗いある事数分……
––––王都周辺、ハリナ草原125chにログインしました。
というテロップがログに流れる。
同時、今までの静寂が嘘のように耳に届く数々の音の乱舞。
見渡せば数名自分と同じく呆気にとられている思われる、初心者が数名。
視界に見えるだけでも10組近いパーティがワイルドチキンや情報サイト曰く、ブルースライム、ハリナ草原最強種のゴブリンを相手に戦闘を繰り広げている。
既に一時職に就いてるのだろう、初期魔法のファイアボルトが眩い火花をあちらこちらで炸裂させている。
その様はまさしく、正式リリースを迎えたばかりのMMOにおけるスタートダッシュを競う光景だった。
「なんかいいな、こういうの。垣根は違うけど、正しく上を目指さんとする姿ってさ」
思わず零れた言葉に、耳にしたらしい獣人のプレイヤーが何言ってんだ? と言わんばかりにこちらを見やるが、剣鬼は素知らぬばかりに歩き出す。
とにもかくにも転職だと、視界の奥に見える石造りの立派な外壁、その中に聳える立派な城を目指して歩き出した。
前後書きにおける計算式を少し訂正しています。
主人公の容姿などは流れで描写していく予定です。
短い文量での更新が多いですが、スマホな為執筆速度が遅く、モチベを保つためとご理解下さい。




