表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/7

第7話 スキルの価値は

 ロベルト君のお陰でなんとか馬車に逃げれて一安心。あのピンクブロンドとはもう会わないで済みますように……。


 という思いもむなしく。


「お姉さまァ!」


 いやいや、教室にくるなよピンクブロンド。しかし、私の迷惑を汲み取ってくれるのか、ロベルト君がうまい具合に教室の外に連れ出してくれる。


「まったく、なんなのかしらあの娘」

「私も一言言って差し上げようかしら?」

「下級貴族は自ら先に上級貴族に話してはいけないというエチケットを知らないようね」


 うーん、さすが『ガヤ』。見事なまでに騒ぎ立ててくれるわ。


「キティはいるかな?」


 お。王太子さま。ちょうどロベルト君もピンクブロンドもいないところに来てくれるなんて。

 世の中上手く回ってるわ~。ありがたや、ありがたや。


「キティ。いつまで待たせるのだ。吉日とは言ったが吉日を選びすぎだろう。卒業まで待たせるのか?」


 む。なかなか王宮に行かないのを咎められた。でも正直怖いのよね。この歳での結婚。王太子さまは私をちゃんと愛してくださるのかしら~?


「卒業と言えば卒業パーティーだな。キティは私のパートナーだ。分かっているな」


 ……全然分かっていませんでした。なに? 卒業パーティーですと? それはよくラノベである『婚約破棄』オンステージでは!? あなた、『婚約破棄』のタグ付けてるくせして、私を卒業パーティーに来いと? そんな無体な!


『キティ。なにも知らずによくきたな。ここが貴様の墓場となるのだぁ』

『げぇ! これは王太子の罠だ!』


 ってなるに違いない! どこぞですでにあのピンクブロンドが手を回していたぁ!

 これは危険を回避する必要がある。当日は仮病を使って休むとしよう。そうなると王太子さまはお一人になっちゃうけど、ゴメンね。命あってこそよ。





 卒業パーティー当日。私はベッドで寝込んだフリをしていたら、ベッキーが卒業記念にプリンを作ったというので跳ね起きてしまった。


「ん~。美味しい」

「おらが丹精込めて作りましただぁ。よく味わっておくんなせぇ」


 そこに母がいつものように優雅に入ってきたが、私を見て驚いたようだった。


「ちょっとキャスリン! 卒業パーティーがあるのに、ドレスにも着替えないでなにをグズグズしてるの!」

「それが……あの……具合が悪くて……」


「まぁ熱でもあるのかしら?」

「熱はないですけど」


「食欲がないかしら? でもプリンたべてるわよね?」

「はい……たんまりと……」


「だったら記念なんだから行ってきなさい」

「それがそのぅ」


 その時、別の侍女が急ぎながら入ってきた。


「奥様。王太子殿下が、お嬢様をお迎えに参られました!」

「あら! じゃあ早く着替えないと!」


「いや私は具合が悪くて……お腹も痛いし、頭も痛い。お尻も痛い」

「ハイハイ、ウソウソ。ベッキー! 早く着替えさせてあげてちょうだい!」


「分かりましただぁ。奥様ァ」


 キャー! ヒドイ、本人の意思を尊重してぇ!

 私は強制的に着替えさせられ、王太子さまの前にツン出された。

 王太子さまはいつもの赤い制服ではなく、金の刺繍の入った赤いベストを羽織り、いくつもの勲章をぶら下げた正装をしてらっしゃった! カッコええ!


 私は王太子さまの馬車に陪乗して、パーティー会場であるホールに。今日はみんなきらびやかな格好をしている。なんてゴージャスな。


「この中で一番キティが美しいよ」


 うえ! 王太子さまの歯の浮くようなセリフ! でも似合ってる。来てよかった!

 いや行ってる場合じゃないぞ? ピンクブロンドのミラン・クエント男爵令嬢はどこから攻めてくるのか?


 王太子さまは私をカーテンで仕切られたビップな席にエスコートしてくれた。すごーい。ビューティフル! 


 だがその時、カーテンの奥から王太子さまの侍従が現れて彼にそっと耳打ちをすると、彼は席を立つ。


「キティ。少しここで待っていてくれ」


 そう言って足早にカーテンの外に──。


 え?


 心なしかこの仕切られた部屋の中から一人、また一人と侍従たちがいなくなっていく。


 いや。何がおこるの?

 まさか追放?


 その時だった!

 勢いよくカーテンが開いたと思うと、ピンク色のドレスを着用した令嬢が入ってくるなり、私にグラスに入った冷たいものを浴びせてきたのだ。

 正直腰が抜けて立ち上がることも出来なかった。恐怖に怯えて何がおこったかも分からない。


「こんの泥棒猫! よくもわらわからパットを奪ったな、下賎の端女(はしため)が!」


 え? いやいや。なにがおこった?

 私は濡れたまぶたを拭いてようやくその人を見た。


 これは、Aクラスの『WARNING』『悪役令嬢』のエリザベス嬢!

 え? なんだ? なにがおこっている?

 そこに王太子さまが駆け込んできてくれたぁ!


「やめたまえ! エリザベス!」

「なんじゃパットよ! よくもわらわとの婚約を解消し、こんな糞から産まれたような虫同然の女と婚約してくれたな!」


 えーと、ちょっと待ってくださいよぉ。王太子さまは私と婚約しなすった。ですが、その前に『危険度MAX』エリザベス嬢と婚約してらっしゃった? その『婚約破棄』をして私と婚約したとこういうワケですか!

