影使いの真骨頂
薄暗いレンガ造りの地下で、宙に浮く四肢が俺に襲いかかってくる。
「くっ!」
俺はそれらを避けながら防ぎながら、思う。
ただ浮いているだけじゃないと。
蹴りや拳は一発一発が本来の威力を持ってるし、速さもそのままだ。
影を通じて宙に出現させ、俺に攻撃させていると言う解釈で合ってるだろう。
その証拠かどうかは兎も角、シュウは四肢がないのに立っている時と変わらない位置にいた。
壁や天井に映る影だけではなく、空間に出来た影も使えるようだ。
それなら服の影を使えばいいんだろうが、生憎と闘鬼の紫のオーラが服ごと俺の全身を包んでいるおかげでそれは出来ないらしい。
首に出来た影を利用されたら危ない。
シュウの肘と膝、浮いている四肢の断面は黒い影で覆われている。影を最大限に使えるここでは最高のパフォーマンスってことか。
「……何で俺の眼前とかで急に向きを変えたりしない?」
俺は時折切り傷をつけられながらもシュウに尋ねる。遊んでいる訳じゃないだろう。さっき本番だって言ってたからな。まあ、ハッタリだったら別だが。
「……はぁ。しゃーねえな、説明してやるか」
シュウはため息をついてそう言い、手足を自分の周りに戻す。
「……敵なのにいいのか」
「年齢的にも経験的にも先輩だからな。教えてやるんだよ。自慢にもなるしな」
……先輩風を吹かせたいだけなのか。
俺はシュウの意外な一面を垣間見た気がした。
「これは空間の影から手足だけを出した状態だ。それはお前のことだから勘づいてるとは思うが、お前、殴って外れた時、顔の横からフックかますか?」
バレるのは想定内だったらしい。
……。
…………。
「つまり、お前のそれにも勢いとか助走ってのが必要な訳か」
「そう言うこと。でもいいアイデアだろ? 影魔法ばっか使って暗殺しながら家から金盗んでた内に編み出したもんだ。オリジナルってヤツだぜ」
金のことばっかに使っているようだが、自分で編み出したからこそ、先輩風を吹かせてまで自慢したいのか。
「……今更だが、こっちに来たヤツって変人ばっかだな」
ヤりまくりバカップルに。
SMの主従関係で神をペットにするヤツに。
勇者目指して戦う仲間のことになるとキレるヤツに。
筋肉バカらしい親父に。
名前がダサいアンドゥー教司祭兼始祖に。
影を操る守銭奴に。
神と契約しまくった炎の妹に。
俺か。
……俺は変人じゃないとは思いたいが、英雄やろうとする割りには敵には容赦しねえし、殺戮を楽しんでる自分はいるし。
………………変なヤツばっかりだよなぁ。
「……変わり者っつうんなら否定はしないぜ。俺が今まで会ってきたヤツも一癖も二癖もあるようなヤツばっかりだったからな。ま、俺が一番マシだろ」
それはねえよ。
「それはねえよ」
俺は心で思ったことをそのまま口に出す。
「……お前だけには言われたくねえなぁ」
奇遇だな、俺もだよ。
嫌な顔をするシュウに、密かに同意する。
「……さて、お喋りはここまでにしようぜ。さあ、続きといこうかお兄様よぉ!」
若干冗談めかしてシュウが言い、再び俺の方へと四肢が飛んでくる。
……お兄様……?
それが意味する所はただ一つ。
妹であるリフィアと結婚すること。
つまりは妹を狙っているということ。
「……ざけんな! 誰がお兄様だ!」
俺はどさくさに紛れて告白めいたことをしたシュウを怒鳴り、全身から紫のオーラを迸らせる。
「うおっ、熱っ!」
紫のオーラは炎のように揺らめいていた。シュウが慌てて四肢を引く。
……なるほどな。
俺の使う術式は、元々俺のイメージを技として確立させることが出来る。
それの気バージョンだな。
今までは雷術式なら雷をどうする技を創るか、だったが、気は属性なんて関係ない。しかも未だにあまり開発されていない。
つまり、気の具体的な使い方は俺が創れると言うことだ。
俺は今、シュウがリフィアと結婚するような意味合いを持つことを言って怒りを覚えたが、それが燃え上がる炎をイメージさせたのだろう。
そんな訳で、技の紫炎完成だ。
ーーということは、だ。
さらに色々出来るんじゃないか?
気は元々放つことも出来るし、その範囲でなら。
「紫電!」
紫雷と少し悩んだが、言葉のピッタリ感はこっちが上だった。
伸ばした俺の右手の平から、紫色の雷が迸る。
「ちっ!」
シュウは受けるのはまずいと思ったのか、舌打ちして影に消える。……しかし、気ってのは応用利くんだな。
それが現実には出来なかろうが、術式ならイメージして確立させるだけで創れてしまう。
今はまだこの程度で済んでいるが、末恐ろしい力だ。
使い道を誤れば、破滅だろうな。気を付けないと。
俺は自分に言い聞かせて、手錠に手をかける。
そして、力いっぱい捻ると、あっさり割れた。……これで魔力が使えるな。
「ご主人様! 私達のも外してください! 多人数でやれば……」
アーティアが多数対一を望むが、それはあまりオススメしない。
「……アーティア。お前らはシュウが出てくるとこが分からないだろ。勝負には相性ってのがある。もうちょい待っててくれ」
「もうちょいなもんかよ!」
アーティアと話していると、シュウが俺の足の間に出来た影から出てきた。
「……それ、通じねえって」
俺は紫炎をシュウに放って影に戻す。
「……それはどうかな?」
シュウが戻り際にニヤッと笑うが。
「……だから、通じねえって言ってんだろ」
俺は後ろから俺を狙う右手を感知して、全身から紫色の光を放つ。
紫光、とでも名付けるか。
「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
紫光に焼かれた右手を抑えながら、痛みに叫び声を上げたシュウが俺の後方の影から出てくる。
「……不意打ちなんて無駄だ。それにーー」
俺は左手人差し指だけオーラをなくし、地面に着けて影を作る。
「……紫影、だな」
俺はシュウの後ろの壁から紫色の影を出した。
「くっ!」
シュウはその回避に再び影に戻るが、そこで影に潜ると言うことは、影に攻撃すればダメージは通るのか、試したくなった。
正確には影の中に攻撃出来るかってことだが。
「……紫影閃」
影の中で紫色の影を炸裂させるイメージで技名をつける。
……成功したかどうかは、まだ分からない。影の中に攻撃しても外には影響がないからな。
「……ちっ! くそがっ!」
悪態をつきながらシュウは俺の前に現れる。……目立った外傷はない、か。失敗とも言えないが、成功とも言えない。
「影の中まで攻撃してきやがって! 何でもありだな、術式ってのはよぉ!」
やっと本気のようだ。シュウに殺意が満ちていくにが分かる。
「殺してやるよ! 伊達にスピードスター名乗ってねえからなぁ!」
シュウは今までとは違い、真正面から突っ込んできた。……速い!
「くっ!」
俺が呻く番だった。奇襲に慣れてしまっていたらしい俺は、一瞬反応が遅れた。真正面から正々堂々と向かってきた。




