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騎士と勇者の一騎打ち  作者: 零珠
二、噂の狼。
14/61

思考を巡らせよ。

 


 ◇



「──ここは!?」



 ハッと目が覚め、反射的に刀を構えた。そこは、アネモネも狼も居ない、真っ暗な部屋の中だった。窓はなく、ほんの少しの明かりもない蒸し暑い部屋。独特の臭いが鼻をついて、思わずしかめっ面を零した。



「生きてる……てっきり殺されたかと……」



 生き物の気配はほとんどないが、アーサーはどこだ?


 指先に火を灯して最低限の明かりを確保して、刀を鞘に戻した。……なんだか腕が痺れているような気がする。


 腕のことは気にせずに、火をかざしながら辺りを見回すと、すぐ横にはアーサーが横たわっていた。



「アーサー!? おい、大丈夫か!?」



 見たところ怪我はない。息もきちんとあるようだ。体を何度か揺さぶると、彼はかすかに呻きながら目を覚ました。



「ぅ……う、ん……?」

「大丈夫か」

「ぎ、ギルバートさん! ここはっ……」



 飛び起きたアーサーに、「分からない」と一言返し、少しだけ火を大きくした。どうやら部屋は多少奥行きがあるらしく、明かりが全てを照らすことはなかった。



「申し訳ありません。私の不甲斐なさが招いた結果です」

「いや、俺も油断していた。狼が味方だと決まったわけじゃなかったのに」



 懐いてくるから、ついこちらも気を許してしまった。アネモネに対する警戒は嘘には見えなかったし、大丈夫だろうと、根拠のない安心感を抱いていた。


 しかし狼は吠えた。確実に、アネモネの合図によって放たれたものだろう。やはり彼女達は関係があったのだ。恐らく、仲間や共犯と呼べる関係が。俺達に何の目的があるのかは分からないが。



「とりあえず、この部屋の中を探ってみよう」



 何か情報が掴めるかもしれない。返事を聞く前に俺は立ち上がった。



「扉か」



 少し歩くと、冷たい扉があった。ドアノブも何もついていない。試しに押してみるが、びくともしなかった。見た感じから扉は鋼鉄であると分かるが、格子も窓もないので、扉の先をうかがうことはできない。


 ……鋼鉄。鋼鉄と言って思い当たるのは一つしかない。しゃがみ込んで辺りを探ると、案の定血がこびりついたような汚れが広がっていた。



「アーサー。恐らくこの部屋は、アネモネの家だ」

「彼女の? ……あぁ、先ほど話していた、鋼鉄の扉の部屋ですか?」

「あぁ」



 狼に連れられて発見した、あの扉。妙な錠前もあったし、何かを閉じ込めるならあの部屋に違いない。


 閉じ込められているのは由々しき事態だが、気になって仕方なかった場所を探れると思えばいい。万が一のときは無理にでも扉を斬ってやる。それができないほど鈍らな刀でも腕でもない。


 ……そういえば武器を盗られていないな。起きたときには刀を握っていた。そもそも意識を失う前に手放した記憶もない。あのとき、倒れてまで刀を握り続けていたなんて。それは腕が痛いわけだ。



「ギルバートさん、私が明かりをつけますから、火を消していただけますか」

「あぁ……そうだったな。悪い」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません。……“グロム”」



 彼は雷魔法を放ち、部屋の壁に魔法を固定した。この魔法を固定する、というのはいつ見ても不思議な光景だ。意味が分からない。


 魔法というのは、自らの手を離れたら制御できないというのが一般常識である。魔力供給がなされないため、自然消滅を待つか、別の魔法で干渉するしかない。火魔法を消したければ水魔法をかける、とかな。


 だがアーサーは放った魔法を自在に操ることができる。どういうわけか彼は、手元を離れた魔法にも魔力供給を行い、自然消滅しないように任意で留めておいてるようなのだ。

 だから今壁に固定されている雷魔法も、必要なくなれば彼の意思で消すことができるし、なんならあの魔法を使ってそのまま攻撃に転じることもできるだろう。



 放った火球を自由に制御できないか、俺も試してみたことはある。しかしどうも上手くいかない。彼に詳細を聞いても感覚的な説明しか返ってこないし、そもそも感覚が掴めないのだから成功しようはずもない。


 やはり彼には天性の才能がある。



 とにもかくにも、彼のおかげで部屋全体が照らされた。部屋は想像以上に奥行きがあり、王城の廊下を思い出した。



「牢屋、でしょうか」

「また牢か? 勘弁してくれ」



 細長い部屋には、左右の壁沿いに、動物か何かを入れておくような檻がずらりと積み重なっていた。人間が入るには狭いものだが、格子が並ぶ様は確かに牢獄に見える。


 真ん中に開かれた通路を進み、一つ一つ檻を調べていく。



「この檻、乾いた血がこびりついています」

「こっちもだ。床も汚いな」



 檻や床には、おびただしい量の血が固まっていた。どれほど前のものなのか、錆と見分けがつかないほど汚れている。血の付いていない綺麗な檻は一つもなかった。


 やがて部屋の奥にまで辿り着いて、全ての檻を見終わった。最後の一つは、まだ固まっていない真新しい血がついていた。



「……リストもありますね。何でしょうか」



 アーサーが見つけた紙の束。彼がめくるのを一緒になって見てみると、どうやらそれは人の名前が書いてあるようだった。人の名前の他にも、年齢や性別、好きな食べ物まで。それぞれ日付らしきものが書かれているが、ほとんどバラバラで、何が何だか分からない。


