宣戦布告
シュウを倒したかと思ったら、どこからかアンドゥー教司祭兼始祖の声が聞こえた。
アーティアがビクッと身体を震わせ、唇を噛み締める。……アーティアにとってはトラウマの根源みたいなヤツだからな。
「……何の用だ?」
『まあ、用って聞かれてもな。シュウがやられたっぽいからシュウに持たせておいた装置を使って宣戦布告でもしようかと思ってな』
……宣戦布告、だと?
コケッティの発せられた言葉とは裏腹に軽い口調を聞いて、俺は眉を寄せる。
そこでヴヴッとシュウの胸辺りからホログラムのようなモノが出てきた。写し出されたのはもちろん、コケッティ・コケトリオⅧ世だ。
『宣戦布告、だ。今からそこに全戦力を送ってもいいんだけど、やっぱ楽しみたいじゃん? それに、こっちの全戦力が整うのに一週間かかるんだよ。今の戦力でも充分に戦えるけど、やっぱ面白い方がいいからさ』
……楽しむために猶予を与えるのか?
『戦女神・ヴァルキリー』
コケッティはフィネアを指差す。
『メテオグラビトンレックス』
メティを指差す。
『炎帝・フレイオス』
ナティアを指差す。
バサッ。
『おや。丁度いいタイミングだ。機竜・ワイバーン』
作戦通りシュウの魔力を俺が現させて、倒されて消えた時に二人が突入し、逃がすようにするため、入ってきたグランを指差す。
『それに、ダークエルフ』
続いて入り、真っ先にイシアに駆け寄るダークエルフのエイラを指差す。
『……そして最高傑作の一人、か』
アーティアを指差す。指を差されたアーティアは俯き、怯えて震えていた。
『奇遇だな、シューヤ。一人の英雄が使うには、いい戦力だ。しかも、俺と変わらない』
……使う? ああ、そうか。こいつにとって貴族や人工魔物で操ったモンスター達は道具でしかねえってことか。
「……ざけんな! こいつらを使ってるんじゃねえ! 一緒に戦ってるんだよ!」
俺はコケッティを睨み、怒鳴った。
『……はいはい。まあ俺が言いたいことは要するにこう言うことだ。お前がこの前来たアンドゥー教本部で待っててやるから、一週間後に最終決戦といこうぜ、ってな。一週間の間に俺は人工魔物で操ったモンスターを集結させる。お前は精々修行でも逃走でもしてろ』
「……一週間か」
それは、本当に奇遇だな。
『ああ。シュウを倒すぐらいには強くなったし、総力戦でもやってやろうかと思ってな。ああ、言い忘れてたが、お前が来ない、または敗北した場合はこの街潰すから』
あっさりと、そう言った。……俺を煽るつもりか。元々逃げるつもりなんざねえが。
「……一週間ってのは本当だな?」
奇襲をかけられたらたまったもんじゃない。
「ああ。アンドゥー様に誓ってな。じゃあ、こうするか。一週間後に俺が魔力遮断膜破って解放するぜ』
……とりあえず、今は信じるしかない。俺は満身創痍だし、アーティアの精神的な部分もある。戦うなら、色々整えなきゃいけない。
「……」
『一週間はちょっかい出すなよ? ちょっかい出してきたら容赦しねえからな。じゃあ、シュウは貰ってくぜ』
終始軽い口調だったコケッティが言うと、シュウの下の地面に魔方陣が現れた。そして、シュウは魔方陣に飲み込まれるように消えていった。……厄介なヤツを逃がしたな。だが、俺もヤバい。
「……シューヤ。満身創痍の所悪いんだが、手錠、壊してくれ」
グランが情けないことに、手錠をつついては翼で嘴を押さえていた。……痛いのか。そして壊れないなら諦めろよ。
「……はぁ」
俺はため息をついてまずはリフィアの所にフラフラと歩く。
「……お兄ちゃん」
リフィアは俺を見上げて不安そうな顔をするが、神力と言う神と契約した者か神が使える力を封じる枷を折って壊す。
「……悪かったな、危険な目に合わせて」
俺は涙を溢れさせるリフィアの頭を撫でる。
リフィアを真っ先に助けたのには理由がある。神力で他のヤツを助けられるからだ。
「ご主人様。次は私を。これくらいの強度なら斬れますので」
不意にアーティアが言った。……まだ顔が青く大丈夫とは思えないが、無理に気丈に振る舞っていることが分かるので今はそっとしておく。
「……分かった。リフィア、早速で悪いんだが、他のヤツの枷を壊してくれるか?」
俺は頷いてアーティアの方に歩く。
フラフラしながらアーティアの枷を壊す。……ああ、もうダメだな。
俺がそう思った瞬間、身体から力が抜けていく。
「……ご主人様、守れなくてすみませんでした。後はお任せ下さい」
落ちる意識の中、柔らかい弾力が顔を包み、優しく抱き締めてくれる手があった。
その中で、アーティアの声を聞いた。
▼△▼△▼△▼△
……。
…………。
俺は意識が浮上するのを感じた。
ぼんやりする中で何故俺が意識がなかったのかを思い出す。
……そうだ。確か、シュウと戦ってーー!
「はっ!」
俺はハッとなって起き上がる。起き上がったせいか身体がズキズキ痛んだ。
「ダメですよ、ご主人様。まだ寝ていないと。気を使い過ぎて治癒力が一時的にほぼない状態にあります。回復魔法が使えないので、ご主人様の治癒力が戻るまでは治りません」
やけに広いベッド。見渡すとやけに広い部屋。……俺の部屋らしい。
アーティアはベッドに横になっている。……ん?
「……何でお前までベッドにいるんだ、アーティア」
俺は俺の横に寝転がっているアーティアにジト目を向ける。
「添い寝ですよ、ご主人様。他の方には看病が出来ないでしょうと言って家の修理やらに回していますから、二人っきりです」
アーティアはいつもの笑顔を見せて笑った。……だが、俺にはなんとなく、無理しているのが分かった。
女ってのは、顔で笑って心で泣くもんだ。涙を見せる時は慰めて欲しい、甘えたいと言う意思表示……だとあいつは言ってたんだが、長年付き合ってるとそれが普通に分かってしまうので、先読みして行動するようにしていた。
「……よしよし」
俺はアーティアの頭を優しく撫でてやる。
「……ご主人様?」
「……無理しなくていいぞ。アンドゥー教と戦うの、不安か?」
「っ!」
俺が声をかけるとアーティアはビクッと肩を震わせた。
「……俺は別に心が読める訳でもないが、女子が無理してんのだけは分かってな」
経験から来る推測なんだが。
「……そうですか。お見通しと言うことですね。……ご主人様」
アーティアは観念したように目を閉じてから、涙を流しながら笑った。
「……」
俺はそんなアーティアを無言で抱き寄せる。……こうするといいって聞いたんだが。
「……ご主人様ぁ」
アーティアはギュッと俺に抱き着いてきて、か弱い声で泣き始めた。
「……大丈夫だ。俺はアーティアの味方だからな」
よしよしと頭を撫でてやった。
アーティアが不安がらないように。
……アーティアにこんな想いをさせるなんて、また、アンドゥー教への仕返しが増えたな。
俺はアンドゥー教への思いを燃やしながら、アーティアが泣き止むまで頭を撫で続けていた。




