表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/126

第214話 アメリカン・ドリームの男 2

 前回は脳神経外科レジデント、ジャックの話をした。

 書いているうちに色々思い出したので当時の事を述べたい。


 ジャックは古いボルボに乗っていた。

 ウインカーが壊れていたので、曲がるときはいつも手信号だ。

 窓から左手を出してウインカー代わりにしている。


 車の中でオレたちはいつも馬鹿話をしていた。


「ティムがさ、某病院に半年ほど修行に行ってたんだ」

「なるほど」


 その某病院には有名な脳外科医がいる。

 仮に名前をドクター・ミッチェルとしておこう。


聴神経鞘腫ちょうしんけいしょうしゅの手術の助手を沢山やって、ついにミッチェルの法則ってのを編み出したわけ」

「おおーっ! どんな法則なわけ?」


 大発見かと思ったオレは素直に驚いた。


「つまり聴神経鞘腫の直径の二乗に2を足したら予想手術時間になるわけよ」

「なんじゃ、それ。アホらしすぎる!」

「ガッハッハ。ティムの考える事と言ったらそんなもんだぜ」


 ティムというのはジャックより1年下の脳外科レジデントだ。

 アメリカ人にしては、いや日本人にしても小柄な体にオッサンみたいな顔がついている。

 でも、アイビーリーグの1つ、ペンシルベニア大学とそのメディカルスクールをともにトップで卒業したそうだ。

 人は見かけによらない、とはこのことだと思わされた。


 が、ティムの話はそれだけではない。

 趣味は株の売買だ。

 オレが日本から来たといったら「日本ならニッケイだな」とティムに言われた。

 言うまでもなく日経新聞のことで、以来、オレたちは陰でニッケイ・ティムと呼んでいた。


 話を聴神経鞘腫ちょうしんけいしょうしゅに戻す。


「だからさ、1センチのサイズだったら1の二乗じじょう足す2で3時間、2センチだったら4足す2の6時間かかるってわけ」

「速い方だけど、無茶苦茶速いってわけじゃないような気が……」

「確かにそうだな」


 普通の脳外科医にとっては十分に速い。

 でも、あのドクター・ミッチェルだったらその半分くらいの時間でもいいのでは、とオレは思った。


「ジャック、それはもしかしたらセンチじゃなくてインチじゃないのか?」


 1インチは約2.5センチだ。

 そうすると直径2.5センチの腫瘍なら3時間、5センチでも6時間で摘出てきしゅつすることになる。

 おそるべきスピードだ。


「そうか! そうかもな」

「きっとそうだろ。それでこそオレたちのドクター・ミッチェルだぜ」

「そうだ、そうだ!」


 こんな調子だった。

 オレも若く、ジャックも若かった。



 ジャックは郊外の一軒家に住んでいた。

 庭が広く、森林のすぐそばで気持ちのいい場所だった。


 ジャックの奥さんはフィギュアスケートの元オリンピック選手だ。

 この町で生まれ、この町で育った。

 だからジャックが「神の手」、タカ・フクシマの所で修行したいと言ったら大反対されたそうだ。


 でも、実際に家族で引っ越したら思わぬことが起こった。

 新しく住んだ所で奥さんは大変な人気者になってしまったのだ。

 元オリンピック選手というのは田舎では大スターなのだろう。


 奥さんの方に大勢の友達ができる一方、ジャックの修行は困難を極めた。

 タカ・フクシマは雲上人うんじょうびととしても、直属の上司との人間関係がうまく行かなかったそうだ。

 それが家庭生活に影響したのか、ジャックは奥さんと別れて他の州に移った。


 その後の消息は前回述べた通り。

 最終的にジャックはアメリカン・ドリームを実現させたってわけ。


 それにしても人生というのは何が起こるか分からないもんだ。


(続く)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