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第196話 視界から見えなくなった男

 以下、ほとんどが精神科医からの伝聞だ。

 事実関係に多少の理解不足や記憶違いがあるかもしれないが、そこは御理解いただきたい。


 ある地域に医療観察法病棟、いわゆる触法病棟しょくほうびょうとうを建てることになった。

 殺人や放火などの重大犯罪を犯した精神疾患患者の治療を行う病棟だ。


 当然、地域住民には大反対された。

 精神病院があるだけでも恐ろしいのに、重大犯罪を犯した患者を収容って?

 冗談じゃない!


 そういう意見が出るのももっともだ。


 とはいえ、刑務所代わりに閉鎖病棟で何十年も患者を隔離する、というのも前時代的なやり方ではある。

 被害者のうらつらみを別にすれば、患者が社会復帰し、しかも再犯しない、というのが理想的には違いない。

 そのためにできた医療観察法であり、触法病棟だ。


 ある候補地では、何回も行った住民説明会でようやく合意が得られようとした矢先に殺人事件が起こった。

 試験外泊していた患者が家族を殺してしまったのだ。


 別の候補地では職員2名が同行した試験外出のときに患者に逃げられた。

 プロスポーツの選手だったが、走り出したら恐ろしく速い。

 あっという間に視界の遥か彼方に見えなくなったそうだ。

 やはりプロってのはたいしたもんだ。


 さらに別の候補地でも同様に患者に逃げられた。

 こちらは元自衛隊、職員の目の前で消えてしまったのだ。

 巧妙なフェイントをかけられたことが後になって分かった。

 翌日、隣の県で保護されたが、常人が徒歩で移動できる距離ではなかった。

 やはり自衛隊ってのはたいしたもんだ。


 ……って感心している場合じゃない。

 各地の住民説明会は見事に卓袱台返ちゃぶだいがえしをくらうことになった。


 とはいえ、各地の病院関係者も行政も決してあきらめない。

 それぞれに苦労を重ねた結果、触法病棟は次第に増えていった。


 いざ運用を開始してみると、意外なことが判明した。

 触法病棟患者の治療成績が抜群に良かったのだ。

 というのも、通常の精神科病棟よりも医師、看護師ともに手厚く配備されている。

 大方、普通の精神科病棟の3倍くらいと思ってもらえばいい。


 だから、マンパワーも時間も余裕のある中で治療が行われる。

 そうすると、ごく少数の薬で状態を安定させることができるのだそうだ。

 その結果、通常の精神疾患より再発率が低いばかりか、通常の犯罪者より再犯率も低くなった。


 結局、触法患者といえども時間と手間をかけた治療が効を奏するという当たり前の結果になった。


 何事もやってみなくちゃ分からないってことなんだろうな。



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