短期決戦の目論見
(天空都市群グングニル中央島:第一円形闘技場)
閃光が弾ける。
巨大な質量同士が激突する。
俺と犀粉帝との試合は、つばぜり合いから始まった。
第一円形闘技場の大気が、びりびりと震える。
変身前の光の塊が、幾度かの衝突を終えた後、二頭の飛竜が出現する。
一頭は、俺のアニマ―ジュ後の姿である、『ブリザードワイバーン』。
もう一頭は、犀粉帝の『リノファント・ワイバーン』。
大きさやパワーで比べるならば、優位はギラドアにある。
現に、俺は最初の衝突で、かなり押されていた。
怪我をした第一右翼を庇いながらとはいえ、力負けしていることは否めない。
ギラドアの変身後の姿は、飛竜型アニマ―ガスの中でも最大の部類だ。
単純な力技だけでは、この試合には勝てないだろう。
「どうした? 最初の挨拶だけで、もう息切れか? 流石にもう少し楽しませろよ、ザザ。観客だって、高いチケット代を払って俺のショーを見に来てる。惨めに墜落するにしても、もう少し足掻いて客を興奮させろ。こういうふうにな!!!」
俺が開けた距離を、黒い巨躯が一瞬で詰めてくる。
犀粉帝の頭部に生える三本の角が、俺めがけて突き出される。
奴は、完全に虚を突いたと思ったに違いない。
だが、これくらいの奇襲で、慌てる俺ではない。
六枚の翼で大気を掴み、急下降する。
ギラドアの凶悪な角は、空を切った。
そして、ガードの甘い下腹に、凍結ブレスを見舞う。
凍結飛竜の口蓋から溢れる凍気が、犀粉帝の腹部に命中する。
「ぐぬ! 逃げ足だけは速いようだな、負け犬が!!」
腹部に霜を降ろしたギラドアが、怒りに染まる深紅の両目をこちらに向ける。
「ふん。ショーをやるんだろ? なら、せいぜいお前のファンを失望させないようにするんだな」
涼しい表情で、俺はその凶悪な殺気を受け止める。
奴の巨大な両目が、いよいよ血走ってきた。
恐らく、奴はまだ俺の復帰を完全には信じていなかったのだろう。
せいぜい、また飛行できるようになったくらいにしか、考えていなかったに違いない。
だが。その鈍い推察は、俺の凍結ブレスを喰らったことによって、間違ったものだと証明された。
その実感があるからこそ――俺を第一闘技場で相見える敵だと実感したからこそ――ギラドアの目の色が変わったのだ。
無論、俺はそんな奴の変化などに興味はない。
ギラドアに慢心が少しでもあるうちに勝負を決めた方が、勝算は高いのだ。
繰り上がりとはいえ、現在の奴は犀粉帝。インペリアルリーグに君臨する皇帝たちの一角なのだ。実力は折り紙つきである。
それに、試合が長引けば長引くほど、俺の怪我の状態は悪化する。
膠着状態が続けば、損をするのはこちらだ。
だからこそ、奴がまだ完全に本気にならないうちに、勝利をかすめ取る必要がある。
(好きなやり方じゃない。でも、なにより今の俺達に必要なのは、勝つことだ。内容は、勝てるようになってから考えればいい)
俺の周囲を、さっきの一撃とは比較にならない冷気が渦巻く。
最大火力で、一気に勝負を決めてやろう。
上昇しながら一瞬でギラドアの後ろを獲った。
奴は、不意の一撃をくらって、一瞬意識をそちらに傾ける隙をつくった。
ほとんどないような好機だが、俺はそれを見逃さない。
コンディションからすれば、圧倒的に奴の方が優位なのだ。
遠慮など、七帝相手に必要ない。
する気もないが。
「ちッ! いつの間に――――」
背後の俺に感づいたギラドアが、回避行動を取ろうとする。
だが、もう遅い。
俺の予備動作は、すでに終わっているのだ。
『――――絶対零度の槍!!!』
狙うは、奴の翼。その付け根だ。
そこの筋肉を凍結させれば、奴はもう飛ぶことができない。落下するしかなくなる。
巨体故に、それを支える翼の筋肉には、相当な負荷がかかっているはずだ。
その弱点を突けば、俺のブレスは最大の効果を発揮するだろう。
前の対戦でも一度、俺はこの手で勝っている。
懐かしいやり方で、ギラドアに引導を渡してやろう。
放たれた冷気は、狙い違わず奴の急所に殺到した。
「――ぐお!!!」
不意の一撃に晒された犀粉帝が、うめき声をあげる。
奴の巨躯が、地面へと急降下していく。
確かな手ごたえがあった。
(――やったぞ!! 狙い通りだ!!!)
急下降していく角獣飛竜の巨体を見て、俺は思わず歓声をあげそうになった。
そう。
このとき、俺は油断していた。
そして、次の瞬間。
「――効いたとでも思ったのか、負け犬!!!!」
爆発的なエネルギーでターンし、俺へと殺到する巨躯。
反射的に回避していなければ、間違いなく俺は一撃で沈められていた。
俺の脇腹を、鋭利な角が裂く。
「ぐう!!! クソッ……!!!」
裂けた個所から鮮血が溢れ、ブリザード・ワイバーンの白銀の体毛を汚す。
気を抜いたのは、俺の方だった。
ギラドアに、さっきの一撃は効いていなかったのだ。
必死の思いで俺は体制を立て直し、犀粉帝の追撃に備える。
漆黒の魔獣は、悠然と俺を睥睨していた。
「よう、元氷息帝。がっかりだぜ。あんな涼風じゃ、アイシングにしかならねぇぞ?」
俺が今まで対戦したことのない、『犀粉帝』ギラドアの姿が、そこにはあった。




