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英雄、やります(仮)  作者: 星長晶人
アンドゥー教編
48/85

決着

 シュウは忍者ばりの速さで走り、俺の懐へと足を踏み入れた。


 そのまま腹に右手で切りつけてくる。


 今までのやたらと首を狙ってきていたのとは違う。


 暗殺者は一撃必殺が常だが、戦いに来てると見ていいだろう。


「雷術式!」


 俺は迫るシュウの迎撃に雷術式を使おうかと思い、左腕に黄色い筋を走らせる。


「雷拳!」


 雷で巨大な拳を形取り、殴り付ける。


「遅えんだよ!」


 シュウはそれをギリギリで避けると、雷の余波で浅い傷がつくのもいとわず、後ろへ跳んだ俺を追うように一歩踏み込んで腹を切りつけた。


「……ぐっ!」


 鋭い痛みが走り、顔をしかめる。


「まだまだだろうが!」


 俺が着地したと同時、シュウがさらに踏み込んで、次こそは喉元へと刃を走らせる。


「紫電!」


 紫色の雷を放ち、シュウに直撃させる。向かってきていたシュウは回避出来ずにくらい、仰け反った。


「がっ……!」


「雷斧!」


 左フックと共に雷で出来た斧で切りつける。


「チッ! シャドウブレード!」


 シュウは舌打ちして魔法を使った。雷斧は地面から影が伸びてきて、それが刃となり切り裂かれる。


「っ! 影魔法か!」


 シュウの影潜りも影魔法の応用なんだから、使うのは当たり前だ。今まで使わなかったのは、おそらく手加減か余裕の現れか。兎に角、ここでの影魔法は強力だ。


「ご名答!」


 シュウが笑って言うと、俺は周りに魔力を感知した。


 さっきのシャドウブレードで発動しておいて、影で隠していたんだろう。影の刃がいくつも俺に向かって伸びてきていた。


「紫炎!」


 それらを紫色の炎で掻き消すが、その隙にシュウが突っ込んできた。


「こっちばっか気にしてんじゃねえよ!」


 シュウは言うと、無数の影の刃を出現させた。


「紫弾!」


 俺は前に跳躍して下のシュウに向けて闘鬼のオーラの塊を放つ。


「がっ!」


 シュウは避けられずまともにくらう。……痛み分けってとこか。


 俺がそう思った瞬間、後ろから無数の刃に刺され、痛みと言うよりは熱が俺を襲った。


 ……さて、どうするか。


 気だけでも大丈夫そうだが、気の消耗はどんな影響を及ぼすかが分からない。かと言っても、術式を使いすぎると魔力が切れてお陀仏だ。


「……第四術式、発生」


 俺はとりあえず、第四術式を使って傷を回復する。


「……雷術式、解除」


 発動していた雷術式を解除し、魔力の消費を抑える。……あとは気だが、限界がよく分からない。短期決戦で倒すか。


「……折角つけた傷をそんなにあっさり治すんじゃねえよ……」


 シュウが肋骨の辺りに手を当てて言った。口端に血が滲んでいた。……効いてるようだな。


「……っ!」


 俺は弱っているように見えるシュウに追撃するため、こっちから踏み込んだ。


「……チッ」


 シュウは舌打ちして、影の中に入ろうとする。……一時休憩する気か。


「させねえよ!」


 俺は左拳に紫色のオーラを溜め、振ると同時に波動として放出する。


「がっ!」


 アッパーのように下から拳を繰り出したおかげか、シュウは影に潜れていない上半身でまともに受けた。


「……どうにも分が悪い。しゃーねえ、か」


 シュウは傷だらけの身体で影から出ると、少し悲しげに笑って呟いた。


「……何が仕方ないんだ?」


「……いや、別に。……最後にしようぜ。男らしく、殴り合いでな! ーーシャドウバースト!」


 …シュウは笑って、何かの魔法を使う。闇と影がシュウの身体に纏っていく。……身体強化の魔法か?


 身体に作用される魔法は主に、身体強化と付与だ。この場合は両方の可能性もあるな。


 俺はそれに呼応するように紫のオーラを揺らめかせる。……魔法の強化は強化なしに比べると天と地程の差があるが、強化に特化していると言える気に勝てるとは思わない。……死ぬつもりか?


