カオス出現
遅くなりました
「……ハッ……ハッ……!」
俺は息も切れ切れに、階段の途中で壁に手を着いて休憩していた。
何とか十階を突破したものの、魔力回復アイテムを数個使ってしまった。忙しくて数は数えてないが、残りが十三個なので七個使ったハズだ。
魔力が上がったとは言っても、俺の戦い方じゃあ高位のモンスター相手に持久戦は無理だ。
「……次がカオスか司祭じゃなきゃ、魔力回復アイテムが切れてジ・エンドだな」
首謀者を倒さなきゃならないってのに、その前に魔力が尽きて負けることになる。
「……そんな情けない真似は嫌だよな」
俺は自嘲気味に笑う。
「……」
……これで十一階、か。もうモンスターの群れとかは止めてくれよ?
俺は内心でそう願いながら、十一階への最後の階段を上がる。
「……っ」
十一階へ上がったと同時、禍々しい魔力を肌に浴びた。
「……カオス……!」
俺はそれを睨み上げて呟く。
禍々しい魔力とそれを具現化したような禍々しい姿。
……久し振りに見た気がするが、相変わらず嫌な見た目と魔力だ……!
全身を這うような、舐め回されるような魔力。怖気が止まらない。毒々しい紫と黒で出来たドロドロの身体と、そこから生えるいくつもの触手。どんな攻撃をしてくるのかは兎も角、油断出来ない相手だ。今の俺じゃあ到底敵わない程の魔力をしている。
「……やってやろうじゃねえの!」
自らを鼓舞するように叫び、
「……第一術式、発動。第二術式、鼓動。第三術式、起動、第四術式、発生!」
一から四までの術式を使う。……本気中の本気、いくぜ。
「闘鬼術式!」
さらに紫のオーラを纏う。
「……聖炎術式!」
さらに白い筋を全身に走らせる。
……こんな外見だし、光とか聖の属性が効くと思うんだが、安易だろうか。
「いくぞ! 聖炎拳群!」
俺は吼えると、白い炎の拳をいくつも放つ。白い炎の拳はカオスの身体に直撃し、消し飛ばす。
……これだけでかけりゃいい的だ。
一気に三分の一を消し飛ばせたことで、俺の心に余裕が生まれる。
「……ア、アアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!」
カオスは苦しそうな声を上げる。……耳がキンキンするくらいのでかい声だ。
「なっ!?」
そして俺は驚く。消し飛ばしたハズの身体の欠損が、治っていたのだ。……再生能力……! 第四術式程ではないにしろ、マズいな。これくらいになるとこいつの全てを一瞬で消し飛ばさないといけなくなる。
「……っ!」
カオスは攻撃をくらって俺を明確な敵と判断したのか、触手を一斉に伸ばしてくる。
……かなりの速さだ。だが、今の俺ならいける!
「――」
俺は迫り来る触手に対し、心を落ち着けさせて拳を構える。
「っ――!」
全部叩き落とす!
俺はカッと目を見開き、触手全てを殴り飛ばした。
「っ!?」
だが先端部分が消し飛んだ触手達は、カオスの悲鳴なしに高速で再生し、再び襲いかかってきた。
「くっ!」
触手の太さは半径で一メートル程。それでかなりの速さで振るわれるのだ。一瞬でも気を抜けば、重い攻撃に捕まって防戦一方を強いられ、そのまま押し切られる。
「雷術式! 雷槍!」
俺は触手を迎撃しつつ、反撃を試みる。手足から放つようなモノでなければ魔法のように標準を合わせて放てるので、消し飛ばしても再生し続ける触手を迎撃しながらでも反撃出来る。
第二術式の効果で威力が底上げされた雷の槍はカオスの触手と同程度の規模でカオスの腹(?)向けて直進する。
カオスは防御しようとしたのか一本の触手を挟むが雷槍はあっさり刺し貫く。
「……そんな柔なモノで防げると思うなよ」
俺は触手が一本減ったことで少し楽に触手を消し飛ばしてニヤリと笑う。
「ウィアアアアアアアァァァァァァァァ!!」
カオスは再び叫んだ。
するとカオスの全身が鋼色に覆われた。……何だ?
「なっ……!」
何が起こったのかは、すぐに分かった。
雷槍がカオスに直撃したその瞬間、さっきの触手と同じように貫くということはなく、ぶつかってやがて、雷槍が消えた。
……硬化したのか!
