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ジェノサイド・オンライン 〜極悪令嬢のプレイ日記〜  作者: たけのこ


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319.一条直志の回想

今まで張ってきた伏線を回収するとめっちゃ気持ちいい

 どうしてだろうか、娘を愛せないのは――それは、私から玲子(最愛の人)を奪う存在だからだ。

 確かに初めて娘が生まれた時は心の底から喜んだ。愛情だって湧いていた。けれど、すぐに気付いたのだ――これは、私と玲子の子ではないな、と。

 違和感――赤子の娘に感じる、果てしない同族嫌悪にも似た感情。


『……』


『……』


 泣きもせず、クスリとも笑わず、ただじっとコチラを見詰める黒い瞳。握っているのは玩具ではなく、握り潰した虫の死骸。気味が悪い。

 まるで鏡を見ている様で、気分が悪い。そこに玲子の面影はなく、ただ自分に似たナニカがそこに居た。

 感情らしい感情はなく、腹が減っても、排泄をした時でさえ泣く事はせず、ただ静かに大人の袖を引く。気持ちが悪い。

 どうしてお前はそこまで気持ち悪くなれるのだ? 玲子の娘だろう? なぜ玲子の良さを受け継がなかった?

 ……理由は分かっている。玲子がオリジナルの人間ではないからだ。人工物だからだ。人工物に遺伝子など無い。正確には、玲子由来の、玲子本人の遺伝情報が無いのだ。

 人間は、自らの造物と子を成す事が出来る様になった。ただそれは、自然な交配ではない。それだけの事。

 玲子の胎に送り込まれた私の遺伝情報を素に、それっぽいクローンをデザインするだけの真似事だ。

 未だに玲子たち、セカンドヒューマンと呼ばれる存在の人権が認められない理由の一つでもある。


『玲奈』


『……』


『お前は……』


『……』


『お母さんの事が、好きか……?』


『……』


 今更ながら恐ろしいと思った。愛する人との、愛の結晶が欲しい――そんな、普通の人間らしい欲求に突き動かされた玲子を拒否できず、自らのクローンを作ってしまった事に。

 だって、そうだろう? 私と玲子は他人だが、娘と玲子は親子なのだ。今まで私が独占していた玲子の愛を、この娘は娘であるというだけで半分持って行こうとしている。

 この娘が成長し、私のように玲子を愛してしまったら? 玲子の愛を得ようと、私のように全力で行動を起こしたらどうなる?

 私は、玲子の恋人という肩書きが、酷く脆く思えた……せめて、夫婦に、家族に成らねばならぬと恐怖に突き動かされた。


『私は玲子と結婚する』


『戯れ言はおよしなさい、あんなヒトモドキに誑かされて……』


『お前は四条家の麻里奈と婚姻して貰う』


『私が愛するのは玲子のみだ』


『無機物に恋をするのは構わんが、跡継ぎは作って貰う。本物の人間との間にな』


『……麻里奈と子を作れと?』


『そうだ、純粋な人間の跡継ぎが居なければ認める事は出来ん』


『そも、アレには戸籍も人権も無いでしょうに……どうやって結婚するつもりなの?』


 煩わしい。全てが面倒で憎かった。玲子を人間と認めない親など、私の親ではない。ただ肉の身体を持って生まれただけで、惰性で人間をやっている貴様らよりも、自ら感情を学んだ玲子の方がよほど人間らしい。

