蒼炎帝の過去
遅くなりました、すみません
五階にて蒼い炎の鬣を持つ獅子蒼炎帝・フレイオスと赤い炎の鬣を持つ獅子炎帝・フレイオス三体が死闘を繰り広げていた。
戦いが始まって数分が経過し、三体を相手に戦っている蒼炎帝・フレイオス――ナティアミゼルに疲れが見え始めていた。
戦いは苦しいが、不思議と気分は楽だった。
蒼い炎と赤い炎でフィールドが燃え盛っている中、炎で勝るナティアミゼルに対し、爪や牙での攻撃を仕掛けている。元々の仲の良い三体は連携が取れているため、それを炎で払おうにも体力を使い、炎で攻撃するため炎の魔物には効果が薄いということもあって攻撃を避けなければならない場面が出てきて、苦戦を強いられていた。
そんな戦いの最中、ナティアミゼルは苦しさの中に嬉しさを感じつつ過去を振り返っていた。
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ナティアミゼルは炎帝・フレイオスの群れの一つで生まれた。
この世に生を授かった――のはいいが、ナティアミゼルは他の炎帝・フレイオスと同じように生まれつき鬣を持っていた。そこまでは普通なのでいいのだが、その炎の鬣が蒼かったのだ。
生まれたばかりで親に甘えたかったナティアミゼルはしかし、蒼い炎の鬣を持つことで実の両親から見捨てられた。
両親から捨てられ絶望したナティアミゼルはしかし、鬣を隠し鬣を持たずに生まれたと偽って他の炎帝・フレイオスの老夫婦に居候させてもらうことで生きてきた。
より正確に言えば、ナティアミゼルは生まれたばかりで蒼い鬣を持ったため親から見捨てられたと本能で理解し、無意識の内に鬣を消して幼すぎるので独りでは生きられなかったのだが、森で倒れているところを老夫婦に拾われた、という経緯なのだが。
炎帝・フレイオスの社会にも、学校というモノは存在する。とはいっても子供から大人になっていく過程で戦う術を身に付ける程度の、十年間だけだが。
ナティアミゼルは学校に通える年齢になってからも鬣を隠して過ごしていた。幼い頃の記憶が薄いのはもちろん、親に見捨てられたことがトラウマとなって無意識の内に抑制していたこともある。
学校では鬣がないことを理由にいじめを受けた。
それでもナティアミゼルは、生まれたばかりで意識も曖昧なハズの、両親の怯え切った表情が頭から離れず、いじめを受けても鬣を決して出そうとはせず、十年間を耐え抜いた。
学校を卒業してからも、いじめは続いた。大人へとなってもいいハズなのに鬣がなければ成人と認めることは出来ない。
「……逃げてもいいんだよ、ナティアミゼル」
ナティアミゼルの苦労を十年間、影で支え続けてきて、誰よりもナティアミゼルの苦痛を知っている老夫婦は、ある日ナティアミゼルにそう言った。
「……でも、まだ恩返ししてないし……」
逃げたい、という思いはあったが、幼い頃からずっと迷惑ばかりかけてきた老夫婦に何か恩返しをしたいという思いが強かった。
「……いいんだよ。今まで辛い思いをしてきたナティアミゼルが、幸せになることが充分な恩返しだから」
「……そうよ。子供が出来ない私達に本当の子供のようにしてくれたのが、一番の恩返しなのよ」
「……おじいちゃん、おばあちゃん……っ!」
老夫婦の優しい言葉に、ナティアミゼルは涙を流し老夫婦に抱き着く。三体は別れを充分惜しんだ後、旅支度を整えたナティアミゼルが、家を飛び出し群れを飛び出し、未知の世界へと飛び出していった。
その百数年後。
ナティアミゼルは弱い魔物を狩って捕食し、立派に育っていた。しかし、今は息を荒くし全力で森の木々の間を走っていた。
「待て、貴様っ! 喰わせろ!」
ナティアミゼルが逃げ、ナティアミゼルを追っているのは蒼いドラゴン。木々を薙ぎ倒して滑空してくる。氷のドラゴンでもかなり強い部類に入る最強種の魔物である。
長年の狩猟生活で蒼い鬣を出しているナティアミゼルだが、ドラゴンに勝てないことぐらい分かる。
すでにいくつもの傷を全身に付けられ体力も魔力も空に近い。死を覚悟したその時だった。
「はははははっ! よもやこんな場所でドラゴンと出会えるとはな! 俺と、戦え!」
楽しそうな声が上から聞こえて蒼いドラゴンが押し返される。
「ぬっ! 邪魔をするな、ワイバーン風情が!」
ナティアミゼルがチラリと後ろを振り返ると、ドラゴンに劣るハズのワイバーンが、同じくらいの体格だというだけでも驚きなのに、蒼いドラゴンが滑空を邪魔されていた。
「ふはっ! そんなこと知らんな! 俺と戦え!」
巨大なワイバーンはドラゴンを容赦なく翼に付けたガトリングで狙う。
……何か分からないけど、助かった……。
ナティアミゼルはホッとしながら森を駆けていく。
だがその先にも新たな魔物がいた。しかもまた格上の魔物だ。
ナティアミゼルは慌てて右に逸れる。
だがすでに時遅く、目の前に現れた巨大なゴリラのような魔物の右腕に薙ぎ払われ、右に吹き飛んでいく。
ナティアミゼルは知らなかったのだが、右側は急な下り坂になっているのだ。
「っ!」
そのせいで、吹き飛んだままゴロゴロと、木にぶつかり枝に傷付けられ、下り坂を転がっていく。
数秒にも数分にも感じたその時間で、ナティアミゼルは全身傷だらけ、意識も霞んで満身創痍の状態だった。
……上位の魔物なんて、嫌……。
死を目の前にしたナティアミゼルは、上位魔物への恐怖を叩き込まれた。
「……何だ? 魔物? うわっ、傷だらけじゃないか。大丈夫か?」
そこへ、ナティアミゼルを心配するような声が聞こえた。
……誰……?