 特徴のある字の手書きのリストだから、読みづらい部分も多い。特にリストの余白に書かれた走り書きのメモは、見たことの無い字だった。



「これは何語か分かるか?」

「獣人の言葉です。私も読めはしませんが」



 獣人の言葉。だとすると、これは恐らくアネモネが書いたものか。

 まぁ、この部屋が本当に鋼鉄の扉の先だったら、彼女以外にリストを書く人物は居ないだろう。



「……あれ、ギルバートさん……これ失踪事件のあった村の名前ではないでしょうか」

「あぁ、確かにそうだ。オルディネ王国の村と……ミナーヴァ帝国の町か」



 紙束の後ろの方には、聞き覚えのある村の名前が書いてあった。アーサーの言う通り、住人全員が失踪した村の名前が。下に書かれている人名は、多分その村の住人だろう。……()()()()()と言うべきかもしれない。


 ページを戻ってみると、先ほど見ていた人名も、別の村の住人だろうと推測できた。ギルドからの情報になかっただけで、書かれている村は全て、住民が失踪している可能性がある。



「失踪者リスト、ということでしょうか。しかし何故こんなもの……」

「……」



 元々俺達が、狼に接触するきっかけとなった依頼。それは『失踪があった村の近くで、白銀の狼を目撃した』という情報があるから、狼を探して捕まえてくれ、というもの。


 経緯はどうあれ、白銀の狼に接触した俺達はアネモネの所へ辿り着いた。彼女が言うには、あの狼はフェンリルで、“遠吠えで生き物を操る”という能力がある。確かに、俺達はそれを喰らい、意識を失う程度には強力だった。操られていたという感覚はないが。



 アネモネは何も語らないから、全ては推測する他ないが、少なくとも確実なことは、アネモネと狼は繋がっていたということ。……もしかすると、最初から全て作戦だったのかもしれない。


 落ちた先で運良く彼女の家が近かったのも。

 知り合いのくせに初対面のフリをしたのも。

 俺やアーサーに手の平を返して懐いたのも。

 狼がアネモネに対し酷く警戒していたのも。


 それら全て仕組まれていたなら、辻褄が合う。もし俺が他人不信になったら、絶対にこの一件のせいだ。



「──アネモネが狼を使って、村人を丸ごと拉致監禁していた。そして、次の標的は俺達……」



 特殊能力を持つ白銀の狼が居て、失踪した村人のリストがあり、これだけの檻が使われ、それらが鎮座する監禁部屋に閉じ込められている現状なら、嫌でもその答えに辿り着く。

 どうして俺達が狙われているのかは分からない。理由はないのかもしれない。ただ偶然そこに居たから、なんて理不尽な理由かもな。


 問題は、何故アネモネはそれほど多くの人間を集めたのか。そして、その人間達は一体どこに消えたのか。



「人身売買か?」

「それにしては血が多すぎると思いませんか? 奴隷といえど、怪我をしては売れるものも売れなくなるでしょう?」

「あぁ……確かに」



 オルディネ王国は人身売買を禁止している。秩序を謳う国が非人道的な行いなど許すはずがない。しかし影で横行しているのは、誰もが知っていることだった。

 それを取り締まれるのならとっくに取り締まっている。奴隷商人というのは狡猾で、なかなか人身売買の証拠を掴むことができないのだ。おかげで苦汁を飲まされる思いばかりしていた。



 一度、潜入捜査で、奴隷取引が行われるテントに入ったことがある。その中では商人が、言うことを聞かない奴隷を叩く、なんてことはざらにあった。大抵奴隷というものは、肉体労働をさせることが多い。その労働に支障がなければ、腫れや擦り傷などは気にされないそうだ。



 だが切り傷となると別になる。ただでさえ健康状態の良くない奴隷が血を流し、それ以上に軟弱な体になっていけば、厄介なものでしかない。買った後なら奴隷を痛めつける奴はいくらでも居るだろうが、少なくとも買う段階で傷物を望む者など居ないため、売れ残る。


 まともに金儲けしようとする商人なら、売り物に傷を付けて、わざわざ損するような道を選びはしないだろう。仮にこの血の量が、あらゆる人間の小さな怪我が積み重なった結果だとしても、奴隷売買をするには多すぎた。



「奴隷じゃないとすれば何だ。アネモネは快楽殺人鬼ってことか?」



 村で殺しを行うと、必ず誰かに血塗れの現場を発見される。最初はモンスターに襲われたのだと思われるとしても、何度も続けばさすがに怪しまれる。騎士団による警備は厳しいものとなるだろう。


 狼の能力でこの部屋に運び、それから目的を果たす方が、人々には都市伝説として恐れられるくらいに留まる。騎士団なんて、小説によくあるような探偵組織じゃないのだから、彼女に辿りつくことができるかは万に一つ、と言ったところ。


 こう考えると、証拠を残さないためにこの部屋に集める、というのは合理的ではある。



 だが、何か違うような……。



「この違和感は何だ……?」



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