 けれど、そうなのだ……玲子は人間らしいのだ。だからこそ、周囲から認められ、祝福されてこそ彼女は喜ぶ。

 この有機物たちに認めて貰う努力を、私は、玲子の為にもしなければならない。


『……分かった、子は作る』


『分かってくれたか』


『だが、玲子は諦めない。彼女に人権も戸籍も用意する』


『……貴様は自分が言っとる意味を分かっとるのか?』


『あぁ、私は本気だよ――一条邦彦殿』


『はっ! なら先ずは私から家督を奪ってみせろ!』


 彼女に、玲子に人権を……娘の人権が認められたのだ、親の人権が認められないなど許されない。

 セカンドヒューマンに同情的な世論も無い訳でない。必ず何処かに突破口はある筈だ。私が玲子と心置きなく過ごせる様に。

 だが、ここでも娘が邪魔をする――年月を経る毎に、あの娘の異常行動が私の足を引っ張る。

 娘の事が広まるにつれ、私と玲子の仲を反対するのは両親だけではなくなった。当主を支える分家筋や家臣達からも苦言を呈される。

 やはり人の子ではないからだと、自然な営みから外れたからこうなるのだと……何よりも耐え難かったのは、私ではなく玲子に悪意をぶつけられる事だ。

 あの純粋で、無垢で、誰よりも人間らしく、私に人間らしさと愛を教えてくれた人を、ヒトの皮を被った悪意が傷付ける。

 私のすべき事が増えた。父から家督を奪うだけでは済まされない。玲子を傷付ける全ての者たちを排除し、黙らせ、屈服させなければならない。

 彼女が健やかに過ごせるように環境を整え、名実共に家族という肩書きを得て、またもう一度この私を愛して貰うのだ。娘ではなく、この私だけを。

 しかし、時間は私の予想よりも遥かに残されていなかった――玲子が倒れたのだ。原因は処理落ちだった。彼女に二人分の愛情は重すぎたのだ。


『頼む、玲子……娘の事は忘れてくれ』


『嫌よ』


『せめて、全てが片付いて君と家族に成れるまでの間だけでも……』


『あの子の事を忘れるなんて、一瞬だとしても嫌だわ』


 玲子は強情で、強欲で、そして私だけを選んではくれなかった。彼女の傍にはいつも娘が居た。


『お母さんの他に女の人が居るんですよね――浮気者』


 小さな娘から発せられた言葉に殺意が湧いた。誰のせいでこうなったと思っているのかと。玲子に叱られても、それが嬉しいのだと喜ぶ娘に嫉妬した。

 彼女の視線を、意識を、私に向けられていたそれを、そんな卑劣な手段で奪うのかと。

 私はその時、初めて、自分のおかしさを認識した。このままでは玲子の大事なモノ(自分の娘)を壊してしまうと。玲子に嫌われたくはない。


 早く、早く、早く……頑張って頑張って頑張って、耐えて耐えて耐えて、娘と顔を会わせない様に、その分だけ動き続ける。

 玲子の為に、私自身の為にも、彼女に戸籍と人権を、周囲からの祝福を、大容量の人格と記憶の保存を、それら全てを認める法整備も必要だ。


 家督を奪い、周囲を黙らせ、政界で出世し、そして――玲子は亡くなった。


『……』


『……』


 全ての活動を停止し、空っぽになった器を前に娘と二人、沈黙したまま立ち尽くす。

 玲子の遺体は綺麗だった。肉の器と違って老廃物など出ない。病室はいつも清潔で、毎日身体を拭いて貰っていたのだから当たり前だ。

 でも、だからこそ、今この瞬間にも彼女がまた動いてくれるのではないかと思えた。


『ねぇねぇ、どうしたの?』


 そんな事を言いながら、娘が玲子の遺体を擽ってみせる。

 また笑って欲しいからと、目覚めて欲しいと玲子の遺体に無邪気に触れるのだ。

 娘の顔がよく見えない。目は合っている。けれど、顔をよく認識できない。私はコレを人とは、娘とは認められなかった。


『お前さえ居なければ、お前が玲子を奪った』


 だからこそ、まだ幼い娘にこんな言葉が吐けたのだ。


『最後までアイツはお前の記憶を譲らなかった』


『お前さえ消えればアイツはまだ生き永らえた』


『あともう少し生きてくれれば老害共を消せた』


『また一緒に暮らせたはずなのに』


 大人気ない私の本音を聞いて、娘は顔色一つ変えずにこう返した――お前が消えれば私はもっと母と過ごせた、と。


『……』


 娘はなぜ玲子が亡くなったのか、この時はまだ理解していなかったと思う。

 けれど、直感的に相手も感じ取ったのだろう――目の前の人物こそが、自分から最愛の人の半分と余命を持って行ったのだと。


 それから娘は不気味な程に大人しくなった。母の言いつけを守るのだと、真人間として振る舞う様になった。

 だがそれも長くは続かない。もって数年だろうと予想していた。

 真人間の皮の中で異常性が蠢いていた。常に不満と鬱屈が娘の周囲に漂っていた。あれはいずれ爆発する危険物だ。


 それを知っていながら、私は娘を中途半端に監視だけして放置した。やるべき事があったからだ。

 玲子が亡くなり、彼女が嫌な思いをしない様にと配慮していたが、それも無くなった。私は自分の全てを使って立場を固めた。

 あれだけ時間を掛けていたのはなんだったのだと拍子抜けする程に、両親は怯えて地方の別邸に引っ込んだ。幾つかの分家と家臣は代替わりした。先輩議員が、派閥の重鎮が、副大臣が、そして大臣が、相次いで不祥事で辞任、または解任され、私は異例の若さで閣僚入りした。


 立場を固め、出来る事や振るえる権力が増え、誰にも邪魔されなくなった――


「もう少しだ、玲子――また君に会える」


 その呟きの直後、玲子の墓所へと向かってくる軽い足音が耳に届く。

コイツら激重だよー!玲子さん魔性の女だよー!

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― 新着の感想 ―
もし3人で過ごす時間がもっとあったならば、もし周囲がもっと寛容的で理解があったならば、もし鏡を見た上でそれでもとできたならば、もし、もし、もし、もし............これは仮定で幻に過ぎないが彼…
いやーパッパとレーナさんそっくりだよ! 間違いなく娘だね! しかしパッパの遺伝子ちょっといじるとナイスバディな女の子に成長するの……このシリアスな場面で思うのも悪いんだけどなんかちょっと笑っちゃうん…
一応愛着が最初から無かったわけではないと…でもレーナ嬢の生まれ方を鑑みるにセカンドヒューマンとの子は本人が避けきれない同族嫌悪に苛まれる可能性が高いのでは…? あと遺伝子が一つしかないから遺伝的な病気…
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