決戦開始
朝露に湿った空気に肌を撫でられながらアンドゥー教本部へと向かう俺達。
そこに、人影が五つ待ち伏せするように佇んでいた。
「やあ、シューヤ」
その内の一人、金髪碧眼のイケメンが爽やかに微笑んで軽く手を上げ、俺を呼んだ。
相変わらずの金色鎧に金色マントと言う微妙なセンスをした格好だが、装着しているヤツがイケメンなだけに似合っている気がするのは悔しい。左腰に金色の長剣が下げてある。
戦闘スタイルはよく知らないが、魔力がそこそこなので魔法剣士と言う感じだろうか。まあ勇者目指しているくらいだから、そんな感じだろう。
「おう」
俺はその俺と同じ異世界人ーーミランに対し軽く応えるだけに留めた。
金属鎧で筋肉隆々のゴツい身体を覆う大柄の無精髭のおっさんは、背に二メートルはある斧を背負っている。ミノタウロスのミノスと言う。
黒いローブととんがり帽子に、一メートル程の木の杖を持った魔女風の美人は、ブラックウィッチ・ウィザードドラゴンまたは黒魔女竜と言う、ウィネスニア。
白い法衣を着た白髪白眼の美人で、背に二メートルはある棍を背負っている。穏やかな雰囲気を纏う彼女は、白蛇と言う蛇系モンスター最上位に位置するらしいモンスターの、ツァイトリネ。
もう一人は知らない。きっとリフィアが抜けたので勧誘したんだろう。
黒い革の胸当てに脚に張り付くストッキングのようなモノ。何かの毛皮っぽいモフモフした黒い腰巻き。革の胸当ての下には黒いノースリーブシャツを着ていて、肩から真っ白で滑らかそうな肌が見えている。手には籠手を嵌めていて、見た目は完全に忍び暗躍する忍者か暗殺者。黒いスカーフで口元を覆っていて、両目と髪は濃い紫色の美少女だ。
「……紹介しよう。彼女はリフィアの代わりにパーティに入った暗殺毒鼬、リークアーネだ。暗殺者か忍者か盗賊かな」
勇者一行に盗賊でいいのか? 一番は忍者だろう。
「……」
リークアーネはじーっと俺を見つめていたが、何も言わなかった。……何だよ。
「……来てくれてありがとな」
俺はとりあえず、ミランに礼を言っておく。
「別に礼を言われるようなことじゃない。俺は勇者を目指す身として、助力を尽くすのみだよ」
ミランは首を振って爽やかに答えた。
「……そうか」
俺は仄かに笑って言ってから、
「……じゃあ、いっちょ共闘といくか」
顔を真剣なモノにして言う。
俺の声に反応するようにいくつもの魔力が出現する。
モンスター達だ。
まだ雑魚、ゴブリンやオーガなどしかいない。ヒヒヒ、と笑っていることから人工魔物に乗っ取られたのだと推測する。……俺の時とは違い、完全に一体化しているようだ。二つの魔力が混ざり合った妙な感じだ。
「……ここで出てくるか」
ミランは険しい顔をして長剣に手をかける。
数は百ぐらい。俺の仲間なら一人で余裕だな。
「……炎術式」
空気が張り詰めていく中、俺は左腕に赤い筋を走らせる。……モンスター達はいきなり、地面から這い出るように現れた。おそらく、あいつもいる。
「……シューヤ?」
「……炎網」
俺はミランを無視して技を発動させる。左腕から一筋の炎が放たれ、一体の魔物に当たって、燃やす。
その燃えている魔物からさらに周囲の魔物に向けて炎の筋が放たれ、燃やしていく。
それが繰り返し起こり、遂には魔物達を全滅させた。
「……ま、こんなもんか」
俺は魔物達が燃え尽きて鎮火されていく炎を見ながら言って、何事もなかったかのように歩き出した。仲間達は当然のことなので特に驚きもなくついてくるが、ミラン達は少し唖然としながらボーッとしていた。
「……凄いな。これが術式……」
「……術式は使い手が技を考えられるモノだからな」
ミランの驚きに素っ気なく答える。……やっぱこういう善意だけで動けるヤツって苦手だな。少しくらいは欲望に忠実な方が信用出来ると思ってしまうのは、俺がちょっと変わっているからだろうか。
「……魔法にはないし、それを考えたことも賞賛に値するけど、数日でこれって……」
魔法の使い手として、ウィネスニアが驚きを持って俺を見る。……炎連鎖と迷ったんだが、こういうのは想像力の問題だ。俺じゃなくて、画家や漫画家だったらもっと有用性のある技を思い付く。
ここ数日で俺が考えたことは、いかに容易く多くの魔物を倒すか、だったからな。全体攻撃はお手のものって訳だ。
「お兄ちゃんならこれくらい余裕だよ」
リフィアが得意気に言って、控えめな胸を張る。
「……そうか。頼もしいな」
ミランは爽やかに笑って言うが、ミランの仲間は警戒するような視線を俺に向けてきた。……まあ、抱いているモノは末恐ろしい程度だろうが、俺の仲間達の強さは知っているので手出しはしてこないだろう。
「……ここからだな」
アンドゥー教本部があった場所には、瓦礫の山が築かれていた。……完全に崩壊している。人の気配や数多くいた人工魔物の気配もない。出払っているか、用済みだから消したのか。まあ前者だろうな。
瓦礫の真ん中から、光る階段が伸びている。その先には一番広大な地面があった。
……ゲームだったらだんだん強くなっていくんだろうが、始祖もそうしてそうだ。
