奴隷売り場
「なあ、硬貨の価値誰か教えてくんね?」
俺は四人に聞く。
「私が。下から順に石貨、銅貨、銀貨、金貨になります。そして、各魔水晶です」
ディメスが説明してくれる。
「魔水晶って?」
硬貨はなんとなくわかるが、魔水晶は全くわからん。
「各魔物を千匹討伐するとドロップします。ですが、各モンスターによって価値はそれぞれです」
ほうほう。
「じゃあ、ヴァルキリーとかだと凄いことになるな」
ゴブリンだとクソだろうが。
「……言っとくけど、ここにいる四体は、千体もいない程貴重な魔物なのよ?」
あっ。
「すまん。……そういや、ディメスなんかは最後の一人だっけ」
さすがに不謹慎だったが。
「……思ったのですが」
ディメスが何か不思議そうな顔をしていた。
「ん?」
「何故私達魔物を何人と数えるのですか?」
「ああ、そんなこと。それなら、いつも人間らしいからな。お前らは」
モンスターだとは思えない。
「褒め言葉ではありませんね」
まあ、人間ごときと一緒にされるのはな。
「まあそういうな。……んで、次はどこ行く?」
「何言ってるのよ。もちろん、奴隷売り場でしょ?」
……ですよね。
「そういや、石貨何枚で銅貨になるとかそういうのはないのか?」
「あります。石貨は百枚で銅貨に。銅貨は十枚で銀貨に。銀貨は十枚で金貨になります」
じゃあ、日本円の一円玉、百円玉、千円札、一万円札ってことか。
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「いらっしゃいませ。お客様、どのような奴隷をお求めで?」
奴隷商人と見られる男が、胸の前で手を擦り合わせながら言った。
「……女の奴隷を」
フィネアはやっぱり嫌なのか、顔を少し歪めて言った。
「はい。ではご案内します」
下卑た笑みを浮かべて手招きをした。
「……うわっ」
俺は中に入って呻き声を上げた。奴隷商人には失礼だが、嫌な光景だ。
「お客様、奴隷を見るのは初めてですか? でしたらその反応も頷けますが、従順な奴隷にするには多少の躾は必要なのですよ」
……多少どころじゃない。入った部屋は、真ん中に一本通路があって、通路の両脇に鉄の檻が上下二つ、びっしりと並んでいる。
目が死んでいて、身体中が傷だらけで痛々しい。
「一人一人に枷の数が違うのは?」
首や腕、足にまで枷をはめられている人もいれば、首だけだとか、一ヶ所のみにはめられている人もいる。
「逆らった回数ですね。逆らった回数が何回ごとに枷を増やしていきます」
なるほど。一ヶ所のみの奴隷は逆らわずに大人しくしてるか、内なる憎しみを溜めているかのどっちかだな。
「ここは何のフロアだ?」
見たところ、何の統一性もない。老若男女、様々だった。
「一般に労働奴隷として買われていく奴隷です」
強制労働に使われるから、綺麗にする必要はないと。
「こちらから、通路が二つに分かれます」
労働奴隷の部屋を出ると、ちょっとした小部屋に出た。向かいに二つの扉がある。
「こちらが男の奴隷、あちらが女の奴隷のいる部屋になります。先に進めば進む程価値のいい奴隷になります」
分けてあるのか。まあ、兵士用の男の奴隷を買う人もいれば、女の奴隷を買いに来る人だっているからな。
「ではこちらへ」
奴隷商人は、俺達を右の扉へ案内した。
「……」
入ると、左側が人外、右側が人らしかった。
「左側の奴隷は魔物奴隷になります。右側の奴隷は人間奴隷です」
魔物か。俺はチラッと他の四人を見る。……全員、無表情だったが。
「この辺りの奴隷は労働用です。人によっては性奴隷にもされますが」
姿は決して綺麗ではない。人の方は傷だらけで、魔物の方は猿ぐつわやなんかで厳重に拘束されている。
「ここから金貨一枚からのお値段になりますが、よろしいですか?」
「……ああ」
金はある。だが、ここの空気から離れたい。
「学がある奴隷はいるのか?」
「はい。ですが、もう少し先になりますね」
そう言って少し足を早める。
「ここから、学のある奴隷になります」
見ればわかる。……明らかに労働奴隷より優遇されている。服装もしっかりしていて、目がまだ生きている。傷だらけではないし、やつれてもいない。
……娼婦としてなど、性奴隷なんだろう。顔もいい娘が多い。貴族などに売るからだろうか。
「気になる品があれば見ていってください」
「……いや、いい」
