弁論部とは?①
部室というには少し広い教室。
コの字型に並ぶ机に8台のパソコン。
落書きもされておらずきれいな状態のホワイトボードに、最新のプロジェクター。
そして室内の壁にかけられたお世辞にも上手いとは言えない字で書かれた書。
そこにでかでかと書かれている言葉…
「真面目にばかたれ」
第2話 「弁論部とは?」
新学期開始まであと5日。
今日も校庭や体育館では運動部が、講堂や各部室では文化部が部活に励んでいる。
9日は入学式。新しく自分達の仲間になる新入生が学校に来る。
3年生は最後の1年に後悔を残さないために、2年生は先輩として、後輩の指導役をしっかり務められる
ように、昨年以上に気合いを入れて取り組んでいる。
勿論、ここも例外ではない。
教室棟を抜け、屋上に向かって階段を上がりきった左。
ドアの向こうには今日も人の気配がある。
そう、この場所こそが都立双華高校弁論部の部室。
彼らも例に漏れず春休み返上で活動するようである。
ただ、ここでは他の部活とは異なることが…。
「なんで昨日俺のこと置いて帰ってるわけ!?走って追いかけたのに誰にも会わなかったし…。色々考え込んじゃって昨日の夜歯ぁ磨くの忘れて寝ちゃったじゃん!!」
本来ならば誰もが恐れ、尊敬する部長…のはずが、弁論部部長桜庭義孝3年はこれに当てはまらなかった。
昨日行われた新入生歓迎会後、部室にただ一人放置されたことについて喚いている。
「落ち着いて下さい桜庭部長。言っておきますが、昨日私達はちゃんと声をかけてから帰宅しました。」
副部長の仕事は部長のサポート…にも関わらず、バッサリと部長の発言を叩き落とす3年梶本恵里。
彼女は間違いなく部内の誰よりも義孝に厳しく、冷たい。
「そうだよ~。何回も声かけて起こしてんのに起きなかったのよっしー部長じゃん!!ね、豪先輩!?」
上下関係って何?敬語?なにそれ美味しいの?先輩に平気で暴言を吐ける2年の今野京香。
「うむ。そうだぞ義孝。なぁ、清田?」
口数は多くないが間違いなく頼りになる岩城豪。3年にして平部員の彼はいかつい割によく後輩に慕われている。
「そうっすよ!なのに部長ったら、俺らの事疑うんすか?俺すげぇショックだよ。な、亮?」
そう言う2年の清田和正。ショックだという発言の割に顔は悪戯を企んでいる子供のようである。
「そうですね。桜庭部長。確かに自分達は昨日、結果的に部長を部室に置いて帰宅するということになってしまいましたが、それはこちらが意図したものではありません。少し卑屈になっておられるようですが、自分達はずっと部長を気にかけておりましたし、帰りの道中も話題のほとんどが部長についてでした。それだけ慕われているというのに、部長は自分達を信頼していただけないのでしょうか?」
マシンガンのように次々と言葉の弾を放ってくる2年の藤川亮。
普通の人間が聞けばどこか胡散臭いところがある彼らの説明だが…
「皆っ!!…うぅぅ…ありがとう(涙)俺ってやっぱ皆に愛されてるんだね!!俺嬉しい!!俺も皆が好きだ!!恵里は大好きだ!!「それは結構です。」恵里!!分かってる!!なんだかんだ言って恵里も俺と一緒に帰りたかったんだよね!!今日こそ一緒に帰ろう!あぁそうしよう!!」
普通じゃないのがこの男。
「はぁ…もうそれで結構です。」
「彩ちゃんもたっくんも俺のこと心配してくれたんだよね!?俺本当に良い仲間を持ったよ!!ありがとう!!」
「「あぁ…はい…それは何よりです。」」
完全にテンションが上がり、恵里にいつもの愛の言葉を押し売りする義孝の勢いにはいとしか言えない
1年生2人。
彼らの存在こそが今の部活動の光景として異様である。
今はまだ4月5日。入学式は9日。各部活仮入部どころか部活動見学も始まっていない中、2人は部員として春休み期間の弁論部の活動に参加している。
<歓迎会終了後>
「へぇ~、彩ちんも甘党なんだ~。京香と一緒だね!!あ!今度駅前に新しくスイーツバイキング出来るらしいよ。オープンしたら一緒に行こうね!!」
「あっ…はい。嬉しいです。」
共通の話題を見つけてはしゃぐ京香にスイーツバイキングに行くという約束を取り付けられて困惑しながも嬉しそうに顔を綻ばせる彩の頭に和正の手がのる。
「あやや~。京香と出かける時は気をつけないと。こいつあっちこっち人のこと連れ回すから次の日筋肉痛で動けなくなるぞ(笑)」
京香の方を親指で指しながらこっそり言う和正だが、本人が思っている以上に声がでかい。
「聞こえてるけど~?ていうか!カズは行かないんだからいいでしょ!!それに連れ回してなんかないし!!こないだ豪先輩とお菓子の買出し行ったけど、次の日先輩なんともなかったじゃん!!カズがひ弱なだけでしょ!?」
