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王宮の大広間。

王グラハム三世の前で、俺たちは 王都での襲撃事件 について報告していた。

レイが静かに状況を説明すると、王は目を細め、肘掛けに指を叩く。


「ふむ……つまり、隣国の間者どもが“カイル・エヴァンスを確保すればフランベルクが落ちる”と信じ込み、王都で暗躍していたと」

「はい。しかし、間者たちは捕縛したものの、おそらくこれは 氷山の一角 かと」


エミリーが淡々と補足する。


「彼らが持っていた短剣や毒は、王都に出回るようなものではありません。隣国から持ち込まれたものと思われます」

「ふん……やはりか」


王は軽く舌打ちをした。


「カイルを攫えばフランベルクが無力化すると思っているとは、滑稽な話だな」


俺は苦笑しつつも、緊張を解かずに王を見つめた。


「ですが、彼らが本気で俺を狙っているのは間違いありません。このままだと、王都での襲撃が続く可能性も……」

「それについては、すでに対策を練っている」


王が視線を巡らせると、側近たちが頷く。


「王都の警備をさらに厳重にする。間者の捜索も強化するよう手を打った。それと──」


王は鋭く俺を見つめた。


「お前の安全を最優先とする。しばらくは王宮内で過ごせ」

「……え?」

「王都のどこに間者が潜んでいるかわからぬ以上、外を動くのは危険すぎる」


レイがすぐに口を挟んだ。


「ですが、王宮内も完全に安全とは言い切れません」

「だからこそ、お前が守れ」


王はレイに視線を向ける。


「お前が常に傍にいれば問題あるまい。それに、カイルの体調もある」

「……っ」


レイの表情が曇る。


「王宮にいる間に休め、ということですか?」

「ああ」


俺は思わず口を開きかけたが、王の視線が「黙れ」と言っているようで、ぐっと堪えた。

──つまり、王宮での “強制療養” ってことか……。

正直、動きたかった。

フランベルクのことも気になるし、隣国の動向も知りたかった。

でも、体調のことを考えれば……このまま無理をすれば、あとで余計に足を引っ張ることになる。


「……わかりました」


俺がそう答えると、王は満足そうに頷いた。


「よし。では、一旦この件は預かる。隣国の動きについても調べを進める」

「……ありがとうございます」


俺は頭を下げた。

しかし——その時だった。

──ドンッ!!

