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第111話 3000万円を要求する男

「残り3000万円を支払ってもらおうじゃないか、病院さんよ!」


 そういって現れたのはガラの悪そうな男だ。

 ごく最近、知的障害のある女性と結婚した。

 その女性の5歳の息子がウチの病院で1年前に亡くなっていたのだ。


 死因は不明。

 車にはねられて当院に搬入され、治療の甲斐あって九死に一生を得た。


 ……はずだった。


 そろそろ退院しようか、と言っていたら突然亡くなったのだ。

 文字通り頓死とんしだった。


 ところがドライバーの入っていた損保会社が支払いを拒否した。

 正確には半分の3000万円しか支払わなかったのだ。

「後の半分は病院の過失じゃないんですか?」というのがその理由。



 患児が亡くなったときにそばにいたのは祖父母と母親。


「先生方には感謝しかありません。憎いのはあの子をはねたドライバーです」


 そう言って祖母は泣いた。

 一方、知的障害のある母親は我が子が死んだことも理解していなかった。



 そして1年が過ぎた。

 遺族の間にも色々あったのだと思う。


 なぜか母親は結婚していた。

 冒頭に登場したガラの悪い男とだ。

 思いがけず母親が手にした3000万円が男を引き寄せたのだろう。


 分かりやすい話だ。


 亡くなった患児は気の毒だし、祖父母にはかける言葉もない。

 だが、あの男には1円たりとも金を渡してなるものか。


 治療に関係した医師たち共通の思いだ。

 日頃、お互いに仲が良いとは言えない救急医が、脳外科医が、小児科医が、耳鼻科医が、1つになった。

 あれほど結束力の強いチームをオレは見たことがない。


 法廷での証人尋問は1日がかりだった。


 何度も練習を重ねて出廷した被告チームに怖いものなし。

 見事に原告側弁護士の証人尋問を粉砕した。

 判決は我々の完全勝訴。



 裁判には勝ったが、すべての問題が解決したわけではない。

 未だに患児の死亡原因は不明。

 全力で治療をしたが、我々の力が及ばなかったのも事実だ。


 素直で明るい男の子だった。

 何年も経った今でも胸が痛む。



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