第57話 乱暴者に声をかける男
テレビを見ていたら、病院職員として働く警察OBのニュースがあった。
何か事件があったらしい。
するとコメンテーターが言った。
「病院と警察って、一体どんな関係があるんですかね?」
実は大アリだ。
病院では用心棒代わりに警察OBを雇用していることが多い。
怒鳴ったりガラスを割ったりする患者が後を絶たないからだ。
そういう輩には、ついこちらも感情的になって大きな声を出しそうになる。
が、その前に院内にいる警察OBに連絡がいく。
「御主人、落ち着いて座ってくれるかな?」
穏やかな物言いだが、その場の空気が一変する。
それまで怒鳴っていた人間が急に大人しくなる。
やっぱり警察OBというのは場数が違う。
自然に発するオーラがチンピラには効果的みたいだ。
知り合いの病院では月水金に来てもらっていた。
でもトラブルは火曜と木曜に頻発する。
オレはその警察OBに直接尋ねた。
曜日の違いには何か理由があるのか、と。
彼は言った。
「いやあ先生、出勤したときに病院の中を1周回るんですよ」
「1周……ですか」
「それでね、ガラの悪そうな連中にはこっちから声をかけるんですわ」
声をかけると言っても「おはよう」とか「お疲れさん」とか。
それで十分だそうだ。
「あらかじめ声をかけておくとね、そういう連中はカッとなってもギリギリのところで踏みとどまるんですよ。今日だけはやめておこうってね」
それで月水金にはトラブルが少なく、火木は色々起こるのだろう。
オレたちは警察OBが乱暴者を見事に投げ飛ばすところを期待してしまう。
実際には未然のトラブル防止、それに尽きるのだそうだ。
プロにほど省エネ志向になる。
最小限の労力で最大の効果を得る。
どの世界も同じってことかな。




