余計な手出し
お久し振りですが、重要なお知らせがあります。
今書いている話が終わったら、本作を一旦完結とさせていただきます。打ち切りのような形での終わりとなってしまい、大変申し訳ありません。
※本日一話目
「グラビティ・デス!」
突如現れたゼウスVS異世界から来た英雄、ハヤテとそのペット、ヘラの戦いが開幕した。
その初っ端。ヘラがゼウスに向かって、先程魔界からやっていたベルゼブブの軍勢半数を壊滅させた魔法を放った。……開幕グラビティ・デスとか、容赦ねえな。いくらゼウスでも直撃受けたら死ぬんじゃないだろうか。
――と思う時期が俺にもありました。
「ウゼえ」
たった一言、そう表現して、黒い球体を左手で握り潰した。もちろん、ゼウスは無傷だ。
ゼウスと言えばギリシャ神話の主神だ。もちろん俺達の世界での話ではあるが、ある程度準えているのであれば、その肩書きに相応しい力を持っているはずだ。
ハヤテは右手に持ったゼウスの剣を構えて飛ぶ。ゼウスは脱力した余裕のある構えで迎え撃った。
ハヤテの速度は相当なモノだったが、振り下ろした剣を全く同じ形状をした剣が阻み鍔迫り合いをした。
ただ鍔迫り合いをしただけで、神の力の一旦を担う神器だからなのか二本の剣から雷鳴が迸る。
ぶつかり合う強大な魔力が大気を震わせ、俺達には全く関係ない戦いが繰り広げられていく。
ハヤテとヘラの強さは本物だ。それは間違いない。ヘラも神なのだからゼウスにだって届き得るはずだ。
だがあいつは、あのチャラ男は主神ゼウスというだけの男ではない気がする。
現にハヤテとヘラの全力の猛攻を、にやにやした笑みを消さずに対処していた。まだ余力を残しているのは間違いない。なにしろヘラは本来の姿に戻っているが、ゼウスはラフな格好だ。まさかあれが本来の姿とは言うまい。
「……」
ハヤテは無表情ながらに感じることがあったのか、攻撃の手を止めた。
「なんだよ、もう終わりか?」
ゼウスはがっかりした様子で言う。
「つっても、逃がす気はねぇがな。てめえは四肢斬り落とした上でヘラが俺のモノになる様を見てもらわなきゃなんねぇからよ」
「その時ヘラはお前のモノじゃなかった。今は俺のモノだ。人様のモノ取ったらダメだって習わなかったか?」
「生憎クソジジイはんなこと教えてくれなかったぜ? それとヘラは最初から俺のモノだ、ガキが。『ヘラはゼウスの妻』っていう、なににも変えがたい真理があるだろ。てめえの感じてる支配欲や独占欲は全てまやかしだ。世界が持ってる真理はねじ曲げることができねぇ。だからお前は俺を殺したいんだろ? ヘラを名実共に自分のモノにしてぇんだ。お前がわざわざわかりやすい姿で散歩なんかしてるのも、周知させるためなんだろ? てめえは、俺にヘラを奪われるのが怖いんだ」
挑発的な笑みでもって語るゼウスに対して、ハヤテはゆっくりと口を開いた。
「……一つだけ、訂正させてもらう」
静かな声でそう言うと、ヘラが「言い返してやってくださいご主人様」と声援を送る。
「散歩は完全に趣味だ」
「流石ですご主人様!」
真面目な顔でなにを言っているのか。そしてその隣のヤツはなんで悦んでいるのか。
ツッコみどころは多々あったが、どうも俺が見るにハヤテとヘラ以外のヘラのパートナーが思い浮かばない。それしか見てないというのもあるだろうが、二人の相性は良さそうだ。
「……ふざけてんのか?」
「真面目に答えたつもりだ。お前がいくら挑発しようが俺のやることは変わらない。なら理由なんてどうでもいいだろう。俺はお前を殺す、そう決めた」
苛立ちを隠さないゼウスに対し、剣の切っ先を向けた。
「なら、この場で呆気なく殺してやるよ!」
「やってみろ」
そして、再度ハヤテとゼウスが激突する。ゼウスの更に高まった魔力がハヤテの雷を押し返した。
すかさずヘラの重力がゼウスを襲うも、動きを緩めることすらできず追撃を許してしまう。
「どうしたよ!」
ゼウスは笑いながら剣を雑な手つきで振った。素人目にもわかるくらい素人のような、力任せの一撃だ。
剣で受けるハヤテだったが、そのまま押し込まれてヘラの下へと吹き飛ばされる。ヘラは彼の身体を受け止めるが、そんな二人へとゼウスが肉薄していた。
右腕を横に開くと、魔力の集中に応じて晴天から刃へと落雷する。振るわれる剣の軌道に応じて雷が湾曲していった。
「おら、よっ!」
景気良く振るわれた剣と同時、空間に亀裂が走るほど特大の雷電が放たれる。視界が真っ白になり、目を瞑っても赤色が感じ取れた。
「っ……!」
魔力を感知してから目を開けて二人の姿を探す。ハヤテは無事だったが、ヘラの右腕が黒く焼け焦げていた。
「ま、この程度じゃ死なねぇよな。だがよ、ヘラ。てめえ、弱くなったな? そんな軟弱男にかまけてるからだ」
「私を悪く言うのは結構よ。でもご主人様を悪く言うのは看過できないわ」
睨み合う神と神。
それをぽかんと見上げる無関係な俺達。
……うーん、どうしよっか。
正直なところ、関係ないのでこのアンドゥー教教祖が作った空間から抜け出してもいい。家に帰っても文句は言われないだろう。
なによりあの二人の醸し出す雰囲気が、「こいつは俺達の獲物だ」と告げてきている。男の勝負に手出しするわけにはいかないが。
「このままだと負けるわね」
フィネアが俺の思考を先読みして口に出した。
「当然だな。あれは化け物だ。俺が全盛期に全力で戦っても、勝てる見込みは薄い」
鷲の姿になっているグランが賛同した。俺も同意見だが、まさかこのまま殺されるのを見ているわけにもいかない。
「間取って、撤退してもらうか。皆、余ってる魔力回復薬があったらくれるか?」
「あの戦いに手出しするなんて流石はご主人様ですね」
「……貶してないだろうな、アーティア」
「全くの誤解ですよ。私達はご主人様を信じていますから」
そうにこにこと微笑まれては言及もできない。
仲間達から差し出された魔力回復薬を受け取りつつ、作戦を考える。
無闇に手を出しても意味はない。ゼウスにとって俺なんて手で払うのさえ煩わしい小さな虫程度の強さだ。それこそ雑魚一人が加わったところでと嘲笑され、呆気なく殺されてしまうだろう。
ならばどうすればいいか。
要は威嚇をすればいい。自分を大きく見せて、手傷を負わせて、お帰りいただく。……それが難しいんだけどな。
一応俺の頭の中にある案は、皆から貰った魔力回復薬で事足りる。
まず驚かせて、隙を突いて、片腕の一本でも貰ってやる。
そのためにはハヤテとヘラの協力が不可欠だ。俺一人でゼウスを圧倒することはできない。
だがある程度の案は出来上がった。
「……じゃあ、余計な手出しをしにいってくる」
仲間達に言って、不敵な笑みを浮かべた。