ナティアミゼルは横たわりながら薄く目を開け、声をかけてきた人物を見る。ナティアミゼルは初めて会ったが、これが人間だということは分かった。
「……酷い傷だ。手当てするから、近くの川まで来れるか?」
本気で心配しているような口振りに、ナティアミゼルは意識がぼんやりしていることもあって、その青年に導かれるまま、満身創痍の身体に鞭打って起き上がり、歩く。
「……そうだ、頑張れ」
後ろ歩きでナティアミゼルを誘導する青年が、こんな魔物の多く出る森の中で私服に近い装備だったことに疑問を感じなければならなかった。
「……この先だ」
青年は横に移動しナティアミゼルに道を譲る。
「……」
ナティアミゼルはボーッとした頭で歩いていき、青年の横を通り過ぎた時、
「っ!?」
地面から網が浮き上がってきて、全身を覆われた。
「ははっ! 引っかかりやがった! 魔物ってのは知能低いんだな! おい、てめえら。出てきていいぞ。こいつは珍しい。炎帝・フレイオスの突然変異だ。売れば一生遊んで暮らせるぞ!」
先程までナティアミゼルを心配するような顔をしていた青年は、ナティアミゼルを見下していた。
……人間、殺す……っ!
その出来事は、人間を信じられなくするには充分だった。
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その後、奴隷として売られたナティアミゼルは人間と上位魔物への恨みを強くしながら、長い時を過ごした。すでにどれくらい経ったかも数えていない。
そんな中、とある集団が来たのだ。
人間と上位魔物数体。そんな恐怖と恨みの対象が集団で来て、しかも自分を買うと言うのだ。反抗もする。だが圧倒的すぎる強さを感じ、怯えた。そんなナティアミゼルに優しくしてくれて、罠かと思い慕うフリをしたものの、いつまでも優しくそして、親にさえ見捨てられた自分を受け入れてくれた。
シューヤという異世界人らしい少年だ。
ナティアミゼルはシューヤの下で幸せを見つけた。その幸せを逃さないと時折暴走してしまうこともあるが、シューヤはそんなナティアミゼルも受け入れてくれた。
そのシューヤという少年のために、自分は今戦っている。そのことに嬉しさを覚えている自分がいた。
「……昔の恨みはどうでもいい。けど、ご主人様の邪魔は、させないっ!」
より一層強く、蒼い炎と吹雪が吹き荒れる。
「嘗めんじゃないわよ!」
学校から卒業後まで、ナティアミゼルを苛めていた主な三体。その一体がナティアミゼルに単体で突っ込んでくる。それをチャンスと見たナティアミゼルは、振るわれた爪を避けると、犬歯が大きく尖った牙で、その一体の喉元に噛み付く。
「っ……!」
「させない!」
深々と突き刺さる牙に、一気に瀕死状態へと追いやられる一体を援護するため、もう二体が突っ込んでくる。
ナティアミゼルは首を振って遠心力を使い、牙を放して二体の方へ投げる。
「このっ!」
一体がやられ、逆上したもう一体が勢いを殺されつつも突っ込んでくる。
「……ガアアアアアアァァァァァァァ!!!」
ナティアミゼルは大きく咆哮し、蒼い炎でその一体を焼き尽くす。
……私は、負けない!
ナティアミゼルの心には、シューヤという人間が深く刻まれていた。




