表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/126

第655話 安請け合いする男 2

 オレはさらに詳しい症状を確認した。


「どのように息が苦しくなるのでしょうか?」

「体が全体にしびれる……のです」


 全身の痺れ?


「具体的にどの部分が痺れるのでしょうか?」


 彼女は両手をさすった。

 両手というよりも両前腕というべきだろうか。


「足も……です」


 そういいながら両方の下腿をさする。


「なるほど。じゃあ口の周囲なんかも痺れるのでしょうか?」

「いえ、口は大丈夫です」


 ははーん。

 これは過呼吸かこきゅうだな。


「そいつは過呼吸ってやつじゃないかな」

「カコキュウ?」


 彼女には馴染なじみのない言葉だったみたいだ。

 オレはプリンターからコピー用紙を1枚取り出してそこに図を描いた。


「漢字は読めますか?」


 彼女は黙って横に首を振る。

 日本語がかなり出来ても漢字を読めない外国人は多い。


「じゃあ英語は?」

「分かります」


 そこでオレは白い紙に "hyperventilation" と書きながら「一生懸命に息をすることを日本語では過呼吸、英語ではハイパーベンチレーションと言います」と説明した。

 彼女はうなずいている。

 さらに、オレは紙に描いた人間の口から外に向けて矢印を引っ張り、その先に "CO2" と書いた。


「苦しいと思って必死に息をすると、体から二酸化炭素が抜けてしまうのです」


 そう言いながら "CO2" という文字を丸で囲む。


「二酸化炭素が減ると手足の先が痺れてくるわけですよ。時には口まで痺れてきます」


 両側の前腕と下腿に斜線を入れる。

 ついでに口にあたる部分にも斜線を入れた。

 こういう説明の時には患者自身が訴える症状に寄せることが大切だ。

 今回の例で言えば、手足に斜線を入れるのではなく、前腕と下腿に斜線を入れる。


「痺れて来ることは来ますが、これは決して悪いものではありません」


 彼女の表情が明るくなる。


「大きく、ゆっくり息をしたら痺れは徐々になくなっていくはずです。やってみて下さい」

「それがうまく出来ないので……ゴホン、ゴホン」


 再びオレは顔をそむけた。


「じゃあ無理をしなくてもいいですよ。痺れていても問題ないし、いずれ自然に治りますから」


 これだけ言って帰してしまったら患者の不安にこたえたことにならない。


「おそらく夜中とか休みの日に調子が悪くなったらどうしよう、と心配なのではありませんか?」


 彼女は大きくうなずいた。

 そりゃそうだろう。

 どんな事情があるのか知らないが、異国に子供と2人で住んでいて病気になるくらい不安な事はない。


「もうダメだ、と思ったら遠慮なく119番で救急車を呼んでください」


 そう言いながらオレは紙に "#119" と書いた。


「救急隊が来たらウチの診察券を見せてください。そうしたらこちらに運んでくれるはずです」

「分かりました」

「念のため、電子カルテにメモを残しておきましょう」


 彼女は何のことか理解できていないようだ。

 説明を加えなくてはならない。


「救急隊から連絡が入ったときに当直医が電子カルテを開くと、最初にこのメモが目に入るわけです」


 オレは続ける。


「ここにメモを書いておきますから」


 声に出して読み上げながらメモに文字を打ち込む。


「フランス人女性で息子さんとの2人暮らしです。マイコプラズマにかかって非常に不安に思っておられるので、救急要請があった時にはできるだけ応需してあげてください」


 できるだけ当直医の男気おとこぎに訴えかけるような文面にする。

 「金髪美女です」と付け加えておけば男の医者どもには効果抜群のはずだが、あとで問題になってもいけないのでやめておいた。


「うまく救急車を呼べるでしょうか?」


 彼女の心配はきない。

 そこでオレはとっておきの秘策を披露することにした。


(続く)


読者の皆様。22時すぎになりましたが、せっかくの週末なので、夜通し投稿を続けます。よかったらお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