資格と私の失敗
第三章 資格と私の失敗
1
「ふはは、楽勝だぜ」
車のハンドルを握る俺の隣の助手席で金髪に染めオールバックの髪型をした男がきゃははと高笑いをしながら言った。何を見てそんなことを言ったかというとホテルからここまで俺たちが追っている目の前を走る車に対してだ。
今からおよそ20分前、俺たちの護衛対象だったマリオが何者かに狙撃された。幸いなことに奴は無事だったが、これでもし致命傷で死ぬようなことがあったら今までのギャラがすべて飛んでしまいかねない。
我々は元々マリオの護衛のために雇われた民間会社の人間だ。それで俺たちはその社員でもある訳だが、もっと面倒なことに護衛会社の仕事はただ、目標を守るだけではなく、殺す相手、つまりここでいう狙撃者を捕まえる、又は場合によって殺すことをも我々の仕事だったりする。それが達成できなかった場合は、今後の仕事内容や、我社の評判にかかわってきかねないのだ。
だからホテルでマリオが狙撃された後、何人かマリオの護衛を続行し、残りのグループ狙撃者を追うことになったという訳だ。
「おい、あんまし油断するなよ。仮にも相手は向かい側の距離から狙撃しようとした奴らだ」
目の前の不審な車に少しばかり距離を取りながら俺は隣で笑っている男に対して言った。
「俺に指図するんじゃねーよ。というかお前に言われなくっても分かっているってーの。なぁ、そろそろライフルで撃ちまくりたいんだがいいのか?というか、俺のライフルどこにやったんだ?」
かなり挑発的な態度をしてくるこの男に対してはあえて気にしないことにする。ちなみに街での銃の発砲は原則として禁止されていたが、今、走行しているのは片側一車線の山道だ。逃走している車はなぜか人通りの少ない山道を車で走らせていた。無謀なのかそれとも計算のうちなのかそんなことはもうどうでもいい。
俺たちは右にカーブした斜面の道路を加速していく。しかも危険なことに右側にはガードレール越しに崖になっているから怖い。この下は夜のため見えないが林だ。たぶんこの速度で万が一にここから転落した場合は、木々に全身が突き刺さることになるだろう。まぁそうなるのは奴らなのだが・・・。
その時だった。目の前の逃走車のすぐ斜め後ろを走っていた仲間の車両が、再び体当たりを繰り出す。ガチャ―ンッという衝突音と共に逃走車の車体が崖の方側に傾くが、どうやら運よく車体の体制を立て直したようだ。
隣で金髪男がヒューと出来もしない口笛の真似をして関心する。
「つーか、関心しないでいいから仕事しろよ。たった今奴らの殺害許可が下りた。ライフルでぶっ放せ!」
「お、まじで?つーかこの先のトンネルの奥で待機している仲間のとこまで追い込むって話じゃなかったのかよ?そこで捕まえるっていうのはどこにいったんだよ」
ライフルを手に取り今にもぶっ放しそうにしている奴が言うセリフだろうか?と思いつつ堪えた。
「しらねーよ。たった今上から殺害許可が下りた。上も大金はたいたマリオが狙われたから、ぴりぴりしてんじゃないのか?これでほんとに奴らを逃がしたらいい笑いもんだぜ」
きゃははと金髪男は笑う。それにしてもこれで人の護衛をしているんだから大したものだと思うべきなのだろうか。
「それに前の仲間にも殺害許可がいってると思うから、早くしないとライフル打つ前に終わっちまうぞ?」
そう金髪男に言ってやると、おっとと言い、ライフルをぶっぱなすのがそんなにしたいのか、窓を開けて体を乗り出しながら目の前の逃走車に向かってライフルを構えようとするが、男はなぜか戸惑ったように何か言う。
「おい、何か車体の上にいるぞ・・・、あれは女の子?」
訳の分からないことを言い出した。とうとう頭がおかしくなったのかと、笑い飛ばしてやろうかと思い、俺は口を開く。
「女の子?何言ってんだよお前、だいたいこんな速度で車体の上に命綱無でいるとか、自殺行為もいいとこだろ?冗談もいい加減に・・・」
半信半疑で俺は逃走車の車体の上へと目をやる。まさかと思い一瞬自分の目も金髪男同様におかしくなってしまったと思ったが、今は現実を受け入れるしかなかった。
