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第276話 あの頃アホだった男 3

 中学校2年生だったか3年生だったか。

 深夜のラジオ放送で有名になった話がある。

 なんとオレの住んでいる町の大仏像が夜になったら笑うのだとか。


 この話は「笑う大仏像」として一気に有名になった。


 当然の事ながら「見に行ってみようぜ」という話になる。

 で、クラスメート6人で夜に大仏像を見に行くことになった。


 オレたちが大仏像の前まで歩いたのは、ときおり風の吹く秋の夜。

 周囲に誰もいない中、向かいの広場に陣取じんどって6人で見張る。

 ライトアップされた大仏様はいつ笑うともなく、地平の彼方を見つめていた。



 男子6人が1時間もしゃべっていたら話題は1つしかない。


「おい、クラスの中で誰が1番可愛いと思う」

「やっぱり美月みつきさんかな」

「へえーっ、俺は愛葉あいばさんだな、やっぱり」

「おいおい、愛葉あいばさんは俺に気があんだよ」


 そんな話がオレの所に飛び火した。


「お前はどうなんだ?」


 実際のところ、オレにとってクラスの中にピンと来る女の子はいなかった。

 だから、逆の話題で盛り上げてやろうとした。

 これが悲劇を生むことになる。


「オレさあ、『こういう女は勘弁』ってのが、毒島ぶすじまだな」

「おおーっ、毒島ぶすじまかよ、ありゃダメだ!」

「『生まれて、すみません』ってのは毒島ぶすじまのためのセリフだろ」


 こういう形で盛り上がるはずだった。


 本人の名誉のために言っておくと、毒島ぶすじまは決してブスではない。

 可愛いとか何とか以前に名前で損をしてしまっているのだ。


 それにしても人をざまに言うものではない。

 この後、オレにバチが当たることになった。


「お前も自分の好みを告白してみろよ」


 そううながされたオレは言った。


毒島ぶすじまはダメだ」


 そう言うつもりだったのに。

 誰も最後まで聞いてくれなかった。


「ぶすじま」と言った段階で皆の大爆笑を誘ってしまったのだ。


「ブワッハッハッハ! よりにもよって毒島ぶすじまって」

「ゴキブリホイホイかよ、お前は」

「運命の男がここに居たぞ、毒島ぶすじまあ!」


 オレは一生懸命弁解した。


 誤解だ、毒島ぶすじまはダメだって言いたかったんだよ。

 常識で考えても分かるだろ。

 信じてくれよ、このオレを。


 しかし、涙を流しながらヒイヒイ笑っている連中には通用しない。


「いまさら訂正はきかんぞ!」

「お前はどこまでも笑わしてくれる奴だなあ」


 もう言われ放題だ。


 その時、一陣の風が吹いた。

 振り返ったオレ達の前で大仏様がニヤリと笑う。


「笑った!」


 全員が同時に叫んだ。



 後日、ラジオの深夜放送で大仏像が再び話題にのぼった。

 なんでも、ライトアップしている照明の固定がゆるんでいたのだそうだ。

 それで風が吹くたびに影が動いて笑ったように見えたのだとか。


「なーんだ、そんなことだったんですね。ガッカリしました」


 有名な男性タレントはそう言ってこの話題をめくくった。



 いやいや、オレは賛成しない。


 きっと大仏様もアホ中学生どもにあきれて笑ったんだと思う。



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