神様、まさかの旅行先
「ふぅ〜……」
私は小屋の椅子に座って、大きく息を吐いた。
「ひとまず任務終了って感じかなぁ」
今日は村長さんに紡ぎ車の資料を渡した。
後は、村の職人さんたちが作ってみるのを待つだけ。
「……」
水車に農具。そして今度は紡ぎ車。
異世界に来てから、随分と色々なことをしている気がする。
「まあ、少し休もう」
その時――
「姉さんー! 居るー?」
鞄の向こうから声がした。
「あ、さとる?」
「うん!」
「今帰ってきた所よ!」
「そっか」
私は鞄を覗き込む。
「ミカミさんが帰ってきたよ!」
「え?」
「話すことある?」
「あるよ!」
私はすぐに答える。
「なんだよー」
ミカミが笑う。
「そっちでも、なんかしてるのか?」
「まあね」
「また何か作った?」
「今度は紡ぎ車」
「……」
「何よ?」
「ちほ!異世界で何屋さんになろうとしてるの?」
「私にも分からないわよ!」
思わず笑ってしまう。
でも――
「それより、気になることがあるんだけど!」
「なに?」
私は少し真面目な声になる。
「例えばさ」
「うん」
「地球とこっちの世界の……生物とか」
「生物?」
「そう。例えば、植物とか動物とか」
「うん」
「そういうのって、持っていっても大丈夫なの?」
ミカミが少し考える。
「うーん……」
そして――
「地球のは、持っていってもいいかな?」
「そうなの!?」
「特に俺は構わないが……」
「ミカミさん?」
「じゃあ、こっちの世界のは?」
私は聞く。
「ちょっと待ってて。聞くから」
「……聞く?」
その瞬間。
ピロン!
「ん?」
スマホから通知音がした。
「何?」
「地球には、持ち込まないでって」
「え?」
「誰に連絡したの?」
「誰って……」
ミカミさんが当然のように答える。
「そっちを管理してる神」
「……」
「スマホで?神様とスマホで連絡取ってるの!?」
「便利だろ?」
「いや、そこじゃない!」
神様同士の連絡手段がスマホ。
なんというか――
「……」
神様も現代化してるのね。
「だから、そっちの生物はダメだってよ」
「分かった……」
まあ、確かに。異世界の生物を地球へ持ち込んだら、何が起こるか分からない。
「じゃあ、植物も駄目?」
「駄目だろうな」
「分かったわ」
変なことはしない方がいい。
「それと――」
ミカミさんが話を変える。
「俺、ちょっと旅行行くからよー」
「……」
「代わりの奴は手配したから、配達は問題ない」
「……」
「安心しろ!」
「のんびりと旅行かーい!」
思わずツッコむ。
こっちは異世界で生活しているというのに。
神様は旅行。
「いいだろ?」
ミカミさんが笑う。
「たまには!」
「まあ……いいけど」
神様にも休みは必要なのかもしれない。
「連絡は取れるようにしといてよ!」
「電波、たぶん届かないから……」
「どんな田舎に行くのよ!」
ミカミさんが少し間を置く。
そして――
「アトランティス行ってくるから!」
「……」
「じゃーなー!」
「……」
私は鞄を見つめる。
「さとる」
「なに?」
「今、ミカミさん……」
「うん」
「何て言った?」
「アトランティス」
「……」
「アトランティスって……」
私は恐る恐る口にする。
「本当にあるの?」
「俺に聞くな!」
鞄の向こうから、さとるのツッコミが返ってきた。
「……」
まさか。神様の旅行先が――伝説の海底都市。
「……」
私は窓の外を見る。異世界も大概だけど。
「地球も大概ね……」
私の知らない世界は、まだまだ広いらしい。




