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第776話 教科書になりかけた男

 最近の話題といえば通訳の水原みずはら一平いっぺい氏が賭博でメジャーリーガーの大谷おおたに翔平しょうへい選手のお金を使い込んでしまった事だろうか。

 報道によると大谷選手の銀行口座から水原氏が盗んだ金の総額は1600万ドル、日本円にして約24億円ということだ。

 別の情報では水原氏はトータルで218億円勝って280億円負けたので62億円のマイナスなのだとか。

 そうすると24億円との差し引きでまだ胴元に対して38億円の借金が残っていることになる。

 水原氏が命をねらわれるような事があっても不思議ではない。


 で、問題はここからだ。


 実は大谷選手と水原氏の友情物語が2025年度採用の中学3年生向けの英語の教科書になっていたのだそうだ。

 教育出版が「裏方にスポットを当てる」という目的で作成した企画で「水原氏は単なる通訳はなく大谷をプライベートでも支えている」という感動の物語になっている。

 が、実際は大谷選手が2018年に銀行口座を作るときに、水原氏が手伝うという名目で自分が自由に操作できるようにしておき、2021年からのスポーツ賭博に使っていた事が判明した。

 で、教育出版は内容の修正や差し替えを検討しているのだそうだ。


 これ、感動の物語のままでいいんじゃないかとオレは思う。

 自分が中学3年生の時の事を思い出してみると、もう立派なオッサンだった。

 中学生にとっては「教科書になった後にも何が起こるかわからない」「お金がからむと人は裏切ることもある」「博打はやめておけ」という人生の教訓になるはず。

 そして英語とはいえ、リアルな友情と裏切りの物語だから中学生たちは興味きょうみ津々《しんしん》で読むんじゃないかな。

 考えてみればこんな興味深い話はない。

 先生と生徒がそれぞれに突っ込みを入れながら授業が盛り上がるところが目に浮かぶ。


 ついでだから「胴元 (bookmaker)」とか「賭け金 (wager)」とか「銀行口座 (bank account)」「推定無罪 (presumed innocent)」とか、生きた英語も学べること間違いなし。

 それだけでなく真面目に英語を勉強する事の大切さもよくわかるはず。

 教育出版には修正せずにおいてもらい、市町村教育委員会には是非とも採用してもらいたい。


 そういえば大昔に「新しい歴史教科書をつくる会」が作った日本史教科書が右に寄り過ぎているということで左派から攻撃を受けたというニュースを思い出す。

 左派の人たちは市町村教育委員会に採用しないよう圧力をかけていたんじゃなかったかな。


 でも、この日本史の教科書。

 一連の騒動であまりにも有名になりすぎたためか、一般書店でベストセラーになってしまった。

 実はオレも「新しい歴史教科書」を本屋で買って読んでみた経験がある。

 何の事はない、単なる普通の教科書だった。


 だからこの水原氏の友情と裏切りの物語も、その部分だけ対訳本か何かにして一般書店で売り出したらどうだろうか。

 薄くても構わない、その分だけ安い価格設定が可能になる。

 きっとベストセラーになるぞ。



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