車体の上には確かに人影があった。それはまさしく、男の言う通り髪の短い女の子だ。
大きな月に照らされた女の子は車体の上でしゃがんでいた両足をすっと伸ばし立ち上る。その女の子の手にはしっかりとライフルが握られていた。
目の前の女の子と一瞬目が合った。俺と目があった瞬間にやりと不気味に微笑み赤く光った目を俺の方に向けてくる。その姿からすぐに恐怖が自然と伝わってきた。
嫌な予感がしたが、このまま引くわけにもいかない。
すぐに無線機に手をかけた。もちろん通信相手は逃走車のすぐそばを通る仲間の車。
「おい、早く車体を攻撃するんだ!お前たちにも殺害許可が下りてるだろ、車体の上に女の子が立ってるぞ・・・!」
『は?何を言っているんですか?こんな時にふざけない・・・』
仲間がそう言い終わる前にライフルの発砲音がダダダダッッッ!!!と響き渡る。
このタイミングで仲間が車体に向かってライフルの引き金を引くわけがない。もちろん発砲したのは女の子の方だ。
『グハァ!・・・』
痛みを放つ男の声が聞こえる。その途端に仲間の車両の助手席から窓に乗り出していた一人の男に脳天に銃弾が炸裂した様子で、力なくそのまま外へと転がりそのまま真後ろにいた俺たちの車体のフロントミラーに回転しながらぶつかり、どこかへ飛んで行ってしまった。
フロントミラーが男の血で汚れる。仲間が一人やられた。それはゆるぎない事実。そして今俺の間の前で起こったことだ。嫌な予感がいっそうに増した。だがやはりここで引くわけにもいかなくなってしまった。
『腕がぁぁぁ!!』
すぐ同時に無線機から逃走車の横を運転する男が無線越しに叫ぶ。
『お、俺の腕がぁぁぁ!』
それと同時にその車両は、車体のコントロールを失い、崖へと突っ込んでしまう。車体のエンジンからはもうすでに火を噴いてる。
『うわぁぁぁぁぁ!!――― ザァァ―――』
通信が途絶えた瞬間ドンッと爆発音が響く。崖から落ちた車両が爆発し、空中分裂を起こしたのだ。車両の塊は黒い焦げた鉄へと変わり、あたりへと散らばった。
「・・・クソッ、やられちまったぜ」
隣でライフルを構える金髪男にもさすがに焦りが見て取れる。
「クソッ!」
俺はハンドルを強く叩き怒りのぶつけ先を探そうとするがそんな暇はなかった。それも車体の上に立つ女の子と目がまた合ってしまったからだ。一気に全身に鳥肌が立つのを感じた。
「俺がやってやる、この小娘!」
金髪の男はそう叫んで女の子に向かってライフルの引き金を引く。ダダダダッッ!!という発砲音。
だが、その女の子はその金髪男の行動を予想していましたよと言わんばかりに、その場から宙へと飛び上がった。そしてこちらの車体に向かって飛び移ろうとして来る。
そんな馬鹿なことがあってたまるかと思った。金髪男も俺と同じ気持ちだと思うが、その女の子に向かって、ライフルの銃弾を浴びせる。
ダダダダダッッ!!!と真夜中の空に向かって赤く光る弾丸が宙に向かって飛び交うが、宙を舞っているそんな女の子に標準が合うはずもない。
だが女の子は俺たちの車両に飛び移る際に宙で、金髪の男に向かってライフルを覗き込んで一発だけタンッ!と引き金を引いた。
またこの女の子にやられたと思った。さっきまで威勢の良いことを言っていた金髪男は今じゃここに居ても戦うことのない屍と化してしまった。
金髪男の死体は、頭の脳天から血を流し、その場に倒れ伏せた。
次は俺の番だと確信し、死を覚悟した時だった。もう必要ないと思っていた無線から声が聞こえる。
『応答しろ、こちらB班。応援に来た』
それは仲間からの無線だった。この状況で仲間の応援が来たのだと安堵する。
「助かった・・・」
思わず出た言葉。男はそう言うとため息をついて後ろから近づく二台の仲間の車両の存在を感じた。
さっきまで俺を殺そうとしていた女の子の目線がそっちの方を向き
「また来た・・・」
とまるで感情がないロボットのようにそうつぶやいたのが聞こえた。それを聞いただけどぞっとする。
『今から戦闘を開始する、頭を下げていた方がいいぞ!』
また無線からだ。ん?少し待てと心の中で叫んだ。頭を下げた方がいいってまさか!?
