ゼロ
はじめまして。束紗と申します。この作品はすで完結されているため、定期的な更新はできませんが、一部の読者に好評だったため、ここにのせることにしました。多分好きな人は好きな話になっていると思います。ではどうぞ。( ̄^ ̄)ゞ
私は産まれてからずっと、一人だった。私を理解できるものなど誰もいない。私を理解しようとする者など誰もいない。
何のためだけに産まれてきたのだろう?
そんなこと、考えるだけ無駄だ・・・。
生きるのは怖い。
でも、この世界を必死に生きていかなければいけない。
死ぬのはもっと怖いから・・・。
第一章 ゼロ
1
薄暗い、六畳半ほどの白いコンクリートで囲まれている部屋を、私はいつも見てきた。部屋にさびしく置かれてあるのは、私が寝るためにある白いベットだけ。
私は殺風景なこの部屋に、何もすることもなく部屋の隅っこに体を寄せ、身を丸めながら座っていた。
天井に取り付けられている電灯が、弱々しい白い光を放ち、時々音を立てて途切れる。
この部屋の隅に身を寄せることで、私を不思議と安心させてくれるような気がした。
私は、産まれてからずっとこの部屋で暮らしてきた。だからこの部屋で暮らすことにはもう抵抗はない。だが、ベットの上で横になることは一度もなかった。なぜかこの場所が落ち着いたからだ。外の世界にはただ不安しかない。
私の名前は、ゼロと言うらしい。それは、私がここに来る前にはすでに決まっていた。
ゼロとは最初の人間。ゼロとは何も持っていない。ゼロとは何も意味がないということ。でも私は、時々ふと思うことがある。
この世界に必要とされていないものがゼロなのだ。
だから、ゼロと名付けられた私は、この世界に必要とされていない人間という意味に等しい。
いったい誰が私にこんな名前を付けたのだろうか?
お父さん?お母さん?いや、私には産まれて物心つくころには、親と名のつく存在は周りにはいなかった。
じゃあなぜゼロという名前なのか?と疑問を宙に問いかけてみる。
「ゼロ、訓練の時間だ!」
誰かがこの部屋の固く閉じられていた鉄の扉を開けて中に入ってきた。それは黒のコートに、全身黒の服を着た大男。その男の特徴と言えばスキンヘッドでサングラスをかけていることぐらいだ。
怖いという雰囲気を自然とまとうその大男に、私はなにも動揺することなく、顔を見上げ
「はい、マスター」
と小さな声で言い、その男の少し後ろを着いて行った。
私をゼロ、と初めて呼んだのはこの男だった。私は、ゼロという存在なのだ。
2
私はいつものように拳銃を両手で固く握りしめ、前方に置かれた射撃用の人型のターゲットに標準を合わせた。そして指で引き金を引く。拳銃は、激しい音を立てて銃の振動とともに空薬莢が、握っていた銃から飛び出し床に落ちる。それと同時に、銃から放たれた弾丸は、確実に人型のターゲットに当ってく。
私はあの後、マスターに連れられてこの施設の地下に存在する室内射撃場に来ていた。数メートルスペースで、レンジには区切りの壁があり、私はその一つで拳銃を握りしめる。
タンッ!タンッ!タンッ!と、一人しかいない射撃場に、そんな高い銃の発砲音が響き渡たり、計十発引き金を引いたところで弾倉を抜き、目の前の台にある銃弾が装填されている弾倉へと入れ替え、また標準を合わせて引き金を引く。
私は毎日ここで、ある決まった時間に人を殺す訓練をしている。それが私の日常でもあった。
そんな私の射撃をマスターは後ろ上の、防弾ガラスで守られた部屋の一室から見ていた。
マスターのいる部屋は、射撃の測定室だ。ここには複雑な機械がいくつも置かれていてここで、射撃の命中率から身体能力の測定まであらゆることが行える。
腕組みをして、私の射撃を見下ろすマスターの横で何本も線で、複雑な機械とつながっているパソコンを眺めながら、にやりと不気味に笑う白衣姿の男がいた。パソコンに映し出されているのはもちろん私の身体能力データ。
「ゼロは非常に優秀だ。我々はゼロが産まれてから今まで、組織の実行部隊としての訓練を積ませてきたが、このデータを見ても申し分ない。他の者とは比べものにならないくらいゼロは優秀に成果を上げているようだ。まったくめでたいものだな。これからもゼロの監視を頼むんだぞ。」
白衣を着た男は、鼻の上に乗っていた小さめの丸メガネを、知的に目元まで指で寄せた。だが、メガネは顔に合っていない様子で、指を離すとすぐに鼻の上まで戻り、指で上げた意味がなくなってしまう。
「博士、そんなこと、わざわざおっしゃらなくっても十分に承知しております。これも私の仕事の一つですから」
マスターは口元をゆるませてそう言うがまったく笑ってはいない。マスターのその言葉を聞くと博士と呼ばれた男がふはははと不気味な笑い声をあげた。
「上もお前にはずいぶん期待を寄せているようだ。まったく頼もしい限りだな。だが私は実をいうとその言葉は、本性なのか、それとも裏があるのか非常に興味があるのだが・・・?」
博士はマスターに向かって睨みつけるように言うと、マスターは表情一つ変えずに
「とんでもありません。本性ですとも」
と言った。
防弾ガラスが張られてあるその部屋で、そんな会話がなされているがもちろん射撃場にいる私には聞こえない。
タンッ!タンッ!と銃の引き金を引いていく。銃弾は百発百中で人型のターゲットの頭部を貫く。
私は目の前の装填されている拳銃の弾倉がなくなると、レンジの壁に立てかけてあったサブマシンガンに手を伸ばした。マシンガンのずっしりとした重さもものともしない様子で、標準を合わせて引き金を引く。
拳銃とは比べものにならないくらいの反動が、私の身体を襲いかかった。だがその反動に耐えられる力量も私にはあった。
ダダダダダッ!
何発も重なる発砲音が射撃場に響き、構えているマシンガンから次々と空薬莢が抜けて床に落ちる。
私はこの訓練を受けている時、いつも思っていることが一つだけあった。
この世界に、もし神様がいたのなら、人間は平和に暮らしているだろうか?もし平和で、浮かれて生きているような奴がこの世界でいう白なのだとしたら、世界に不満を抱き、もがき、苦しみながら死んでいく者は黒ということになる。
だけど、私はそのどちらでもないような気がする。生きていて幸せだと思ったこともなければ、生きていて不幸だと思ったことすらない。いわゆる灰色の存在で。私はただの、人殺しの兵器なのだ。
引き金を引いていたマシンガンの弾が切れると、そっと構えていたマシンガンの弾倉を抜き取り、銃を下げた。
正面の人型の的の頭部にはマシンガンで撃たれた大きな穴が開いていた。そのボロボロの的を見て私は目をゆっくりとつぶる。
それに、この世界には神様などいない・・・。