「それは岩城先輩がタフだからですよ。」
繰り出される亮の渾身の突っ込み。本人にその自覚は無いが。
そんなコント交じりの会話を繰り広げている2年生ズと彩を横目に恵里は拓未に色々聞いていた。
「拓未は他の部活に興味はないのかしら?」
「まぁ…なるべく早く家に帰りたいので…。」
「なんだよたくみマン。彼女?早く帰って彼女といちゃこらしたいってか?」
拓未のどこか意味深な発言に京香の相手を放り出して食いついてきた和正。
「違っ!違いますよ!!…まぁでも、早く帰らないと拗ねるやつがいるので。」
「(年の離れた妹か弟がいるのかな?)」
彩は勝手に拓未の早い帰りを待つ存在を推理していた。
「え~!!たくみん彼女いないの?意外~。じゃあ京香立候補しちゃおうかな!?」
「えっ…今野先輩…拓未君のこと好きなんですか?」
気が付けば恋愛の話になるのが高校生。
京香の突然の拓未の彼女に立候補宣言に、恋愛経験のない初心な彩は驚きを隠せずにいた。
そんな彩を見た豪が彼女の頭に手を置き、優しく撫でる。
「今野のあれは今に始まったことではない。ただの冗談だ。一々気にしていてはやっていけないぞ。」
薄く笑って言う豪には父親によく似た雰囲気が漂っており、彩は安心した。
「豪先輩ひどい~。冗談じゃないかもしれないじゃないですか~。ね、たくみん!!」
「…いや…自分はなんとも…。」
「拓未君を困らせてはいけませんよ京香さん。それに…。」
「ばらしちまうぞ?お前の愛しのまぁたんに(笑)」
「ちょっ…!!駄目駄目~!!絶対に今のこと言っちゃ駄目だからね!!」
「ばらされたくなかったら1週間俺の奴隷になれ(笑)」
「はぁ?意味分かんないんだけど。なんで京香がカズの言うこと聞かなきゃいけないわけ?」
「だったらいいぜ別に。まぁたんに京香が1年生の男子に迫ってたぜ~って言うだけだし。そうする?(笑)」
「う~…最低。」
「こらこらやめなさい。清田君人を脅迫するのは止めなさい。京香さんも。元々はあなたの発言に問題があったのですよ。大体君たちはいつも…。」
勿論、和正は本気で言っているわけではないし、京香もそれは理解している。
ただのじゃれ合いで済むことなのだがそうさせないのが亮である。説教開始。
話が当初の軸からずれてしまったことによって置いてけぼりをくらった拓未は隣に座る恵里に話しかけた。
彩と豪は少し離れたところで残ったお菓子に手を付けながらほのぼのと話をしている。
「梶本先輩…まぁたんて?」
「あぁ…、京香の彼氏よ。他校生なの。中々会えないからかしらね…寂しさを紛らわせるために軽く振る舞っているだけなのよ。気を悪くさせてしまったならごめんなさいね。代わりに謝るわ。」
「あ…いえ。大丈夫です…。」
本当に困った子だわと言いながら苦笑する恵里の横顔は手のかかる子供を見る母のようであった。
「はいはい、落ち着きなさい。皆そろそろお開きにしましょう?」
恵里のこの言葉に全員が反応する(一人を除いて)。
「もうこんな時間か。あまり遅くなると、それぞれ保護者が心配することだろう。」
「そうっすね!あ~面白かった。」
「最後のは面白くない!!カズの馬鹿!!絶対にまぁたんには言わないでよ!!」
「言われて困るならそのような発言は控えるべきですよ。だからあなたは…「2年生は仲良しですね。」?」
再び始まりかけた亮の説教を遮っての彩の発言に亮は硬直。気付かずに微笑む彩だったが、
「何言ってんのあやや?」「え?」
「こほん…そうですよ彩さん。間違えてもらっては困ります。」
2年生2人からの否定の言葉を受けて、墓穴を掘ったかと落ち込む彩はとりあえず謝る。
「あの…えっと…ごめんなさ「2年生がじゃなくてさ、弁論部が仲良しなんだよ!!」え?」
彩に覆いかぶさるように抱き着いて言う京香は満面の笑顔を浮かべている。
「ふふ、そうね。勿論彩と拓未も。」「うむ。拒否権は無しだ。」
「え?え?」「2年とか、学年じゃなくて…部員皆仲良いってこと。俺らも仲間ってことだよ。」
理解しきれていない彩に説明する拓未。
「拓未君…うん!そうだね!」
先ほどまでのふざけたやり合いはどこへいったのか一気に和やかな空気になる部室。
桜を咲かせようと急いでやってきた春に負けない程の暖かさが部屋中に広がった。
「さぁ、きれいにまとまった所で帰りましょうか。途中まで皆で一緒に帰りましょう。」
『賛成~!!』
切り替え早くテキパキと帰宅準備を進める一同。
「では行きましょうか。」
『はい!!』
忘れ物の最終確認を終えた豪が最後に部室を出て全員で階段を降りて行く。
②へ続く。




