第99話 死んで母親を泣かす男
明け方に救急外来に運び込まれたのは交通事故に遭った男子中学生。
バイクで赤信号を無視し、乗用車と出合い頭に衝突したものだ。
もちろん無免許だしヘルメットも被っていなかった。
頭蓋骨骨折
急性硬膜外血種
急性硬膜下血種
脳挫傷
外傷性くも膜下出血
少なくとも5つの傷病名が並ぶ。
他に頸椎損傷や骨盤骨折もあるかもしれない。
オレは別件で救急外来に来ていた。
当直していた脳外科レジデントが手術すべきかどうか、悩んでいる。
今、脳外科の宅直スタッフを呼び出しているところだという。
オレが決めていいんだったらダメを承知で手術する。
「死ぬのは死ぬと思うよ」
「やっぱりダメですか」
「でも手術しないと親はおさまりがつかないだろうな」
「そうですね」
「まだ中学生だからな」
その後、いろいろな情報が入ってきた。
来院時心停止。
両側瞳孔散大、対光反射なし。
蘇生処置後に救急外来で自己心拍再開。
などなど。
外傷による心停止は滅多に救命できない。
下手したら手術室で再度心停止するということもあり得る。
慌てて駆けつけてきた母親は足腰が立たないほど動揺していた。
バイクで暴走するのは褒められた話ではない。
でも、それ以上に怪しからんのは死んで母親を悲しませることだ。
頼むからヘルメットをしてくれ。
信号だけでも守ってくれ。
無免許運転ぐらい、オレは許す。
カーチャンを泣かすな!