どの娘も、メティ、ディメス、フィネアに比べると見劣りする。……だからといってどういうわけでもないが、近くにその娘よりも美人がいたら抱く気は全く起きないかと。
「そうですか」
そう言って奴隷商人は先に進んでいく。……残念そうではない。むしろ、いい客だという、喜びが伺える。
「ここから、学があり、戦闘も出来る奴隷になります」
……それはいいかもしれない。
「……彼女達と同等の娘は?(ボソッ)」
俺は奴隷商人に耳打ちする。まどろっこしいからな。
「……それならそうと言ってください。値は張りますが、とっておきがいます(ボソッ)」
俺の心情を知ってか、小さい声で耳打ちしてくれた。
……そういうとこは商人だな。
「お客様はここらの商品が気に入らないそうなので、奥に案内します」
下卑た笑みではなく、満面の笑みで言った。
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「ーーは?」
俺は奥の部屋に入って間の抜けた声を上げる。
奥の部屋にある檻は二つ。魔物奴隷、人間奴隷のとっておき、ということだろうか。
魔物奴隷の方は、全身が紺色と紅の混色で、瞳は黄色。獰猛な眼差しに本来のグラン並みにある巨体。鋭い爪と牙。そして、燃え盛る蒼い炎の鬣があった。
「……ライオン?」
「……炎帝・フレイオス。炎を操る獅子の魔物です。ランクはS級。買ってくださるなら、今なら金貨四十枚で手を打ちましょう」
……相当高いよな? 石貨一枚が一円だとして、日本円で四十万円か。
「あっちの彼女は?」
俺は人間奴隷を向く。
鮮やかな長い金髪に、爆乳とも言える程大きな胸。金色の瞳はおっとりとしたようなタレ目の美人。何故かフリフリの給仕服、メイド服を着ていた。
「かなりの上玉ですからね。さらに、学もあり、戦闘も出来、給仕も出来ますから、金貨二十枚でしょうか」
高い。参考までに道中値段を聞いていたが、全然違った。
「……もし二人共買うのであれば、二人で金貨五十五枚、で手を打ちましょう」
奴隷商人は手を擦り合わせながら、にこやかに言った。
『……シューヤ。聞こえるか』
何だ? グランの声が頭の中に聞こえるぞ。
『俺は今、シューヤの頭の中に直接話しかけている。……俺から忠告だが、二人共買え。ではな』
おい! グランのって忠告でも何でもねえよ! ……まあ、迷ってたから助かったといえば助かったのかもしれないが。
グラン、テレパシーなんか使えたんだな。
「……じゃあ二人共で。金貨五十五枚でいいんだよな?」
「はい。特に炎帝・フレイオスは狂暴ですから、気を付けて」
俺は革袋を出して、金貨を一枚ずつ出していき、五十五枚奴隷商人に渡した。
「まいどありがとうございます。では、商品を」
炎帝・フレイオスが檻から出される。何人かの男達がいたるところにはめられた枷の鎖を引っ張って、外に出した。
「ーー殺す! 人間は絶対に殺す!」
口にはめられた猿ぐつわを外されると、いきなりそう怒鳴った。
……男、じゃないんだよな。若い女子の声だ。恨み100%だが。
「枷はいくつか外しますか? 最低でも一つは付けるのが奴隷の義務です」
「……首以外の枷は外していい」
「えっ? し、しかし……」
「俺はいいと言っている」
奴隷商人は戸惑ったようだが、すぐに合図して男達に枷を外させた。
「……」
飛びかかってくると思ってたが、大人しくなった。
「……こんな化け物達に逆らったら命がいくつあっても足りない」
……化け物ってのは俺のパートナー達のことだろう。
「じゃあ、大人しくついてきてくれるな?」
「……うん」
いや、急に大人しくなりすぎ。
「……驚きです。まさか炎帝・フレイオスが従うとは……」
奴隷商人や他の男達も呆然としていた。
「もう一人はまだか?」
詮索されると面倒なので、急かしておく。
「はい、ただいま」
ガチャリと檻の施錠が外されると、中からメイド服の美人が出てくる。……枷は首一つなので、大人しく従ったか、優遇されまくったかのどっちかだろう。
「こちらはアーティアと言います。作法もしっかりしているので大丈夫ですよ。あと、処女です」
奴隷商人が言うと、アーティアはぺこりとお辞儀した。
「まいど、ありがとうございました!」
見送られて、外に出た。
英雄になるはずなのに奴隷を買ってていいんでしょうか。
微妙に不安です。
炎帝・フレイオスの値段を変更しました。




