50話
‥‥‥ドンドンドン!
扉が激しく叩かれる音が部屋中に響き渡る。その音に引き寄せられカグヤの意識が微睡みから覚醒していく。窓の外を見れば星がちらほら顔を出している。
‥‥‥‥ドンドンドン!
扉がドンドンと音を鳴らす。音に急かされカグヤは扉に手を伸ばす。僅かな扉の隙間からナオキが体を滑り込ませ部屋に入るとその場に土下座をした。
「カグヤちゃん、御願いします。タクトとマコ姉を助けてください!!」
世界から音が消えた‥‥‥。ナオキの言葉を何度も反芻する。血の気が引き唇が震えるのが分かった。
「い、今なんて‥‥‥‥?タクトを助け‥‥る?おかしいよ‥‥‥‥だってタクトは街に行っている筈‥‥だよ‥。」
「ああ、タクト達はウイグル街に行っていたのはカグヤちゃんも知ってると思うけど、カグヤちゃん達が帰って来て直ぐにウイグル街が襲撃されたらしい‥‥‥‥‥。」
「襲撃って誰に‥‥‥?」
「分からない‥‥‥‥。だから何が起こるか分からない。凄く危険だって事は分かってる。だけど、お願いだ。タクトを、マコ姉を助けてくれ!」
「‥‥‥‥タクトが危ない目にあってるなら私はタクトを助けたい!例えそれがどれだけ危険だとしても‥‥‥‥。」
「‥‥‥‥ありがとう」
カグヤ達はウィルの帰還を待っていた。組んだカグヤの指がリズムよく打ち鳴らされる。
「カグヤちゃん、焦らないで。今は情報を待つのが成功率を上げるために必要だから 」
「うん。分かってる‥‥‥‥‥。けど、彼処にタクトがいると思うとどうしようもなく不安で」
建物の外に出て始めて気づいた。こんな時間なのに空の一角が赤々としている。ウイグル街の方角。風に乗って流されてくる焦げた臭い‥‥。タクト達の無事を祈りここからでは見えないウイグル街をじっと見つめる。赤く染まった空に小さな点が見え次第に大きくなりそして、獅子の形へと姿を変えていく。
「ウィル、お疲れ様。どうだった?」
「どーもこーも悲惨なものだった。特に北側の被害は甚大で大規模な戦闘の痕があった。」
「襲撃者の正体は分かったか?
「人間‥‥‥だと思う。」
ロウガの問いに歯切れを悪くし答える。
「暴れている人間を警備の人間が取り押さえていたが、様子がおかしかったし人間同士であれだけの戦闘をしたとは思いにくいな。」
「主犯がいて暴れているのはその手下もしくは襲撃された事に対しての暴動か‥‥‥‥。もう少し情報が欲しいな。」
「‥‥‥‥‥時間がないし私が街に入って情報を集めてくるよ。」
「‥‥‥‥分かった。けど無茶はしないでくれよ?カグヤちゃんに怪我でもされたら俺がタクトに怒られるからな!」
「‥‥‥‥ふふっ。そっか。じゃあ無茶は出来ないね。」
ウィルに乗り大空をウイグル街まで飛んでいく。
少し後をロウガに乗ったナオキが追走している。ナナとガウスはタクト達が戻ってくる可能性もあるので拠点で待機している。
街が近づくとロウガが止まり待機する。状況が分からない中ロウガのような大型モンスターが近づけば敵として認識されかねない。ウィルも同様にカグヤを降ろした後は街から離れる手筈になっている。いたる所から火の手が上がっているウイグル街を見下ろす。街の北側はウィルが言っていた通り被害が大きい。何十軒もの家が倒壊し瓦礫となっている。暴徒化した人間がやったにしてはやり過ぎである。たがモンスターがやったのなら相応の大型モンスターが付近に潜んでいる筈だかそれらしい気配もない。「大型モンスターが来襲し、被害が出て民衆が暴徒化した」と考えるのが今のとこ一番自然であった。街の上空を旋回していたウィルが急下降し、建物へと近づくと一気に急上昇した。カグヤは屋根の上に立つと被害の少ない南側へと足を向けた。
「待ってね。タクト。絶対助けるから!」