そう思ったのもつかの間だった。ダダダダダッッ!! ダダダダダッッ!!と後ろを走る二台の仲間の車から激しい銃弾の雨がこの車へと飛んで来る。
「まじかよ!」
もう味方なんだか敵なのだかわからない。すぐに頭を伏せてハンドルに集中をする。だがもう少し続くと思っていた銃撃はあっという間に終わる。
奴を仕留めたのか?とふとそう思ったがそんな様子ではない。
「おい、無事か?」
銃撃が止まったと思うと、後ろについていた仲間の車両一台がこの車の真横にやってきた。仲間はアサルトライフルを片手に窓を開いてこちらに呼びかける。
いかれてやがる・・・。だがわざわざ応援に駆け付けた仲間にそんなこと言えるはずもない。
「敵は?」
俺は顔を引きつらせた。仮にも、仮にもだ。敵が俺の車の上にいるからって俺を狙うことはないのではないのだろうか。だがさっきも言ったがこいつらは俺を助けに来たのだ。そんな感情をぐっと俺は堪える。
「見ての通りだ。さっきの俺らの銃撃でビビっちまったんじゃないか?今じゃ自分の車の中に引っ込んじまいやがったぜ」
ニシシと笑いながら向かい側の男は言う。さっきの銃撃の中でそんなことがあったのか。自分の身を守ることで必死だったせいかよくは分からない。
「もうすぐトンネルに差し掛かる。このまま目標を追い込んで出口で待機している仲間と連携して奴を確実に仕留める予定だが、あんたはどうする?このままおとなしく家に帰るかい?」
かなり挑発的な口調で目の前の男は言う。帰るだって?このまま引き下がれるわけにはいかないだろ?
「まぁ帰るか帰らないかはあんたの自由だが、もうその状態じゃ戦えない。この後は俺たちに任せてくれ、おい行くぞ!」
真横にいた男は運転席の仲間にそういうと今、乗っている車両を仲間の車二台はどんどん追い越していき、前を走る目標の車へと加速していく。
残念だが、あの男の言う通りだった。あの女の子に仲間を殺られて、まさかの仲間の銃撃にさらされた今の状況じゃ戦える訳がないがこのまま引き下がるわけにはいかない。別に殺された仲間の無念を晴らそうって気は全く起こらないが、ただこのまま奴らに手柄を横取りされるのも癪に触る。
「お手並み拝見だ」
そう一人で言うと車をどんどんと減速させて、後方へと移動させた。するとすぐにトンネルへと差し掛かった。
トンネルに入るとすぐに応援に来た二台の車両はダダダダダッッ!! ダダダダダッッ!!と目標への攻撃が激しさを増す。その銃弾をもろに受けている敵の車両は、バックガラスが割れてボディにはすさまじい数の銃痕が開いた。
「おいおーい、本当にビビっちまったのか敵さんよ~?俺らの仲間さんざんやっておいてそれはないんじゃね―の?早く撃ってこいよ。ほらよ」
それを言ったのはさっきの挑発的な態度をとって言ってきた男だった。その男は窓から身を乗り出し、大きな声で目標の車両へと叫ぶが、返事など返ってこない。
「チッ無視かよ」
面白くないというように男は舌打ちをすると、再び無目標への銃撃を開始した。
妙だった。確かにトンネルへ差し掛かってから奴らの攻撃がぴたりと止まった。何かがおかしい。まるで奴らは何かを待っているように。本当にあの男が言うように勝ち目がないと思い込んでビビってしまったのか?いやそんなことはありえない。きっと何かあるはずだ。
銃声が響き渡るトンネルの中、変な汗がハンドルを握る手の平からにじみ出てきた。すると走る車両はトンネルを抜けようとする。
だがトンネルを抜けた瞬間、仲間たちの誰もが唖然とし、目を丸くさせることになった。トンネルの出口で待機しているはずだった仲間の姿がないのだ。そこに転がっていたのは元は車だったと思われる二台の消し炭。
「おいおい、どうしちまったんだ?仲間が待機してるはずじゃ、なかったのか?」
戸惑いを隠せないというように挑発男がそう言ったその時だった。どこからともなくかすかな空中を切る音が聞こえてきた。これはまさしくヘリが宙を羽ばたく音だった。
その音を聞きつけた挑発男はあたりを見渡し、どこから音が聞こえているのかを確認しようとする。
「おい、あそこだ!」
仲間の誰かが指をさして言うと、仲間の全員がその指をさした、すぐ上空を見上げた。