あいつも異世界人だし、だんだん強くなっていく敵に苦戦しながらも上がってくる者達、と言うのを再現してくるかもしれない。
一歩、一歩。
辺りに魔物は見当たらないので、おそらくアンドゥー教全戦力とやらは上に集中しているんだろう。と言うことは、侵略するとしても階段を通らなければならない。だったらそう急ぐことはないだろう。
一歩、また一歩と近付いていく毎に緊張感が高まるのを感じる。
階段を上っていくと、広大な草原が姿を現した。
ただし、
「ケケケッ。獲物、エモノが来やがった♪」
人工魔物に乗っ取られたらしく喋った大量の魔物達が待ち構えていたが。
……奥に上に上がる階段があるな。やっぱここを突破して先に進めってことか。
「……お前らーー」
蹴散らして進むぞ、と言う前に、
「ーークッ、ハハハハッ! 久し振りに、全開でいけそうだ!」
一つの影が俺の前に躍り出て低い声で楽しそうに笑った。
ミノタウロスのミノスだ。大型の斧で、先頭にいた魔物を、片手で軽々と真っ二つにする。……さすがはグランの知り合い。戦闘狂だな。
「俺も加勢してやろうか?」
グランが俺の肩に停まったままミノスに聞く。
「クハハッ! 冗談キツいぜ、グランディア! この程度の敵、俺一人でも余裕!」
ミノスは本当に楽しそうに笑って、余裕だと言うことを見せつけるように、変貌する。
ミノスの姿が巨大化していく。グラン本来の姿と同じくらい、より高めの五メートル程。肌は肌色から浅黒い色へと変わり、筋肉隆々な体格はさらに増幅されている。身には金属鎧を纏っていて、それは緑色をしている。斧も巨大化していて、五メートル程の超巨大斧になっている。一番変わったのはその顔だろうか。人間だったのに、牛の頭になっている。牛の鼻、牛の目、牛の耳、牛の角。顔の骨格も牛のそれになっている。筋肉隆々でゴツい身体と比べると大分小顔だ。
「……ふん。人間の下にいて腕は鈍っていないだろうな?」
その姿に懐かしさを覚えたのかグランは楽しそうな笑み(?)を浮かべて言った。
「フハッ! グランディアてめえ、冗談言えるようになったようじゃねえか! 誰にモノを、言ってやがる!」
牛顔のままミノスは笑うと、荒い鼻息を吐いてその超巨大斧の一振りで魔物数体をまとめて両断した。
「ミノタウロスの王、俺の好敵手、ミノスにだ」
グランは血が騒いでいるのか、好戦的に魔力を放出し始めた。……あいつも王なのか。魔物社会、こんなに強いヤツが消えて大丈夫なんだろうか?
「ふんっ!」
ミノスは再び斧を振るう。それだけで応戦してきた魔物達は吹き飛び、切り裂かれる。
「……はぁ。あの戦闘バカは……。数を見なさいよ」
ウィネスニアが溜め息をついて頭を抱え、姿を変える。
黒い鱗を持つ、やや小柄なドラゴン。だがその頭には黒いとんがり帽子を被っていて、鍔を突き破るようにして黒い角が顔を出している。その右手には木で出来た杖が握られていて、魔女と言う感じがした。
「ブラックローズ」
ポツリと呟いて杖を軽く持ち上げ、タン、と地面に叩きつける。すると、黒い薔薇が無数に生えてきて、魔物達に絡み付いていく。
茨のトゲが刺さり、魔物達を締め付けて倒していく。
「……ここは私達が食い止めるわ。さっさと行きなさい」
ウィネスニアが言うと、他のミランの仲間達が前に出てくる。
「ではそろそろ私も、始めましょうか」
フフッと微笑んだツァイトリネが光り輝いて変化し始める。
その身体が巨大化していくと同時に、下半身が白い尾に変わっていく。髪は一房一房が白い蛇へと変わり、棍は下は普通なのに途中から何体かの白く細い蛇が絡み合ったモノに変わり先端部は蛇の頭が赤い水晶にかじりついている杖に変わっていた。
「……面倒」
ポツリと小さく呟いたリークアーネも姿を変えていく。
大きさは然程変わらないが、姿は変わっている。端的に言えば、人と同じくらいの大きさをした黒い鼬だ。艶ややかな美しい毛並みを持ち、しかしその尾は三本あり、長く先が刃のようになっている。その両手には黒い柄と黒い刃をした小刀が一本ずつ握られている。
「……ここは俺達がやる。シューヤ達は先へ進め!」
ミランも魔法を長剣に付与させて斬りかかっていく。
「……いいのか?」
この数なら俺達も加わった方がいいと思うんだが。
「ああ。これくらいで殺られる俺達じゃない。それに、もしここにさらに強い魔物が下りてくるようなことがあれば数に押し切られる可能性もある」
……なるほど。ミランもあれで考えているようだ。正直、見直した。
「……分かった。ありがとな」
俺達は走って上がる階段へと向かっていく。勿論素直に通させてくれるハズもなく、魔物達が立ち塞がってくるが。
「魔法剣・フレイム!」
鋭い声が聞こえ、炎が魔物達を焼き払った。
「……おぉ」
俺は感嘆の声を上げる。なかなか強い。
「行け!」
ミランが長剣に炎を纏わせて後押ししてくる。
俺達はお言葉に甘えて、開けた道を駆け抜けていく。再び立ち塞がる魔物達は斧で切り裂かれ、黒い薔薇に絡み付かれ、白い蛇に噛まれ、黒い影に八つ裂きにされ、炎に焼かれて倒されていく。
俺達はこの階では何もせずに上へと上がることが出来た。




