“英雄”
※本日三話目
この話で一旦『英雄、やります(仮)』を完結とさせていただきます。
続きを楽しみにされていた方、申し訳ありません。
今までお付き合いいただきありがとうございました。
次話はその辺りの話やらをうだうだ話すあとがきになります。読まなくても支障がないヤツです。
空間を脱出すると、途中で分かれた異世界人達が出迎えてくれた。汚れや傷から戦いの跡が見て取れる。
出てきた俺達へ、「よくやった」などの声をかけてくれる。
俺もほっと一安心、と思ったのだが。
べぎっ。
とてつもなく嫌な音が、背後から聞こえた。
見ると、俺達の出てきたアンドゥー教の城とも言える空間が渦のようの歪んで見えた。
ごぎめきばきぐしゃ、と嫌な音を続け様に出して歪みが酷くなっていく――空間が折り込まれていくようだ。
「なんだ……?」
空間が収縮していく、という表現が正しいかはわからないが、奇妙な光景だった。
「空間が凝縮していきますね。最小まで収縮した後に爆発します」
いつの間にか分離したらしく、仮にも神であるヘラが告げた。
「爆発の規模は?」
ハヤテが問うと、
「街の周辺五キロが消し飛ぶでしょうね」
「街の人の避難……は間に合うわけないな」
ヘラの言葉にミランが考え込む。
ああでもないこうでもないと言い合い始めるが、結論は出ていた。
「要は、誰かが爆発を阻止または消滅させて被害を出さなければいいんだな」
俺が簡潔に告げると、
「そのための魔力が足りない」
との反論が返ってきた。もちろんそれも織り込み済みだ。
「ここに魔力回復薬が一つ残ってる。大体一万は回復してくれるが、誰かこれでなんとかできそうな案はあるか?」
対ゼウス用に貰った魔力回復薬が、まだ一本だけ残っていた。それを掲げて尋ねるが、あまり表情は変わらない。
「一万回復しても無理ですよね」
「ああ。俺達がやった神装は負担が大きくてな」
ヘラとハヤテ、神の力を持つ二人が真っ先に首を振った。
「できるけど、衝撃を加えないようにやるのは無理よ」
我らがフィネアもダメなようだ。彼女は力業、総じて切断に特化しすぎている。
「衝撃を与えずに無力化する方法があればいいってことか」
そんなに都合いいモノがあったかどうか。創るにしてもイメージが湧きづらい。
俺はステータスを開いて持てる力の全てを確認していく。
「逃げるだけならできますが、守るとなると厳しい状況ですね」
アーティアの言葉に、誰もが口をつぐむ。
……あれ? おかしいな。こんなのあったっけ。
ステータスを眺めていた俺は、見慣れない術式を見て首を傾げた。しかし考える内に、見慣れなくてもあったことは思い出した。
ここに乗り込むまで使えなかった『???術式』だろう。それがなくなった代わりに見慣れない術式がある形だった。
その術式を確認して、俺は静寂の中恐る恐る挙手をした。
「俺、もしかしたらできるかもしれない」
注目を浴びながら口にした俺を、笑うモノはいなかった。
「なんだ、ようやく白状する気になったか」
「えっ?」
「魔物でも人間でもできないことがあるなら、術式を使えるお前にしかできないだろう」
グランの呆れたような口調に、全員が頷いた。
「いやいや、術式だって万能じゃないからな? 俺だってできないことがあるわけだし」
「お前がいつ任せろと言い出すか小声で賭けてたんだぞ」
「……お前ら真剣に話し合う気なかっただろ」
「あるに決まっている。真剣に、お前が策を言い出すのを待っていただけだ」
「……」
思わぬグランの発言に言葉が詰まってしまう。
「……信頼が重いな。まぁだけど、確かにできそうではある」
「だろう?」
「だけどなんつうか、俺も使ったことない術式だから上手くいくかわかんないし」
「大丈夫だ。お前にできなければこの場にいる全員ができない。なら爆発されるしかない。爆発を止めるか否かは簡単な分かれ目だ。お前が街を救えるか、救えないかのな」
なんだか随分と重いモノを背負わされている気がする。だが可能性があるならやってみたい。
「……わかったよ。じゃあ行ってくる。その代わりにできなくても責めるなよ?」
冗談混じりに言うと、意外な方から声が上がった。
「大丈夫だ。ハニーだけは俺が守る」
チアキの肩を抱いたムートガランが言った。
「なら私も爆発斬ってあげるわ。もちろん、私の背後しか守れないけど」
対抗(?)してかフィネアもそう言ってくれた。……なんか最強の魔物である二人からそう言われると案外爆発してもなんとかなりそうな気がしてきた。二人共全部を全部守れはしないとは言ってるんだが。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
俺は軽く手を挙げて、魔力回復薬を飲み干して凝縮していく空間へと近づいていく。
近くで見ると異様さがより際立つ。
なにせ外側から見える城がめきめきと音を立てて折り畳まれていくのだから、当然だ。空間は既に一軒家にぐらいの大きさにまで縮んでいた。
俺は手を伸ばせば届くような距離まで近づいてから、右手を胸に当てて深呼吸をする。
……あいつらは俺を信頼してくれている。その信頼は重いが、そんなに気負う必要はない。
仲間達が自分達にはできないと困っている。
それだけで、俺が行動する理由には充分だった。
