残留組の死闘
遅くなりました
読めば分かると思いますが、まだまだ続きます
「カグツチ!」
三階でシューヤ達を送り出すため残ったリフィアは、炎の神カグツチと契約したことで得た魔法を使い、黒炎で周囲の魔物全てを焼き払った。
その中には攻撃力はかなり低いが防御力が半端じゃない程高い最強種の魔物がいたのだが、さすがは神の魔法。あっさりと焼き払った。
リフィアのように神と契約して使う魔法、アンドゥー教司祭のように神から授かった魔法、神自身が使う魔法など、その他の生物では一回使うだけで魔力がなくなってしまうという超絶魔法を総じて、神魔法と言う。
しかもリフィアが使ったのはカグツチそのままの名前が使われているモノで絶大な威力を誇る。本来ならこの階にいる全ての魔物を焼き払えるのだが、リフィアは意図的に加減した。
それは今も縦横無尽に階の中を駆け回り、神や魔物と何重にも契約を重ねているリフィアでさえ霞んで見える程の速度を続けている、アーティアにあった。
ザッ、という音がしたかと思うと、その周囲の魔物が両断されている。そして両断された魔物が何故か吹き飛んでいった後、その近くでさらに魔物が切り裂かれる。そうやって殺戮の範囲を広げている何かは、ザザッ、という音と共に殺戮の道の先で地に足を着けた。
鮮やかな長い金髪も、愛用している私服ともいえるメイド服も、金色に輝く垂れ目も今は戦闘中故か鋭く細められている。手には透き通った水晶のような刃をしたナイフが一本ずつ握られている。
全てが、血塗れだった。
息を呑む程の美貌が鮮血に彩られている。……といっても彼女自身は無傷で、全て返り血であり、もっといえばすでに乾いているのがほとんどだ。
それはアーティアの能力にある。
倒した敵のステータスを全て吸収して自分のモノとする。
アンドゥー教が生み出した最高傑作の一つである。そんな彼女がアンドゥー教に自ら歯向かうというのは皮肉なものだが、その能力を惜しみなく発揮している今、魔物を倒す度に強くなるアーティアを、もうすでにどの魔物も目で追うことは出来なくなっていた。
さらに魔物を切り鮮血が飛び散ってアーティアにかかる前に、倒した魔物を踏み台に次の獲物へと向かっていく。
つまり、血はかからない。
まだその域まで達していなかった最初の頃にかかった鮮血がアーティアを赤く染めているのだ。
血が滴っているのは、両手に握るナイフからのみ。
血飛沫を避けたとしても、血が付着する前に刃を抜くまでの域には達していないのだ。
「フレイム・サークル!」
リフィアはアーティアの大体の位置を特定すると、再度魔法を放つ。神魔法ではないが、強力な魔法である。いや、炎魔法の一つだと考えると、神魔法からすれば威力は弱いハズだ。だがリフィアの足元を中心に巨大な魔方陣が地面に描かれ、勢いよく吹き上げる炎の威力は、上位に位置する魔物達を焼き払った。
それは、使った者ごと、魔方陣上のモノを焼き尽くすことによる、命という代償を払って使うともいえる魔法だからだ。
……だが炎系の神と魔物の大半と契約したリフィアにとって炎とは、くらえば回復するような――食べたりはしないが――モノなのだ。
よってこの魔法による欠点はなくなり、ただ広範囲高威力の魔法となるのだ。
「……そろそろ、数が減ってきたかな」
リフィアは次々と襲い来る魔物の数がだんだんと減ってきていることから、このペースで倒し続ければ終わりが見えてくる、といった状況だった。
「……リフィアさん。数が減ってきましたね。一人でもいけますか?」
血塗れのアーティアがリフィアの下に降り立って尋ねた。
「……一人でも大丈夫ですけど、二人でやればもっと早いんじゃないですか?」
リフィアはいきなりそんなことを聞いてきたアーティアを警戒して目を細めて聞き返す。
「……そうですか。では、ここはお任せします!」
アーティアはそう言うと魔物達を狩りまくって手に入れた素早さでシュタッ、と姿を消す。
「はっ……?」
タン、という軽快な足音に釣られてそっちを見やると、アーティアが階段に着地したところだった。
「……それではリフィアさん。ここは任せます。私は先にご主人様の下に行ってくるので」
ニッコリと笑みを浮かべたアーティアはリフィアに軽く手を振ってから踵を返して階段を駆け上がっていった。
「なっ……!」
……抜け駆けされた!?
リフィアは驚愕を隠し切れなかった。
もちろんそんな暇を与えず魔物が襲いかかってくるが、そんなことよりも、である。
「……私より先に、お兄ちゃんのとこに駆け付けるとか」
リフィアは感情を言葉にしていく。
「許すと思ってるの!?」
ゴォッ! とリフィアの全身から紅の炎が吹き荒れる。
「お兄ちゃんの一番近くにいるのは、私なんだから!」
すぐにでもアーティアを追い駆けたいリフィアだったが、この場所に留まっている理由を忘れはしなかった。
魔物が無限に発生でもしない限り、魔物を全て片付けてからここを離れる、魔物を全て引き受けてシューヤが通る道を作るというのが、全員一致の考えである。
「……なら、一秒でも早く全滅させて、お兄ちゃんの傍に!」
リフィアの全身から放たれる紅の炎が、階全てを焼き尽くす。
「……」
リフィアの放った炎は残っていた魔物全てを焼き払ったが、リフィアはここからが本番だということが分かっていた。
空間を割って這い出てきたのは、金色の巨大な鳥。神々しささえ感じさせる風貌に、感情のない空虚な瞳をしている。
「……フェニックス……?」
リフィアは呆然として大きく翼を広げる神々しい姿を見て呟く。
「……いや、違う?」
リフィアはどこか違和感を感じ、その正体を確かめるために、炎での加速をかけ巨大な鳥に向かって高速で突っ込み、炎を纏った拳を腹部に叩き付けた。
「……」
叫び声もなく、されるがままに吹き飛ばされる巨大な鳥の腹部は、いくらフェニックスといえど貫けてもおかしくない程の威力を持っていたのだが、毛皮が剥げるだけに終わった。
「機械!?」
毛皮の中身が鋼色の、生物では有り得ない物質があったのだ。
……もしかして、アンドゥー教が作った人工フェニックス!?
リフィアの頭に、一つの推測が浮かんだ。
フェニックスとは、炎系統、鳥系の魔物の中でも最強の魔物であるが、異世界人にリフィアより前に契約した者がいたためリフィアは契約していない。フェニックスの最たる特徴は、その再生能力。最強であるため破壊の象徴でありながら、その身体の大半を失っても死ぬことはなく再生し仮に死んだとしても卵となって転生する再生の象徴でもある。別名不死鳥と呼ばれる程に優れた再生能力を誇る。
「……炎とは、愛。って言ってたけど、ただ利用されるためだけに作られた機械の炎なんて、生命をバカにしてる……! そんな炎で、私の邪魔を、しないで!」
何事もなかったように起き上がり羽ばたく人造フェニックスに再び突っ込み、先程の何倍もの威力で機械剥き出しの腹部を殴り、ぐしゃりと潰した。
「……」
人造フェニックスは再び吹き飛ばされ、しかし起き上がる頃には毒々しい紫色の肉が潰れた腹部を担っていた。
「……フェニックスも、生命も、バカにしすぎよ! 何より私のお兄ちゃんへの道を阻む者は、何人たりとも許さない!」
リフィアは怒りを露に拳を胸を前で突き合わせ、人工フェニックスに向かって突っ込んでいった。