ようこそ弁論部!!
部室というには少し広い教室。
コの字型に並ぶ机に8台のパソコン。
落書きもされておらずきれいな状態のホワイトボードに、最新のプロジェクター。
そして室内の壁にかけられたお世辞にも上手いとは言えない字で書かれた書。
そこにでかでかと書かれている言葉・・・
「真面目にばかたれ」
第1話 「ようこそ弁論部!!」
入学式もまだ行われていない4月4日。
学校には部活動の生徒のみが登校し、それぞれの活動に精を出している。
グラウンドでは野球部やサッカー部のかけ声が響き、
体育館からはバスケ部のバッシュが床に擦れる音やバレー部の鬼顧問の怒号が聞こえる。
講堂で練習をしている吹奏楽部も、時折肩の力が抜けるような音を出しながらもそれぞれの
パートに分かれて取り組んでいる様子が聞いてとれる。
教室棟に行けば、そこだけが別空間のようにしんとしている。
補習期間が終わった今わざわざ学校に来て勉強をしようという生徒がいないのは当たり前のことなので
何の疑問もないが・・・。
ふと感じる人の気配。4階に上がった先にあるのは屋上へ続くドア。
そして・・・
「その場でご唱和下さい!真面目にば語れ!!」
「真面目にば語れ!!」
「真面目にば語れ!!」
「真面目にば語れ!!」
左にあるドアの向こう側から聞こえる声。
この場所こそ、都立双華高校の弁論部。
「おけー。おけー。皆座ってよろし。」
中には男女合わせて8人。
部長らしき男子生徒が着席の号令をかける。
「今日君達を呼んだのは他でもない。
・・・一足早い新入部員の歓迎会をやりまーす!!ドンドンパフパフー!!略してドンパフー!!やふーぃ!!やふーっかはっ!!ごほごhhっっ!!」
「部長落ち着いて下さい。新入部員が怯えています。それに先ほどのかけ合い・・・意味不明です。」
「ごほっ・・・恵里は今年度も厳しいな(笑)でもそんなとこも好きだ。ちなみにさっきのかけ合いは…
気分だ!!今日朝の占いで『人を巻き込んで大きな声を出すとあなたはハッピー☆』って言ってたからな。
マダム・ラナイの占いはよく当たるんだコレが!!これ今後も続けるから!気に入った!!はい、決定!!」
「義孝の奇行は今に始まったことでは無いだろう。」
「そうですよ~恵里先輩。よっしー部長っていっつもこんなんじゃないですか(笑)」
「はぁ…豪も京香も桜庭部長には甘いですね。ご覧なさい、亮や和正なんてこちらに見向きもせずに1年生へのフォローに回っているじゃないですか。」
言われた先に目をやれば爽やかな好青年と真面目を形にしたような青年が1年生に話しかけていた。
「びびらせてごめんな。あの部長さん悪い人じゃねぇんだけど、ちょっと頭が弱…げふんげふん…ノリがいいだけなんだよ。今年1年部長ってことでかなり燃えててさ、たまーにうざいかもだけど、嫌わないでやってな。部活さえ始まればまだ少しはマシなとこあるからさ!!な、亮?」
「そうですね。桜庭部長は自分達が入部した時にはすでに今のようなおちゃらけた方でしたので、今更こちらが何を言ってもどうしようもありません。1年生の君達には申し訳ありませんが、なんとか早い内に彼の尊敬できるところを見つけて慣れて下さい。」
「はぁ……。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「待て待て~い!!和正も亮も、なんだ部長に対してその言い草は!!俺は3年生だぞ!!一番上の学年なんだぞ!!その俺に対して頭が弱いとかさ…うざいとかさ…死んじゃえ馬鹿とかさ…ひどくない?恵里ー!!2年生がいじめてくるー!!」
「だから落ち着いて下さい部長。2人共そこまでは言っていません。
はぁ…とりあえず自己紹介でもしませんか?
私達が一方的に知っていても1年生2人は私達の名前さえも知らないのですから。今日の主役は1年生でしょう?その1年生をいつまでも放置しておくような方が部長として良いのでしょうか?」
桜庭義孝17歳。振り返れば怯えた目をする女子とすごく睨み付けてくる男子がそこにいた。
「わー!!ごめんねー!!違うよー?忘れてたわけじゃないんだよ!!ただちょっとテンションが爆発しちゃっただけでさ…ほら、言うじゃん?芸術は爆発だって!!俺はそれなの!!芸術なの、分かる!?だからちょっと爆発しちゃったわけで・・・ってあれ?何の話だっけ?わっ!!何!?その今にもやっちまうぞてめぇみたいな目!!やめて!!堪忍して!!…てかちょっとは何かしらフォローいれてくれても良いんじゃない皆ー!!!??」
自分の行動に完全に引いている1年生に一生懸命フォローを入れる義孝。
その姿はまるで初めて生まれた幼子を泣き止ますのに必死になっている父親のようである。
そしてそんな義孝の行動にフォローを入れるでも、茶々を入れるでもなく、いそいそとお菓子やお茶の準備をしている他5名。
「もー!よっしー部長が1年生とおしゃべりしてる間に京香達で全部準備終わらせちゃったじゃん!!