俺は今までそうやって生きてきたつもりだし、これからもそうしていくだろう。
緊張する必要はない。俺は今まで通りにやるだけだ。
「……神理術式」
俺は元々正体不明な術式だった、その名を口にする。条件を満たしていなかったからわからなかったのだと思うが、おそらくレベル制限でもあるのだろう。今回の戦いでかなりレベルが上がったので、その中で条件を満たしたという可能性が高い。
それとも本物の神の力に触れることが条件だったりするのだろうか。アンドゥー教だったりゼウスだったり。どのタイミングで解放されたのかわからないので断言はできないのだが。
術式が発動すると同時に俺の身体が白い光に覆われる。髪や瞳まで真っ白になっているはずだ。どこか人でなくなったような、浮いた見た目になる。術式で多く見られる幾何学模様も健在だ。
神の理、なんて大層な名前がついているのも納得できる能力が備わっている。
「大気」
まずモノを指定する。俺はそのまま、凝縮されて俺の身長と同じくらいになった空間へと手を伸ばして、触れた。
瞬間、歪んだ空間が消える。まるで最初からそこになかった、みたいにも見えるのだが。
「っ……」
しかし魔力を喰いすぎる。俺は全身を襲う倦怠感に膝を着いて、誤って手を地面に着いてしまった。
ごっそりと、俺の半径十メートルくらいにあった地面が文字通り消滅する。
「ゼログラビティ」
落ちる前にメティの無重力化によってふわふわ浮いたため助かったが、おいそれと使うモノではなかった。
すぐに神理術式を解除して、メティに運ばれて皆の下に戻ってくる。
「な、なにをしたんですか?」
驚いたようなアーティアと面々に、苦笑しながら説明する。
「神理術式。触れたモノを俺が指定したモノへと置き換える術式だ。凝縮した空間を大気に変換したわけだな」
誤って地面に手を着いたのはまずかった。メティに「ありがとう、助かった」と礼を言っておく。
「化け物か」
「グランだけには言われたくない台詞だな」
「いや凄いですよ」
畏怖とも称賛とも取れない微妙な空気になってしまった。
「術式は神の間でも見解が分かれるところですからね。神の理から外れた術式が神の理を名乗るなんて、皮肉なモノですが」
神であるヘラが呆れ混じりに言う。……そんなに俺の術式は変なモノなのだろうか。
「まぁなんにせよ、今回は勝利だ。街に戻ってギルマスに報告といこうぜ」
「そうだな、凱旋といこう」
俺が言うとミランが頷き、全員で歩いて街へと帰った。
「よくやった」
街へ戻るとギルドマスターや他の人々が出迎えてくれた。
何事かと首を傾げる俺達に、彼は笑顔で説明する。
「アンドゥー教本部の手前から重なるように、巨大な城が現れたからな。遂に武力行使に出るかと思えば、お前達が乗り込んでいったらしく様子を見るようにしていたんだ」
そういえば、凝縮する空間も城のような見た目をしていたな。中に入ると外側へも見えるようになる仕組みだったのか。
「アンドゥー教を倒したんだろう?」
「一応な。地下施設の破壊はしなきゃいけないが」
人工魔物を作っていた教団地下にあるあれは、破壊しておく必要があるだろう。
「それはこちらで手を打とう。そんなことより、街を救った英雄達の凱旋だ。今日は街を上げて祝うぞ!」
ギルマスがそう言うと、後ろにいた街の人々からも歓声が上がる。
なんだかこう、正面から褒められると気恥ずかしいな。
俺は大したことをしていないとはいえ、一緒になって歓声を受けるのは照れる。
「シューヤさん!」
「お兄ちゃん!」
そんな街の人達の中から、二人の少女が飛び出してそのまま抱き着いてくる。
エイラとイシアの異種族姉妹だった。
「二人共、無事だったか」
「それはこっちの台詞ですよ!」
「無事で良かった!」
二人が涙ぐんで言う様を微笑んで眺めつつ、頭を撫でて宥めてやる。
「よし。そうと決まれば宴会だ。皆、今日は騒ぐぞ!」
ギルマスの声に賛同した街の人達が、一旦解散する。
「……なぁ。俺達って、なんのためにこっちの世界に来たんだっけ」
俺はなんの気なしにぼやいた。
「英雄になるためだろう」
ハヤテが簡潔に答えた。……そうだったな。世界の綻びを直すというのもあったが、やろうと思ってできることでもない。ならそっちだけで充分だろう。
「だからもう、お兄ちゃんは達成してるよ」
「そっか」
リフィアの言葉に頷いて、どこか感慨深く破壊の跡がない街並みを眺めた。
俺がやったことなんてたかが知れているが、それでもこの街が無事だったことだけは俺が誇っていい唯一の成果なんじゃないだろうか。
「それじゃあ皆、行くか」
仲間達に呼びかけて、俺達は一旦自分達の家に戻るのだった。
なんと呼ばれようが、俺がやることは変わらない。
元の世界でも異世界でも、人を助けることに理由なんていらないはずだ。
俺はそう思っているし、今後も変わらない信念として掲げよう。
その結果がきっとこの異世界の創造した神、俺達をこっちに喚んだ張本人にとっていいモノになるはずだ。
少なくとも今俺の周りにいるヤツらが笑顔ならそれでいい。
神たるゼウスに目をつけられたこともあるし、今後も続けられるように頑張らないといけないな、と。
そんなことを改めて思いながら、俺は一歩一歩歩み進めるのだった。
m(__)m




