表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/126

第999話 千本ノックを要求する女 2

 それから昼夜分ちゅうやわかたぬプレゼンの練習が始まった。

 やってみると分かるが、千本ノックは受ける方も大変だが、する方も大変だ。


 妻の準備したプレゼンは40分ほどの長さになった。

 長くなるのはいつもの事なので、そこから冗長じょうちょうにならないようけずる。

 削れば削るほどプレゼンはシャープになっていく。


「ここの部分は『医療情報部の協力を得て日本で最初のオンライン・インシデント・レポート・システムを作りました』と言った方が〇〇教授からの清き1票がチャリーンと入るんじゃないかな」

「そうね」


「ここの部分。『公衆衛生学教室の推挙を得てハーバード公衆衛生大学院に留学しました』と言うべきだろう。そうしたら✕✕教授からの1票をいただきだぞ」

「普通に応募して入ったんだけど」

「持ち上げておいたらいいじゃん、推薦状も書いてもらっているわけだから」

「じゃあ、そうするわ」


 少しずつ40分から20分に削っていく作業を行う。

 何しろ夜中になっても休憩なんか取らせてもらえない。

 オレたちは寝不足の目をこすりながら準備したが、プレゼンの方はどんどんシャープになっていった。

 さながら試合に向けたプロボクサーの減量のようなものだろうか。


 そして教授選当日を迎える。


 部長室で待機していた妻のところに教務担当者が呼びに来た。


「あの、先生。候補者にはあらかじめ教務の方に出頭していただくことになっていまして」

「あら、知らなかったわ。何しろ初めての事なので」

「そうですよね。もう皆さんお揃いです」


 そう言われて慌てて行った教授会。

 すでにピーンと張りつめた空気のもと全教授が待っていた。

 

 バタバタと行くことにはなったが、妻はすでにスライドプロジェクターとマイクを会議室に準備していた。

 どんな講演会でも2系統のシステムを用意しておき、万が一にも「出来ませんでした」ということのないようにしているのが彼女のスタイルだ。


 いざ本番。

 あとになってその時の状況をオレは同級生の教授から聴いた。

 

 妻のプレゼンは冴えに冴えたそうだ。

 新しい分野を切りひらいた苦労、研究成果、臨床的貢献など。

 畑違いの基礎系教授に対しても十分にアピールするものだった。

 20分の発表を終えた瞬間、万雷の拍手が……鳴らなかった。

 それが教授選という場であった、ただそれだけの理由で、だそうだ。


 結果はともかく力を出し切った妻は午後の発表を待った。


 オレの同級生でもある選考委員長から連絡があったのは夕方になってからだ。


 「丸居先生は厳正なる選考の結果、本学医学部医学科教授として相応ふさわしいものと認められました。おめでとうございます」


 投票結果は49対2だったそうだ。


「それでも2票は非承認だったわけね」

「いやいや、満票なんて事は普通は起こらんだろう。おめでとう!」


 妻が教授に選出されたという噂はあっという間に拡がった。

 胡蝶蘭こちょうらんやお祝いの品があちこちから届く。


 妻は上機嫌で出歩いていたが、オレは1週間くらい体調が悪かった。

 連日連夜の練習で昼でも眠かったのだ。


 今となってはずいぶん昔の事になってしまったけど、「白い巨塔」でえがかれた医学部教授選を間近に見ることのできた貴重な経験だったと思う。


(「千本ノックを要求する女」シリーズ 完)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