だがその途端に、パァーン!という甲高い銃声音が響きヘリの扉が開けられた乗客席から一発のスナイパーライフルの弾丸が放たれたのがわかった。その弾丸は一台の仲間の車の体を乗り出していた仲間の胸に直撃する。
「うわぁぁ!」
弾が被弾した仲間は胸を抑えながら高速で移動する車から路上へと転落する。
「あの野郎!」
仲間がやられたことに腹を立てたのか、挑発男は持っていたライフルを上空を飛ぶヘリに標準を合わせ引き金を引く。
ダダダダダッッ!!と夜空に光るアサルトライフルの銃弾がぶれながらヘリに向かっていくが、それはパァーン!というヘリから放たれたスナイパーラフルの弾丸によって掌握された。その弾は挑発男の持つライフルに当たり、はじかれたライフルは分解して手元から離れる。それと同時に挑発男のライフルを握る手にもはじかれたときの激痛が走ったようだ。
「・・・ッ!」
挑発男はそう言ったが声にはなっていない。片手で激痛が走る腕を抑えおそるおそるそれを見ると、その腕は赤い血が傷口からにじみ出ていた。
2
「武器を破壊しました・・・」
そう言ったのは上空の風を切りながらマスターの乗る車両と、その追手が走る山の車道を並列に飛んでいるヘリの中からだった。そこに山道側のヘリの横にスナイパーライフルを構えながら座る人の姿があった。
男にしては華奢な体つきに発した声にはまだ少女というほど高い。その子は全身に迷彩柄のシートを羽織っており、性別の判断はできないが女の子だろう。
「次の指示は?」
その子は次の指示を乞うように隣に立つスーツにコート姿の男に目線をぶつけた。
「奥の方向を走る追手の車両の前輪を狙え!」
スーツの男はまだ若々しかった。歳は三十を超えた辺りと言っていいかもしれない。その表情にはまだ幼い青年のような印象がうかがえる。
その男は双眼鏡を片手で握りながら指示を言った。その声とほぼ同時にスナイパーライフルを構える少女は引き金を引く。するとパキューンと言う甲高い銃声が一発だけ響きわたり、マスターたちを追う敵の車両の前輪に直撃した。
貫かれた前輪タイヤはパンっという音がしたかと思うと、高速で道路を走行していたため、運転手は一気に車のコントロールを失い、左右に一度揺れたかと思うとその場で激しく回転。そのまま横をほぼ並列に走っていた敵の車に体当たりした。
そんな前輪をやられた車両に体当たりされた敵の車両はと言うと、衝撃に耐えれなかった様子で、峠道の曲りカーブを曲がりきれなく、ガードレールを突き破ってしまい、レールと車体の間から火花を散らしながら崖から飛び込むように落ちてしまった。
その後すぐにドンッという爆発が崖のすぐ下で起こり宙に真っ黒な煙が立ち上がった。
スナイパーライフルを構える少女は空薬莢を抜き、次の弾を装填するとあることに気が付く。
「あの、前輪を打ち抜いた車両は、まだ峠道のカーブを走行中なんですけど、あれも撃ちますか?」
少女は疑問に思いながらそう聞くとスーツの男は鼻で笑って答える。
「どうしてそんなことをする必要があるんだ?」
言っている意味が少女には理解ができなかった。走っている敵にはとどめを確実にさすべきなのではないだろうかとも思い、スコープを覗き前輪を弾で貫かれた車両を覗いていると、二台になってしまった車両は急なカーブに差し掛かったのが見えた。
その時、やはり前輪を貫かれて走っていた敵の車両はそのカーブに差し掛かったかと思うと、そんな状態の車ではさすがにカーブは曲りきれなかった様子で、そのままガードレールを突き破り、崖へと転がり落ちてしまった。やはりその後すぐにドンッという爆発音が聞こえてきた。
「なんで、こうなることが分かったんですか?」
少女は驚きながら、スーツの男に聞いた。男はまたふっと鼻で笑う。
「いいか、今ある状況がすべてではないんだ。これからは他のことを予想し判断することが大切になってくる。まぁこんなカーブの多い山道だ。前輪さえやってしまったら、もう落ちるのを待つだけだからな」
男は少女の頭をぽんぽんっと軽く叩きながらそう言う。
「・・・やめてくださいこんな時に・・・。あの、もう一つの車両はどうしますか?」
少女はポンポンと叩く男の手を少し嫌そうに振り払い聞いた。それをスーツの男は残念そうな表情を一瞬浮かべたが、すぐに双眼鏡を眺め、峠道を走る敵を見る。
