ジ・アース
俺は六人に時間稼ぎを頼み、第五術式を機動させて魔力を溜めていく。
後方の空にいて、腕を曲げて手を腰ぐらいの高さに構え、魔力を両手の間に溜めていく。使うのは火、水、木、土、雷、氷、風、光、闇。名前は今も考え中だが全部の属性を使った最強の一撃だ。これで倒せなかったら俺には打つ手がない。七人の要望もあってこれでも無理なら俺はアンドゥー教始祖のところに行くことになっている。
「はあああぁぁぁぁ!」
フィネアが勇ましい声を上げて剣を一閃する。余程の力が込められていたんだろう、カオスはそれだけで綺麗に両断された。
蒼い炎と紅蓮の炎が追撃をかけ、銃弾が襲う。さらには隕石が落下し、ドス黒い波動が放たれる。
一斉攻撃だった。もちろんカオスが一欠片でも無事ならすぐに再生するので、倒すには至らない。……マジで俺いなくても良かったんじゃないかって思うんだが。
「イイイイイイィィィィィィリイイィィィィ!!!」
カオスが奇妙な叫び声を上げて、さらに硬化したんだろう、アーティアの放った斬撃を弾いた。
「……どれくらい硬くなったのかしら!」
フィネアが楽しそうに笑いながら言って斬撃を放つと、再びあっさり切り裂かれたカオス。斬られては再生して叫び、斬られては再生して叫び、を繰り返すこと十回くらい。
「……イイィィィアアァァ」
カオスは叫ばなくなった。叫ぼうとはしているみたいだが、弱々しく声を上げるだけで強化はされない。
「……あら。もう強化終わりなの? まあ仕方ないわよね、私に斬れないモノなんて存在しないんだから」
汗一つ掻かず余裕そうなフィネアが言った。……フィネアがカッコ良すぎる。まあ確かにフィネアはカオスを倒せないってだけで強さ的には同等以上なのかもしれないが。
「……イリイイイイイィィィィィ!!」
だが硬化以外の強化を、カオスは発動する。触手の数を二倍に増やし、速度を上昇させ、なんと魔法も使ってきた。……相変わらず属性攻撃には弱かったが。
それでも、仲間達は倒せない。
いつの間にあんなコンビネーションを身につけたのかリフィアとナティアがそれぞれの炎で触手を焼き払いつつ攻撃している。リフィア特有の神器投げとナティアの凍える炎により、カオス本体にもダメージがいく。
真の姿を露わにしたグランは高速飛行しながらカオスの触手を避けて弾幕を浴びせている。
同じく真の姿を露わにしたディメスは以前と違って黒が混ざった白の竜になっていて少しスマートになった気がするが、カオスが放つ魔法を全て一人で防御している。その合間に攻撃しているんだから相当強くなったんだろう。どこか清々しい顔をしていた。
メティは相変わらずメティのままだが要所要所でカオスに重力を加算して動きを鈍らせたり、顔をブラックホールで抉ったりとカオスの気を逸らし続けている。
皆、強くなって戻ってきたというのに、俺は相変わらず足を引っ張るばかりだ。
「……俺も、たまにはいいとこ見せないとな」
苦笑しながら、魔力回復アイテムを使って九属性を溜めていく。凝縮してさらに溜め、また凝縮する。それを繰り返して高密度のエネルギーを生み出すのだ。
「……あとは名前だけか」
仲間達の戦いを見ながら、俺は二本の魔力回復アイテムを使い作った超高密度のエネルギー球の名前を考える。……術式の厄介なところは想像力だけじゃなくてネーミングセンスも必要だってことだよな。
雷脚とか雷拳とか炎柱とかなら簡単なんだが、九個も使ってるからな。まんまだと火水木光土氷風雷闇球とかになるし。順番は兎も角そのまんまだとカッコ悪いし、長い。
「……う~ん」
悩むな。地球玉とかだと結構カッコ悪いし、ジ・アースだと片仮名だから発動出来るか分からないし。でも全部が混ざってるのって地球ぐらいしか思いつかないんだけど。でも魔法なら地球なんて出てくるハズもないしな。……一回ジ・アースで試してみよう。
「……下がれ!」
俺は仲間達に命じる。……発動してくれよ。
「……ジ・アース!」
俺は全員がカオスの近くから退避したのを確認して両手を突き出すようにして放つ。無事、放たれた。
ゴゴゴ……、という触れてない触手まで小さなダメージを与えるその白い球体は、ゆっくりとカオスに向かって放たれる。
「……イイイィィィアアァァァァ」
俺の全魔力三回分が込められた球体が迫るのを見て、カオスはジリジリと逃げようとする。だがカオスは移動出来ないのか、身体だけが逃げようとしているようにも見える。
「……当たる前に全触手を切り落としてくれ!」
俺は両手を突き出したまま指示する。万が一の場合を考慮してのことだ。
「……斬るなら任せなさい」
「了解です!」
フィネアとアーティアが当たる直前になって、全ての触手を切り落とした。
「……くらえ」
俺が呟いた数秒後、着弾した。白い爆発が、カオス全体を覆う。音はない、と思えば後からやってくる。おそらく雷と光の効果だろう。熱気と冷気と暴風が吹き荒れて思わず顔を顰める。これで倒せなかったら俺には無理だ。
「……なっ!?」
倒せてくれ、と願うも虚しく、小さな肉片が残っていた。……何であれだけの爆発に、見た目以上に内部へのダメージが多い爆発に耐えられるんだ!?
俺が驚愕している間にも、カオスは再生していく。俺は魔力を切らしているので追撃出来ず、墜落していく。
「……ご主人様!」
アーティアがキャッチしてくれて、カオスの肉片を他の皆の一斉攻撃が襲う。だがもう遅い。再生し続けるカオスの肉体を完全に消滅させることは出来なかった。
「……おそらくドーム状に硬化の層を作ったんでしょう。硬いのと柔らかいのを交互にして衝撃を逃がしたとか」
だから落ち込む必要はないとアーティアは頭を撫でてくれる。優しいヤツだ。
「……ではご主人様、予定通りここは私達に任せて先に行って下さい」
「……ホントにいいのか?」
あれで倒せなかったとなると、俺には打つ手がない。だがこのまま皆に任せても倒せるか分からない。
「……当たり前でしょ? ご主人様に見せてない力もあるんだから、何とかなるわよ」
アーティアではなくフィネアが頼もしいセリフを吐いた。いつの間にか全員集まっていて、失敗した俺に微笑んでいた。心配する必要なんてないと。
「……じゃあ魔力回復したら行くか。そろそろケリ着けなきゃだしな」
「頑張って下さい、ご主人様」
「ご主人様なら出来るわよ」
「信じています」
「が、頑張って下さいね」
「生きて戻ってきて」
「ふん、精々頑張ることだな」
「お兄ちゃん、信じてるからね」
苦笑して魔力回復アイテムを飲んでいると、アーティア、フィネア、ディメス、メティ、ナティア、グラン、リフィアの順で口々にそんなことを言った。……お前達、俺を泣かそうとしてるのか。
「……おう。じゃあちょっといってくるわ」
俺は軽く言って、風術式を使いカオスの背後にある階段へ向かった。
「……邪魔させないわ」
階段の上っているとそんな声が聞こえて振り返ると、触手が俺を追ってきていて、フィネアがそれを斬っていた。……フィネア様様である。
俺は十二階層へ続く階段を一気に駆け上がった。……もう魔物やカオスみたいなのがいないことを祈って。
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