 なるほど、じゃあ『婚約破棄』のタグは正解だったと!


 え? じゃああのピンクブロンドは?


 私は開かれたカーテンからピンクブロンドの男爵令嬢、ミラン・クエントを探した。


 すると彼女は、水色のドレスを来て、ロベルト君の腕を組んでいる。ロベルト君もまんざらじゃないどころか、ニコニコしてるじゃん?

 つーことは彼女の『略奪』、ロベルト君との『悲恋』はこういうことぉ? はは……。あー……、そーですか。これはキティ本人にはキツかったに違いあるまい。私は速めに心を切り換えといてよかった。ホッ。


「エリザベス! もはや公爵は汚職によって逮捕した。公爵は白状したぞ! キミは私の印綬を盗んで兵を集め、このパーティーの後にクーデターを起こそうとしているな!?」

「ふぬぅ? なんのことかのう?」


「しらばっくれるな!」


 おおっと! こちらは修羅場!

 そうか、公爵は逮捕され、エリザベス嬢は王太子さまの印綬を盗んでクーデター。そら『婚約破棄』されるわ。


「印綬なぞ盗んでおらん。言いがかりはよせ」

「なに?」


 そこに王太子さまの侍従が戻ってきて報告した。


「殿下。エリザベス嬢の屋敷は調べましたが、印綬はどこにも……」

「なに!?」


 その言葉にエリザベス嬢はイヤらしく笑い、会場に向けて叫ぶ。


「言いがかりじゃあ! みなのもの聞くがいい。王太子殿下は、ここにいるキャスリン・ウェンガオルトを妃に据えたいばかりに、わらわと公爵家を陥れ、罪なき罪でわらわを婚約破棄して投獄しようというのだ! こんなものが次期国王だ! こんな勝手が許されてたまるか! 騙されるな諸君! 武器を持って立ち上がれ!」

「くそ!」


 王太子さまは悔しそうに顔を歪める。エリザベス嬢は、高笑いをして会場から去ろうとしていた。


 だが私は叫んだ。


「『印綬は髪の中』だわ!」

「なに!? ものども! さっそく調べよ!」


 逃げようとするエリザベス嬢は捕らえられ、盛り上がった髪の毛はぐしゃぐしゃにされて調べられた。


「あ、ありました! 殿下の印綬です!」


 私はその場にへたりこんだ。ふう。怖くてなかなかエリザベス嬢に顔を向けられなかったけど、背中を向けてくれたから『印綬は髪の中』タグを見つけることができた。

 はは。これで万事解決だわ──。


 王太子殿下は私に向かって微笑んだ。


「キティ、助かったぞ。キミは女性だからこそ隠せる場所が分かったのだな」

「はい。左様でございます」


 いやホントは能力だけど。

 おや? おやおやおや? またもや前にもあった通り、王太子さまのタグが成長しようしているぞ!?


『婚約破棄』がひっくり返って『愛妻家』に変わったぁー! おお! しかも金色。いやん。そこまで愛してくださるの?


 あら、もう一つのタグもひっくり返るわ……。


 なんと『むっつりドエロ』が『ドエロ』に変わった! ってオイ! ただの『ドエロ』かよ! しかもこちらも金色。こんなん、閨でなにをされるのやら~。神様ぁー!





 それから私は王宮に入り、行儀見習いや王妃教育を経て、王太子殿下の妃となりました。

 ウェンガオルト伯爵家は、どうやらお母様が身ごもっていたらしく、私が妃となる頃に無事に弟が産まれたようです。父よ……。頑張ったな。


 ロベルト君とピンクブロンドさんも愛ある結婚をしたみたいだけど、小説の主人公だったキティ本人だったらやるせなかったろうな……。


 そして、私と王太子殿下は──。彼は夜になると野獣のようになります。さすが『ドエロ』。

 この小説は元々18禁だったようで、王太子殿下が国王になっても私とラブ・アッフェアを繰り返しながら政治的問題を解決するストーリーだったみたいですわね……。

 タイトルは『私にも政務がありますのに毎晩では体が大変ですわ!』だったのを思い出した。


 王太子殿下は、政務の傍ら趣味の小説を書き続け、王家の者とは分からないようにペンネームで出版。出すたびにベストセラーの人気作家となりました。彼の書く恋愛小説は、お暇な貴族には丁度よい娯楽だったようです。


 私の第一子は男児で、同年の叔父がいることになりました。それから五人産んで、ある時、八歳の娘が私に言ったのです。


「お母様の肩に『陛下大好きっ妃』と書いてあるのは何ですの?」


 と──。


 彼女にもまた、オレンジ色の瞳が引き継がれたのです。

終わりです! 面白かったら☆☆☆☆☆を頂けたら嬉しいです!


この作品は、知さんの「ビタミンカラー祭」参加作品です。

知さん、参加させていただき、感謝申し上げます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] クーデター……なかなかデカい話になりましたね!! なんにせよクーデターを防げてよかった!! そしてタグ読み継承……フフフ( ´∀` ) 次代も楽しみですねぇ。
[良い点] めちゃめちゃ笑いましたw タグの正しい使い方はこうなのですね! 楽しく元気の出るお話をありがとうございました((´∀`)) 企画に参加してくださり感謝でございます!
[一言]  読ませていただきました。 完結お疲れ様でした〜! 面白かったです! クライマックスから超怒濤の伏線···いやタグ回収でした!(笑)。 なにはともあれ、ハッピーエンドの大団円、すんばらしい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