83話
カグヤ達の前に降り立った死神の風貌をした人物はミノタウロスとキングオークを指さし言った。
「赤い薔薇が二輪。」
次にカグヤを指さすと、
「黒い薔薇がー輪……」
カグヤの隣、誰もいないとこを指差すとそこへロウガが走ってきた。
「青い薔薇がー輪。咲いてる、咲いてる、綺麗に咲いてる!」
死神の風貌をした人物は歓喜した。
「カグヤちゃん、情況は?」
「タクトを人質に取られて………えっと、とりあえず全員が敵だと思って!」
ナオキの問いに投げやりな回答が返えるとロウガは死神に飛びかかった。白く鋭い牙が死神に迫るが死神の鎌がロウガの顎をかちあげた。
「さぁ、薔薇の手入れでもしましょうか!!」
高らかに死神は叫ぶと側面から振られたカグヤの剣を避けるとその腹を鎌の柄で薙ぎ払った。地面をごろごろ転がり木にぶつかるとそのままぐったりと動かなくなった。
「先ずは、青い薔薇の手入れからはじめましょうか。」
そう言った死神の言葉は敵意や殺意ではなく慈しんでいるように感じられた。
意識を取り戻したカグヤは腹に手を当てた。あんな重い攻撃は初めてだった。内臓が潰れているのではないかと思うほどの痛みを堪えて立ち上がる。
「ロウガ!!ナオキ!!」
真っ先に目に飛び込んできたのは傷だらけで倒れている二人の姿だった。
「あら、やっと起きたの?」
カグヤが起きたのに気がついた死神はミノタウロスの体から鎌を引き抜いた。カグヤは双剣を握る手に力を込め死神に刃を振り落とした。しかし、どんなに早く振った攻撃もどんなに力を入れて振った攻撃もまるで通用しなかった。ある時は簡単に弾かれ、ある時は簡単に避けられた。
「ダメよ、そんな単調な攻撃ばかりじゃ。」
死神はカグヤの脚を払い転ばせると左足を掴み靴下を脱がし素足にすると足の裏に刻まれた『忌み子』の証でもある黒薔薇の刻印に指を当てる。死神が刻印に触れた瞬間、刻印から冷たいものがよじ登ってくるような不気味な感覚を覚えた………。
「離せっ!」
自分の脚ごと斬り落とすのかという程の勢いで迫る剣を紙一重で避けるが腕には傷が残されていた。
「何を!?今、何をしようとしたの!?」
大量の出血を起こしている脚を庇いながら立ち上がる。
「あらぁ~、気付かれちゃった……。カグヤちゃんてば思った以上に敏感なのね………。」
カグヤに背を向け歩き出した死神はキングオークとミノタウロスの元へ行くとその二頭の刻印に指を当てた。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」
「シネシネシネシネシネシネシネシネ!!」
死神に無数の傷をつけられた二頭の目がまるで違っている。痛みを忘れさせる程の強い狂気に満たされた目がそれぞれの得物を捉えた。ミノタウロスはカズトシの体を踏みつけた。凄い悲鳴の隙間から聞こえる骨の砕ける音。
「痛い!痛い!痛い痛い痛いイタイイタイ!!」
カズトシの体を突き破り白い骨が見えている。
「やめなさ――――!」
カグヤがミノタウロスに叫んだときブチンと嫌な音が聞こえた。恐る恐る音のした方を見るとキングオークが立っている。メーニャの上半身と下半身の間に石のの音が挟まっており、その柄をキングオークがしっかりと握っていた。
「………!ダメェーーー!」
カズトシをもう一度踏みつけようとしているミノタウロスに向かって走り出した。左足の剣でつけた傷が一歩踏み出す度に激痛を訴える。キングオークに肉を削られた脚が震え、上手く走れない。キングオークに叩きつけられた体が軋みスムーズに動かない………。ミノタウロスまでの距離が…………遠い。
ミノタウロスは今まで共に過ごしてきたパートナーの体を無慈悲に踏み潰した……。