 ……いや。こいつのことだ。何かあるのかもしれない。


 殴り合いに応じないと言う手もあるが、そうすると、今度こそ勝負を捨てて逃走、または無力化されたあいつらを狙うかもしれない。……後者だと何とかなるが、前者だと厄介なことになる。


 それに、決着が分かりやすくていい。俺も男だしな。拳と拳で戦うのは大歓迎とまではいかなくても、そっちの方がいい。


「……分かった。行くぞ!」


 俺はシュウの誘いに乗り、駆け出した。


「おうよ!」


 シュウも正面から突っ込んでくる。


 そして間合いに入り、同時に踏み込んで止まる。


「「おらぁ!」」


 シュウの左拳と俺の右拳がぶつかり、闇と影の魔力と紫の闘鬼のオーラが衝突し衝撃を散らす。ボクシングで言う所のジャブに当たる。


 ぶつかって、互いに互いの拳を弾く。


「がっ!」


 呻いて、腕から鮮血を散らすのはシュウだ。俺はやはりこちらの方が上だったかと安心する。


「ぐっ!」


 だが、少し遅れて俺の右腕も鮮血を散らした。


 ……相打ち、じゃないな。気による負荷か。肉体に疲労が蓄積されているとか、そんな感じだろう。


「……相打ち、じゃねえな。明らかにてめえの方が強化は上。総合的な力もそっちが上だ。と言うことは、一つしかねえよな? ーー気による負荷」


 シュウは俺と全く同じことを考えていたようだ。


「……」


 俺は沈黙して無言を返すけ。無言は時に肯定ともなるし、今回は肯定の無言だ。


 ……第四術式で治らない。第四術式は一度発動すると、魔力が切れない限り傷を瞬時に回復していく。それが発動しないと言うことは、気による負荷でのダメージは肉体の治癒力さえも低下させてしまうのかもしれない。第四術式は超高速自己治癒能力、らしい。いかに術式と言えども、一から血肉を作ることは出来ないのか、俺が本来持つ治癒力を底上げする。それが、気と言う生命エネルギーのようなモノが消費され、著しく治癒力が落ちているとすれば説明がつく。ーーんだが。


 術式に不可能はないと言い切れそうになってきて、血肉を一から作ることなんて造作もなくないか? この推測で合っているかは非常に微妙だ。


「……回復しねえんなら話は簡単だ。俺の魔力も残り少ないしな。俺が殺られるのが先か、それともてめえが自滅するのが先か。男なら、こう言う喧嘩を楽しもうぜ!」


「……ああ!」


 俺は呼応して頷き、再び両者が間合いで踏み留まった。


 今度は全力の利き手だ。大きく振りかぶって同時に拳を叩き込む。だがそれは、さっきのように激突することはななく、頬を殴る結果となった。


 互いに仰け反るが、しかし退かない。


 俺はそこからボディへと右拳を放つ。対するシュウは素早く右拳を引いて、やや遅れながらも防御姿勢として腕を前に構えた。俺のボディブローはシュウに見切られ、左肘でガードされる。


「がっ!」


 俺は呻いて半歩下がってしまう。いくら強くしても骨にヒビぐらいは入ったと思う。


 だが、それは向こうも同じ。腹へのダメージの犠牲として、肘で受けたことにより支障はあるだろう。


 俺が反撃する前に、シュウの右拳が迫ってくる。反応が遅れ、左頬に直撃する。……口に鉄のような味が広がる。切ったか。


「おおおぉぉぉぉ!」


 俺は痛みを無視して左でボディに拳をめり込ませる。


「がはっ……!」


 耐えきれずシュウは吐血する。


「……くそ、がっ!」


 シュウは身体をくの字に折るが、顔を上げて俺を睨み、右拳で殴りかかってきた。しかも、俺に届くか届かないかのタイミングで左を構えていた。……連続でくるか……!


「っ!」


 一発目がガードしようと上げた左腕に衝撃をもたらす。そして、一発目が入ったら次、さらに次、と止まることのない拳撃の嵐が来た。


 ぐっ、お、おぉぉぉぉぉ!」


 俺はこのままでは防戦一方だと、覚悟を決める。


 歯を食いしばれ! 何発もらおうが、一撃を届かせる。


 俺はガードを下げ、拳撃の嵐の中、左拳に力を込めて大きく振りかぶる。歯軋りすう程に歯を食いしばり、足の爪先まで力を込める。


「……っ!」


 速く鋭い拳撃を無視し、強引に左腕を振った。


 そして、確かな感触があった。


 柔らかい中に固いモノがある、頬だ。


 振り切った、と同時、シュウは吹き飛んだ。壁に勢いよく叩きつけられ、力なく床に落ちる。……気絶したか?


「ぐっ!」


 シュウがピクリとも動かないことにホッと安心したせいか、気が抜けて全身から血が吹き出した。……ヤバいな。血が足りねえ。


『……はははははははっ!』


 突如、シュウの方から笑い声が聞こえた。しかし、シュウは相変わらず動いていない。機械を通したような、そんな声で聞き覚えがあった。


「……げほっ。アンドゥー教司祭、コケッティ・コケトリオⅧ世……!」


 俺は咳き込みながらも憎々しげに声の主の名前を口にする。


『正解だよ、シューヤ!』


 嘲笑うかのような気に障る声は言った。

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