もしかしたら雷槍の威力を一回貫かれることで確かめ、それに合わせて硬化したのかもしれない。そうだとしたらかなり頭の良いというか、俺がまんまと嵌まってしまったというか。
「……くそっ。どこに頭があるのかも分からない身体してる癖に!」
俺は吐き捨てるように言って同じく硬化したらしい触手を殴って迎撃しようとする。
「ぐっ……!」
俺は拳に痛みを感じ、呻く。……硬っ! なんて硬さだよ! 闘鬼で強化してるのに砕けないなんて。もしかしてさっきので俺の攻撃に耐えられる硬さに設定したのか? だとしたら面倒な!
防御力が上がっただけで攻撃力や速度は変わってないため、弾けたんだが。
「……闘鬼聖炎拳!」
俺は左拳に紫のオーラと白い炎を溜めて、フックの要領で薙ぎ払う。
するとさすがに触手は砕け散った。……中まで硬化していたのか。
「オオオオァアアアアァァァァァァァァ!!」
三度カオスが咆哮する。……今度は何だ?
カオスの体色が鋼色からドス黒い黒に変わり、触手の数が砕く前の倍に増えた。……嘘だろ?
「っ!」
カオスは触手を、今度は速度も上げて振るってきた。
「おおおぉぉぉ!」
俺は右拳に闘鬼のオーラと聖炎を溜め、最初に来た触手を殴る。
「がっ!」
すると、俺の腕が変な方向に曲がった。手で見るも無残にバキバキだし、腕は変な方向に曲がっている。すぐに元通りに回復するが、思わず右腕を押さえてしまう。
「くそっ!」
予想以上の硬さに、第二術式で強化した闘鬼と聖炎、第三術式で俺の能力を底上げしていたというのに、俺の方が打ち負けてしまった。しかも、俺が殴った触手は勢いを衰えず向かってくる。少し弾いたかな? ぐらいだった。
「……っ!」
俺は真正面から来た触手に対しかわせず両腕を交差することで防御の姿勢を取るが、腕はあっさりとバキバキに折れ、踏ん張りが利かなかったため後方へ大きく吹っ飛ぶ。
「……聖炎砲!」
吹っ飛ぶ最中に第四術式で腕が治り、迫り来る触手に向けて手を交差し前へ伸ばす。
そこから、白い炎の波動を放って牽制を試みたが、失敗。触手は怯むことなく突き進んでくる。
「……」
そしてすぐに、重く鋭い衝撃が四方八方からやってくる。
触手によって全身が蹂躙されるのを感じながら、必ずどこかを潰され声を上げることもままならず、第四術式で回復してもまた破壊が繰り返される中、俺は意識を薄っすらと残すボーッとしていた。痛みから意識を外すためだったのかもしれない。
触手の何ヶ所もの同時攻撃だったりがあってボロボロになった俺は、どしゃ、と地面に落ちる。蹂躙される中で、宙に上げられたんだろう。
「……」
第四術式の効果で再生し、蹂躙が終わったので俺の意識がはっきりしてくる。
……ああ、マズい。今の俺じゃあ、到底敵わない。まだ最初の段階なら一瞬で消し飛ばせたかもしれないが、このままじゃあ勝てない。何か物凄い技を思いつかない限り、勝てる気がしない。
カオスはどうやら、叫ぶことで何かしらの効果を得ているらしい。魔法とかそういうモノと似ているのかもしれない。
どっちかというと、再生などは俺の術式に似ているのかもしれない。一度発動したらその後も効果が持続する。
……あっ。そろそろ魔力が切れたか。急速に力が抜けていくのを感じる。
俺は地面から起き上がる気にもなれず、伏して倒れたままだ。
「ご主人様、起きてください。ご主人様が戦わなくてどうするんですか?」
クスッと笑っているような、この状況にはおよそ似つかわしくない声が聞こえた。
「……」
その声を聞いてこのまま倒れていようかと思い始めていた俺は、思わず顔を上げる。
そこには、俺を覗き込むようにしてしゃがみ込んでいる、何故か戦いの場でもメイド服を着用する人がいた。
背後にいるカオスのことなどお構いもせず優しく微笑み、長い金髪を風に揺らしていた。
次回からは置いてきた仲間達の話です




