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英雄、やります(仮)  作者: 星長晶人
アンドゥー教編

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状況打破の手

 松明の明かりしかない薄暗い地下で、俺は影の中に潜む敵を警戒していた。


 その頭の隅では魔力封じの枷を外す方法を模索していた。


 力づく。


 それもいい。だが、気で強化しても壊せない。どうすればさらに力を加えられるか。


 テコの原理。


 ……使えるようなモノがない上に、そんなことをしていたら殺られる。


 ……待てよ? 気で身体能力を向上させるのに特化させるようなモノがあればいいのか。


「鬼術式!」


 俺は明らかに属性ではなさそうなヤツを思い出して叫ぶ。すると、筋ではなく赤い紋章が左腕に走る。


 ……鬼ってついてるんだから、攻撃向きであってくれよ。


 俺は願うような気持ちで手錠に手をかける。


「させるわけねえだろうが!」


 そこに、手錠がかけられている右側から“絶影のスピードスター”が飛び出してきた。


「だろうな!」


 俺は手錠を壊そうとすれば出てくることくらい検討がついていたので、すぐに対応する。


 飛びかかってきた敵は隙だらけだ。


 だから俺は、右手をスッと引いてフックをする。


 遅い? そんなことはないさ。


 だって、わざと硬い手錠に当たるタイミングにしたからな。


「がっ!?」


 側頭部に手錠をくらった“絶影のスピードスター”は俺から目を逸らしてしまう。……どんなに痛くても、目を逸らすのは戦闘でのタブーだぜ。


 俺は冷たくそう思って、左手で拳を作り、振りかぶって顔面を殴った。鬼気で強化されたパンチだ。俺が予想していた以上に威力があり、勢いよく壁にぶち当たった。


 ……これは、攻撃特化でいいな。


 俺はそう結論付ける。


 少し壁にヒビが入っていた。俺が普通に殴っても、精々吹っ飛ばすぐらいだろう。


 これならいけるか?


 俺は考えて手錠に手をかけて、思いっきり引っ張る。握る。捻る。


 しかし、一向に壊れない。……鬼気でも無理なのか。これは本当に壊れないかもしれない。


 俺は一抹の不安を覚えて嫌な汗をかく。


 俺は自分が油断していたことに気付く。いつの間にか“絶影のスピードスター”が消えていた。影に入って休息を取っているのかもしれない。壁に叩きつけられるのは痛いからな。


 今なら少しの間は襲ってこないだろう。


「アーティア。他に気はないのか?」


「……確か、闘気があったと思います。強度と攻撃を上げたり、攻撃と防御の両方に精通しています」


 バランスのいい気なのか。


「第一術式、発動。闘術式!」


 第一術式で全身に術式が渡るようにして、闘術式を発動する。


 右腕から青い紋章のようなモノが広がって、赤い紋章も左腕から広がっている。


 俺の真ん中で交差し、ごちゃごちゃしていく。


「……闘鬼術式!」


 俺が続いて叫ぶと、赤と青の紋章がピッタリ重なり、紫の紋章に変わる。


 紫のオーラが俺を包み込む。……どこか暖かく、心の内から湧き出ているような感覚だ。


「……」


 憤っていた心が静かになっていく。大分落ち着けた。何故だろうか。


「チッ! 死ね!」


 “絶影のスピードスター”が左足のすぐ横から這い出てきて、俺の心臓へと刃を走らせる。正確でなかなか速い一撃だ。


 だが、俺にはそれが見えていた。


 目が追いついてしまう。身体が反応出来てしまう。


「……」


 俺は自分の左胸に迫る刃を冷たく見つめ、“絶影のスピードスター”の顎を膝で蹴り上げた。


「がっ!」


 顎を跳ね上げられた“絶影のスピードスター”は仰け反って吹っ飛んでいく。……どうやら、鬼気よりも強化されてるようだ。


 しかし吹っ飛ばされた直後、叩きつけられた地面から影に入っていく。正確に言えば、地面に叩きつけられる前に影に入っていった。


 そして、気配が背後の壁から出てきた。


 音もなく魔力も気配も隠蔽され、しかし俺には感じ取れていた。


 “絶影のスピードスター”の気配が俺の首めがけて突っ込んできていることを。


 だから俺は、振り向き様に右足で回し蹴りを脇腹に叩き込んだ。


「っ!?」


 “絶影のスピードスター”は苦悶と驚愕が混ざった顔で吹っ飛んでいく。もちろん、壁の影に入って追加ダメージからは逃れられるが。


 おそらく、俺が感じたのは気だろう。捕まっているヤツらの全身を巡る気が明確なモノとなって俺に伝わってくるのだ。


 いくら気配を殺そうが、いくら魔力を隠そうが、いくら殺気を誤魔化そうが、気は全ての生物の全身を巡る生命エネルギーのようなモノだ。


 ただ、生命エネルギーと呼ぶにはお粗末な効果しかないが。


 “絶影のスピードスター”は気を使わない。だから、気は隠せないのだ。


「……チッ。こりゃ予想以上だな。影からの奇襲だけで倒せると思ってたんだが、とんだ誤りだぜ」


 “絶影のスピードスター”は俺から少し離れた真正面の地面からスッと音もなく出てきた。


 ……無傷じゃないが、壁に叩きつけて追加ダメージを狙えないのが残念だ。


「……嘗めてたのは謝るぜ。召喚名簿に載ってるヤツは全員異世界に召喚されて勇者になれるような力は持ってるんだったしな。しかもてめえは術式使いだ。厄介だな」


 言いながらゆっくりと歩いてくる。……油断せずに身構える。


「……ったく。ここまで力見せるのは、久し振りだぜ」


 ニヤリと笑って、立ち止まる。……何だ?


 俺は怪訝に思って、“絶影のスピードスター”を注視する。


「ああ、俺の名前を名乗ってなかったな。俺は“絶影のスピードスター”、シュウだ。冥土の土産に覚えときな」


 急に名前を名乗り、冥土の土産と言う。それは、俺を殺す算段がついていると言うことだ。


 そして俺は気付く。


「っ!?」


 シュウの右腕が肘から消えていた。さらに、俺の首筋を狙って肘から手までの気が迫るのを感じた。


 俺は反射的に身を屈めて、肘までしかない小刀を持った手が頭上を通り過ぎるのを見た。


「チッ。気ってのは厄介だな。後ろに目でもついてんのかってくらいだぜ」


 自分の周りに四肢をくるくる漂わせながら、シュウは悔しげに言う。


「……」


「さあ、英雄野郎。ここからが本番だぜ」


 シュウはニヤリと、さらに笑みを深くした。

気は三作で出ますが、違いがあります


別世界ですしね


これの気は通常の気と鬼気と闘気しかありません


 増える予定もないですね

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