「そうだな~。とういうかなんであの車両だけあんなにボロボロなんだ?まぁいい。あの車両のエンジンを狙えるか?」
「簡単です」
少女はどこかとぼけながら言う男に対してそう言って見せた。そして再びスナイパーライフルの引き金に指を置き弾丸を放つ。パキューンッという音を発しながら弾丸の射線は一点の狂いもなく追手のボロボロの車両のボディにぶち当たり、直撃したエンジンからは火を噴きだした。その噴出された炎はガソリンタンクまで到達すると、その場で横転。ドンッと音を立てて爆発した。
計算通りという訳ではないが、この程度たした問題もないだろう。
「お疲れ、今回の任務は終了だ」
スーツの男は少女の頭にそっと手を置いてなでた。
「だ、だからこんな時にやめてください、まだ任務中ですよ?」
少女はそんなスーツの男の手を素早く振り払い、顔を赤くしながらそう言った。そんな少女の態度が愛らしかったのか男は笑うと、ポケットに入れていたトランシーバーが鳴った。
男はめんどくさそうにトランシーバーを耳に当てるとマスターのどすの効いた声が聞こえてきた。
『――ブゥ―――応答しろ、このまま回収を頼む!いいな?』
「え、それもですか?自分の足で帰ってくださいよ?」
そう答えるスーツ姿の男もめんどくさそうだ。
『それは、無理だ。トンネルで追手の奴らにかなり攻撃され車の破損が激しい。ビルまでこれが持つとは到底思えない。それにこっちにはリミッターを外したゼロがいるしな・・・』
「それはあなたの失態でしょ?私には関係ないですよ」
「つべこべ言わずにさっさとしろ!いいな?」
ぐだぐだ言っているうちにマスターに怒られた様子だ。スーツの男は
「はいはい了解しました」
と言うとトランシーバーを静かに切り、ヘリのパイロットへマスターを迎えるように指示を飛ばす。
「あのおっさん、めんどうな仕事を押しつけやがって・・・」
男は頭をかきながら小さく愚痴をこぼす。その愚痴を隣で聞いていた少女は、そんな男の姿を見てクスリとばれないように笑った。
3
全身が焼けるように痛かった。目をそっと開けると、宙に舞い上がる炎とともに燃え上がる黒い塊となった一台の車が路上の真ん中を横たわっている。
男は全身に力を入れるが、もう立ち上がる気力も体力も残されていない。その時、男は顔の半分がひどいやけどを覆っていて、目が開けられていないのだと知った。
熱風に包まれるその場所からは、もう熱さなんか微塵も感じない。
目標を追ってトンネルの出口で挟み撃ちをするという、作戦は見事に失敗したようだ。そして、次々とヘリからの攻撃に合い、死んでいく仲間を見て次は自分だと確信した瞬間、車のエンジンに弾丸が当たり、黒い煙とともに火が立ち上がった瞬間、とっさの判断で、車から飛び降りたは良いがどうやら間に合わなかったようだ。身体は車の爆発とともに路上を転がり、今、意識がかすかにあるのが不思議なくらいだ。
目の前にはどうやらさっきのヘリが、ヘリポートもない路上の真ん中に着陸した。その中に何人かがぐったりと横たわった女の子をヘリの中に乗せている。
「はぁ・・・はぁ・・・」
荒い呼吸が死を意味していることは、もう誰でも分かることだった。その時、自分の目の前にスキンヘッド姿のサングラスをかけた、長身の男が近寄ってきた。
そのスキンヘッドの男は、胸から拳銃を取り出し、自分のところに近づくやいなや拳銃を、自分の頭へと突きつける。
銃を突きつけられた瞬間訳が分からなくなってしまった。自然と瞼が熱くなり勝手に涙がこぼれ落ちる。俺はサングラス越しに見える冷酷な目をした大男に最後の力を振り絞って叫んだ。
「・・・この化け物どもが!」
男がそう言った瞬間だ。マスターはタンッ!と拳銃の引き金をまるでこの世の遺物を排除するかの如く軽々しく引き、男の脳天に穴をあけた。撃たれた男は力なくその場で倒れ込みどろどろとした、赤黒い血を路面に広げる。
マスターは男を殺した後にフンっと笑って拳銃を仕舞い込み言い放った。
「お前らが今更何を言う?」
マスターはヘリの方へとゆっくりと歩き出す。だが爆発した車両はまだ宙に赤い炎を巻上げながら黒い煙を立ちめかせ燃えていた。




