84話
ミノタウロスの目から狂気が消えていく。大きく乱れた呼吸も小さくなり一定のリズムで繰り返される。
「カ……ズトシ……?」
正気を取り戻したミノタウロスのアウレーは倒れているパートナーの姿に絶句した。鎌で斬られた傷、アウレーが踏みつけた傷が血溜まりをつくりそこで寝そべっている。アウレーは血でヌトっとした自分の足とカズトシの体に残された蹄の痕を交互に見比べ発狂した。
「カズトシ!!カズトシカズトシカズトシ!!」
何度も何度も名前を呼んでも体を揺すっても、もう……応えることは…ない。彼らの事をよく知っている訳ではない。戦争を引き起こし沢山の人を殺めたのはとてもじゃないが許せる行為ではない。それでもアウレーとカズトシの間には絆が出来ておりそれを失った痛みが伝わってくる。
「フン,シンダカ。ワレラ、オークヲリヨウシヨウトシタノダ。ムクイヲウケルノハトウゼンダ!」
カズトシの亡骸を見下しながらキングオークが吐き捨てた。
「オマエモホントウハ、セイセイシテイルンダロ?パートナーダト、ツゴウノイイコトバヲナラベ、リヨウサレテイタンダカラ」
「違う!!カズトシは……カズトシはそんな奴じゃない!!」
その言葉を聞いたアウレーがキングオークに殴りかかった。キングオークの言葉が許せなかった。カズトシもアウレーと同じく同種族の輪に入れなかった。『忌み子』として孤独に生きてきたアウレーはカズトシに共感しカズトシもまたアウレーに共感した。種族は違えど良いパートナーになれたと思う。だからキングオークの言葉が許せなかった。
カグヤはキングオークとミノタウロスの闘いに視線を移すことはしなかった。その代わり死神から視線を外すこともしなかった。キングオークとミノタウロスのやりとりを見て笑っている。仮面をつけているので顔は見えないが笑っていると不思議と思えた。
「あの二頭に何をしたの!?」
あの二頭が見せた異常な程に狂気に満ちた目。それは死神が二頭の薔薇の刻印に触れた直後に見せた。そしてカグヤも死神に刻印を触れられた瞬間、冷たく暗くおぞましいものが入ってくるような感覚を感じた。
「最初に言ったでしょ?手入れだって。」
「ふざけないで!!ちゃんと答えなさい!!」
面倒臭いけど仕方ないっと手をヒラヒラさせ大袈裟にアピールする。タクトの入れられた檻まで歩き鎌で檻を一閃した。キィンと高い音を鳴らし強引に開かれた檻からタクトを引き摺りだすとカグヤの足下に一つの革の袋を投げ捨てた。
「中に回復用の魔術式が入っているわ。使いなさい。」
中を確認すると回復用魔術式が入っていた。それもかなり高等な……。改竄された様子もない魔術式を使わせるのか考えを巡らせても分からない。
「早くしないとこの人の首が胴体とお別れすることになるわよ?」
タクトの首に銀色の光を放つ鎌の刃が当てられた。考えるのは後回しに魔術を起動させる。キングオークに負わされた傷が嘘のように消えていく。それを見て満足気に頷いた死神は争っているキングオークとミノタウロスを指し示し言った。
「あの二頭に何をしたかを教えて……あげる。」




