二度目の囲み取材
(天空都市群グングニル中央島北西地区:第三コロッセウム付近)
バシャバシャバシャ!
目の前で、鮮烈なフラッシュが何度も焚かれる。
それらはすべて、取材陣のカメラマン達によるものだった。
一拍も置かないうちに、俺とキーロは報道陣達に包囲されてしまう。
しまった。どうやら、連中は学習したらしい。タワーマンションのときよりも、俺を囲む密度と速さに磨きがかかっている。なんてこった。
俺に何本ものマイクが突き付けられ、矢継ぎ早に質問が浴びせかけられる。
――『ザザ選手! プロ復帰おめでとうございます! 感想を聞かせてください』
――『取材陣からの逃走劇から一カ月、どこでなにをしていたのですか?』
――『ファンや関係者も気になっていると思います!』
――『どういうことなんです? 秘密の特訓という奴でしょうか?』
――『プロに復帰したということは、七帝の座を奪いにいくということですよね?』
――『現段階での構想でいいので、胸の内をかたって頂けませんか!?』
――『何か、一言お願いします』
――『何か、一言どうぞ』
――『何か、一言を』
――――『何か、一言!!!』
全く。凄まじいかしましさだ。鼓膜が痛い。
全員凍結ブレスで沈黙させる氷の像にしてしまいたいところだが、そうもいくまい。
第一、そういう映像がカメラに移れば、俺の立場が危うくなる。
キーロの反応も怖いことだし、ここは少しだけ相手をして、さっさとずらかろう。
それが、一番の得策だ。
「あー。みなさん、静粛に。三分だけです。それだけ、質問にお答えしましょう」
俺の返事を聞いて、目の前に肉をぶら下げられた野獣みたいな眼光になる記者たち。
全く、少しは手加減する気がないのか。嫌になるね。
「ただし、一社につき、一つだけです。それで、三分です。では、質問のある方?」
ざざっとほぼ全員が挙手する。さて。礼儀正しそうな公共放送や、キー局、大手新聞社や、専門雑誌系統から当てていこう。
週刊誌は当てる気が無い。その為に、三分の時間制限をつけたのだ。
「……では、そこの方」
最初に、贔屓のスポーツ専門誌を指した。
『――週間天空闘竜です。プロに復帰したということは、怪我の状態が改善されたのですか?』
うむ。やはりくせのない質問だ。当てて正解だったな。
「リハビリの結果、怪我の状態は改善されました。詳しくは、今日の試合を見てもられば分かると思います」
おお、とどよめきが上がる。それはそうだろう。復帰困難な怪我が、不完全とはいえ治ったんだからな。スポンサーも光速で撤退するほどの大怪我だったし。
「では、次の質問を。……はい、そこの方」
次に、気まじめそうな公共放送の記者を指名する。
『――ご指名ありがとうございます。グングニル放送協会です。早速、質問をさせて頂きます。無事怪我が治って復帰なさるということですが、目指すのはやはり、インペリアルリーグということでしょうか?』
これまた想定通りの質問だ。
「そうですね。プロに戻ってきた以上、頂点は目指すべきであると、いち競技者として思っています。ですが。還ってきた私が目指しているのは、インペリアルリーグではありません。元のランクでもあだ名でもない。新たな呼び名と、新たなランクです」
『――と、いいますと?』GHKの記者が丁度いいところに間の手を入れる。
「つまり、私が狙っているのは、ランク一位。皇帝の地位だけ。紅恋帝アウラの玉座だけです』
この発言を、またフラッシュが盛大に焚かれる。いい加減眩しいな。
だが、これは俺からアウラへの宣戦布告だ。明日の記事は、大々的にこの話題で持ち切りになるといいな。
そうすれば、あの美男子優男と、その彼女にも届くだろう。
待ってろ、アウラ。俺が本当に倒したいのは、クラウンを除けばお前だけだ。
唯一、一度目の現役時代に倒せなかったお前を倒し、俺は今度こそ頂点を手に入れる。
その為に、俺は一か月も雪ごもりして、此処に舞い戻ったのだ。
「えー。みなさん。落ち着いてください。質問は挙手制ですよ。はい、では――そこの方』
次に指したのは、キー局の美人アナウンサーだ。うーん、綺麗だな。タイプかも。
『――ありがとうございます。天空衛星放送の者です。アウラ選手を名指しで目標に掲げているのには、何か理由があるのでしょうか? 女性のこととか?』
うわ。しまった。綺麗なバラには、棘がある。
アウラの話から、フェリェとの破局話に持っていこうとは。それも、直に言葉にしない上手なやり口だ。
……ふん。猫かぶりの女子アナめ。いい仕事したと、悦に浸ってるな。やっぱり、お前なんか、やっぱりタイプじゃないぞ。
「ありません。彼とは、二度戦って、二度とも引き分けです。万全の状態まで戻って、白黒つけたいんですよ。グラディエータートしてね。では、次。そこの方」
極めて冷静な塩対応で、小悪魔質問をかわす。
もうすぐ三分だ。恐らく、次に指名した新聞記者が最後になるだろう。
『――天都新聞です。では、あなたの「第一右翼支柱筋剥離」を、治した名医の名前を教えてください。クラウン天獣師でしょうか?』
うーむ。これは答えにこまる質問だ。
俺の後ろにいるキーロだと答えてもいいが、彼女はまだ上級舎の生徒だ。大学生でもない。
そんな存在が、俺の大怪我を治したと知れば、俺の復帰以上の大騒ぎになるかもしれない。
そうなれば、マスコミがキーロをマークするかもしれない。そんなのはご免だ。誰だって、四六時中見張られては、本来のポテンシャルを発揮できなくなる。
そうなれば、俺も困る。
となれば、ここは一つ。
お茶を濁そう。
「あー。そのことですが。えー。先方の了解を得ていませんので。何といえばいいのか。私の口からは申せません。申し訳ない。では、皆さま。三分です。ごきげんよう」
そういって、俺はキーロを引っ張って、退場しようとする。
が、堅牢な包囲網は、やはりびくともしなかった。
相変わらず、質問も止まない。
全く。もともと、時間どおりに開放するつもりはなかったようだな。
なら仕方ない。
強硬手段だ。
俺の全身を、光が包む。
「では。失敬いたします、マスコミの方々!」
吹き荒れる木枯らしに、報道陣が目を細めているうちに、俺は後ろ足でキーロを掴み、上空へ飛翔した。
キーロが突然のフライトに悲鳴をあげているが、仕方あるまい。
このまま、リハビリの場所まで行ってしまおう。
一カ月ぶりの中央島の街並みを眺め、俺は優雅な逃避行を楽しんだ。
……キーロは、あまり楽しめないようだった。