王宮の扉が勢いよく開いた。


「陛下!!!」


慌ただしい声と共に、王宮の近衛騎士が駆け込んでくる。


「何事だ?」

「隣国の特使が王宮に参上!! “至急、カイル・エヴァンスとの面会を求める”と……!」

「──なんだと?」


空気が、一気に張り詰めた。


「……もう動いてきたか」


レイが低く呟く。


「来い、カイル」


王が椅子から立ち上がり、重く告げる。


「さて、“どんな言い訳”を持ってくるのか……聞いてやろうではないか」


俺は拳を握り、王と共に謁見の間へと向かった——。



王宮の謁見の間。

王グラハム三世が王座に座し、俺とレイがその傍らに控える。

広間には重苦しい沈黙が流れ、近衛騎士たちが緊張した面持ちで立ち並んでいた。

その中に入ってきたのは、


「フン、随分と待たせるではないか」


金の刺繍が施された濃紺の礼服を纏い、肩をいからせた男が傲慢な足取りで入ってきた。

隣国の特使、ラウル・マティス。

鋭い鷹のような目が、まっすぐ俺を捉える。


「これは失礼、グラハム三世陛下。急な訪問にも関わらず、謁見の場を設けていただき感謝いたします」

「口上はいい。要件を述べよ」


王が冷ややかに言い放つと、特使ラウルは薄く笑った。


「では、単刀直入に申し上げましょう」


一拍の沈黙。そして──


「我が国は、カイル・エヴァンス殿の即時引き渡しを要求する」


広間の空気が凍りついた。


「……なんだと?」


レイが低く呟く。


「貴様、正気か?」


父──リチャード・エルステッド伯爵が険しい表情でラウルを睨みつける。


「いかにも」


ラウルは堂々と頷く。


「カイル殿は、元エヴァンス家の血を引く者。我が国にとって“重要な人物”なのです」


俺の拳が無意識に握りしめられる。


「重要、ね……」


王が指で肘掛けを軽く叩く。


「どう重要なのか、説明してもらおうか」

「ふむ」


ラウルは俺を一瞥し、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「エヴァンス家は本来、我が国と深いつながりを持つ貴族でした。そして、カイル殿こそがその最後の後継者。我が国としては、カイル殿が王国にいることを極めて遺憾に思っております」

「は?」


俺は思わず眉をひそめる。

隣国に?いつからそんな話になった……?


「遺憾……?」

「ええ」


ラウルは薄く笑う。


「王国が、我が国の貴族を勝手に庇護するのは問題がある。我が国の貴族は、我が国の法の下で裁かれるべきでしょう」

「ほう?」


王が軽く鼻で笑う。


「つまり、カイルを“裁く”つもりなのか?」

「……いえ」


ラウルはゆっくり首を振った。


「裁くのではなく、彼を“迎え入れる”のです」

「迎え入れる?」


俺は警戒しながら言葉を繰り返す。


「そうです。我が国の貴族として──いえ、我が国の“要職”としてお迎えしたい」


その瞬間、俺の隣でレイの殺気がはっきりとした形を持った。


「……なるほど」


王は冷ややかに笑う。


「要するに、お前たちは“カイルを我が国から引き離し、手に入れたい”だけだな?」

「……とんだ内政干渉だな」


父も低い声で呟く。

ラウルは余裕の笑みを浮かべたまま、肩をすくめた。


「誤解なさらないでいただきたい。我々はただ、“適切な立場にある者”を迎え入れようとしているだけです。何も強制はいたしませんよ?」

「それが強制でなければ何なのだ」


レイが冷たく言い放つ。

ラウルは「まあまあ」と手を上げる。


「王国としても、我が国との無用な衝突は避けたいでしょう?ここでカイル殿をお引き渡しいただければ、平和的解決が可能となる」


王はふん、と鼻を鳴らした。


「それで?」

「え?」

「その馬鹿げた要求を、我が国が呑むと本気で思っているのか?」


ラウルの表情が一瞬だけ強張った。


「……陛下、それは……」

「お前はさっきから、さも当然のように“引き渡せ”と言っているが」


王は薄く笑う。


「カイルが元エヴァンス家の者であろうと、現在はフランベルクの領主の正当な妻だ」

「……っ」

「さらに、フランベルクは王国の要衝。その領主の伴侶を“引き渡せ”とは、要するに“フランベルクを無防備にしろ”と言っているのと同じだ」


王の目が、獲物を狙う猛禽のように鋭くなる。


「どこの馬鹿が、このお粗末な提案をした?」


ラウルの顔が引きつる。


「そ、それは……」

「まったく……」


王は呆れたようにため息をついた。


「交渉とは、もう少しまともな理屈を持ってこい」


ラウルは苦々しく唇を噛む。


「……では」

「帰れ」


王が手を振る。


「今すぐな」


ラウルは一瞬だけ抗おうとしたが、近衛騎士たちが剣の柄に手をかけると、すぐに態度を翻した。


「……この件、我が国の上層部と再度協議させていただきます」

「勝手にしろ」


ラウルは一礼し、踵を返した。

広間の扉が閉じる。


「……」


沈黙。

王は疲れたように肘掛けに寄りかかった。


「……いよいよ、隣国も動くな」


父が渋い顔で呟く。


「はい」


レイも低く頷く。


「カイル」


王がこちらを向く。


「……本当に、面倒なことになったな」

「……ええ、全くです……」


俺は深いため息を吐いた。

──どうやら、俺たちに休息の暇はなさそうだった。

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