96話
ファイルには『忌み子』についての資料が記されていた。
・平行世界において薔薇の魔女ドロテアの操る¨魂操魔法¨により魂を改変された者達を『忌み子』と呼ばれている。
・『忌み子』は体の一部に薔薇の刻印を有している。
・ドロテア曰く『忌み子』を生み出したのは自己防衛の際にやむを得ずとのことで『忌み子』を利用する代償も軽微であるため計画に支障をもたらすことはない。
・その名が示す通り呪われた存在と比喩するのが妥当で詳細は下記に記すが数々の不幸を招いている。中でも世界大戦は一千万に上る命が失われた。
・世界大戦後、『忌み子』の存在は隠蔽され現在では有権者のみがその存在を知るのみである。(厚遇されるのは不快な思いをさせると不幸が訪れるという伝承からである)
………何だこれは!!!?ファイルを持つ手が汗ばんでいく。『忌み子』本人であるカグヤから聞いた事、一緒にいて経験したこと、他の人から聞いた事。それらがこのファイルの信憑性を高める。
「『忌み子』がどんなに危険な存在か分かって貰えたかな?」
「まさかゲンジの頼みって『忌み子』を殺せってことですか?」
確かにファイルに記載された情報だけならそう思えるかもしれない。けどタクトは知っている。招いた不幸を跳ね返すだけの力がカグヤにあることを。招いていない不幸を跳ね返すだけの力がカグヤにあることを……。だから、もし殺せって頼みなら受け入れられない。
「いいや、そもそも君たち二人だけでモンスターに勝てるとは思わないしね。君たちに頼みたいのはドームやこの世界に住む人に¨『忌み子』は危険だ!駆逐しろ¨と伝えて欲しい!」
「馬鹿か!そんなこと言える訳ないだろっ!!」
自分でも驚くほど大きな声が出たと思う。けど、それだけゲンジの言葉にタクトは腹がたった。カグヤが声をかけてくれなければ……、強く握った拳を優しく包んでくれなければ殴りかかっていたかもしれない。
「………そんな事をすればどうなるか分かってるんですか?」
深呼吸をすると少しだけ落ち着いた……。それでも苛立っているのが声色から分かる。これ以上この人とは話したくないがこのままにしておけば今までやってきた事が無駄になってしまう。是が非でもこの人の考えを改めさせる必要が出てきた……。




