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第1001話 迷う男 2(最終回)

 とうとう思い切って隣の列を上に向かって目を走らせた。


 6097


 あった、あった!

 まぎれもなくオレの番号だ。


 何度も何度も受験票の数字を見て確認する。


 新聞社だろうか、週刊誌だろうか。

 周囲からカメラマンたちに何枚も写真をられる。


 これまでのオレの人生がすべて肯定こうていされた! 

 心からそう思った瞬間だ。



 ふと「合格者は講堂の中まで合格証明書を受け取りに来てください」という案内に気づいた。

 経路に沿って進んでいったが、夢の中にいるようにフワフワして足の裏に力が入らない。


 そしてオレの氏名とともに「合格証明書 浪速なにわ大学医学部医学科」と書かれた紙片を受け取った。


 単に「医学部」とあるだけでなく「医学部医学科」とあるのが如何いかにも本物っぽい。


 遂に、遂に。

 あの財前五郎ざいぜんごろう里見脩二さとみしゅうじたちの末席に加えてもらった。

 果たしてリアル「白い巨塔」はどんなドラマをオレに見せてくれるのだろうか。



「この合格は本当に本当なのか?」

「今にも誰かがやってきて『間違いでした』と合格証明書を取り上げられるんじゃなかろうか」


 そう心配しながら帰路に着いた。


 正真正銘の浪速大学の合格証明書を見せたら母親は仰天して腰を抜かしてしまった。

 そして里帰り出産のために実家に帰っていた従姉いとこのミキちゃんにも報告に行く。

 ミキちゃんには中学生の時に英語をみてもらっていた。

 親に嘘をついていた事にはあきれられたが、素直に祝福された。


 結局、現役と浪人あわせて大学入試は2勝4敗だ。

 ずいぶん負けが多いけど、第1志望に合格できたのだから良しとしよう。



 あの合格発表の日からウン十年がつ。


 「白い巨塔」の二大テーマ、教授選と医療裁判。

 幸か不幸か、どちらも直接には縁のないままに医者人生を送っている。


 その内容はこれまでの数多くの話で語った通りだ。


 そして今や「白い巨塔」を間近で見るよりも、あのような小説を書きたいと願うようになった。



 最後にひとこと、若い人たちに伝えたいことがある。


 大学受験の結果によって人生が決まる。

 それも一つの真実だろう。


 でも、オレはむしろ受験というのは真剣に何かに挑戦した事のあかしだと思う。


 ひたむきに努力し、試験にこうから立ち向かう。

 その上で「受かった、受かった!」と大喜びしたり「畜生、落ちてしまった!」と涙を流したり。

 これ以上、懸命になれる事が他にあるだろうか。


 スポーツや音楽などで身を立てるつもりがないんだったら、青春の一時期を受験勉強にささげるのもいいんじゃないかと思う。


 受験でも何でも全力でぶつかってこそだ。



 さて、今回をもってオレの長い長い物語を終えることにする。


 いつかまた会う事があったら、何かに真剣に取り組んだキミ自身の物語をきかせてくれ。


 オレは楽しみにしている。


(「診察室のトホホホホ」 完)



読者の皆様。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。皆様の実りある人生をお祈りしています。

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