京香だって1年生といっぱいしゃべりたいのに!!部長の馬鹿馬鹿!!」
「大丈夫だ今野。義孝のはおしゃべりではない。会話が全く成立していなかった。」
「豪先輩ひど(笑)でも確かに部長テンパり過ぎて、訳分かんないこと言ってましたよね(笑)」
「テンションの爆発は自分が芸術であるから…でしたっけ?」
「はいはい、皆落ち着きなさい。いい加減にしないと私1人で1年生との交流会を始めますよ。
とりあえず席に座って。部長…自己紹介までの少しの時間大人しくしていて下さい。」
「皆ひどいんだ…馬鹿(泣)」
やいやい言いながらちゃんと席に着く一同。
席に着くやいなや副部長が始まりの言葉を発する。
「それではただいまより双華高等学校弁論部の新入部員歓迎会を始めます。
まず最初に自己紹介から。私がこの弁論部で副部長を務めている梶本恵里です。
分からないことがあれば何でも聞いて下さい。答えられる範囲で教えます。仲良くしましょうね。」
1年生二人は思った。
(なぜこの人が部長じゃないんだろう?)と。
「それでは次は豪お願い。」
「む。俺か。俺は岩城豪、3年だ。よろしく頼む。
次は…では今野。」
「はいは~い!!今野京香です!!2年生だよ!!昨年は1番下の学年だったから後輩ができてすっごく嬉しい!!仲良くしてね!!好きなことはおしゃべりとショッピング!!最近はまってることはネイル!!でも学校にはしてこれないから、休みの日にしかできないんだよね…あと、あたし犬飼ってて「京香しゃべり過ぎだろ」もうっ!カズうるさい!!いっぱい知ってもらって早く仲良くなりたいんだもん!!でねでね…「藤川亮です。」あっ!亮まで!!」
「後でたくさん聞いてもらって下さい。今年度2年に上がります。京香さんと違ってあまりファッションなどには詳しくありませんが、勉強など困ったことがあれば言って下さい。自分で良ければお力にならせて頂きますよ。では、次清田君お願いします。」
「OK!俺は清田和正2年だ。よろしくな!!部活外では”TALKER”っていうバンドでボーカルやってる。良かったら今度見に来てな!!」
「では1年生。お願いします。レディーファーストでそちらから。」
「あっ!!はいっ!!あの…私は新しくこの高校の1年生になります、西田彩です。」
それだけ言うと彩は座ってしまった。真っ赤な顔を見る限りかなり緊張しているのだろう。
「くすっ…では次お願いします。」
次に立ち上がったのは…不良。どっからどう見ても不良の少年である。
「1年…。篠田拓未…。」
周りを見渡し着席した拓未。誰がどう見ても威嚇している虎のようである。
「今年の1年生はシャイな子達のようですね。では最後に部長。お願いします。」
拓未の睨みに動ずることなくシャイで済ませる恵里に拓未は目を見開き、驚きを隠せないようであった。
「もう、しゃべってもいいの?」
不安そうに確認する義孝に周囲は笑顔で肯定のサインを送る。
「よしゃー!!3年、桜庭義孝です!!部長です!!えーっと…俺部長です!!「よっしー先輩それ2回目!!」あっそっか…んーと、好きなものは部活とコーヒーと恵里です!!俺達実は付き合って「ません。まだ何も分かっていない1年生の前で笑えない冗談は控えて下さい。もう良いですね。お座り下さい。」うぅ…ハートブレイク…。」
「てかお菓子食べてもいいすか?こんな目の前にあんのに俺もう我慢できないですよ!!なぁ、亮。」
「清田君はもう少し我慢を覚えなさい。でも、確かにこれだけのお菓子を目の前にして手を出せないのは中々辛いものがありますね。」
「それもそうね。自己紹介は済んだことだし、後は各自で楽しみましょう。」
この言葉を皮切りに次々とお菓子に伸びる手。
美味いだのこれはハズレだなどわいわいやっている中当然1年生の2人は手が伸ばせるはずもなく…。
「(あ~…あれ新作のマカロンだ。雑誌に載ってたやつ。いいな。美味しそう。)」
彩がボーっとお菓子が置かれた机を見つめていると、左隣から手が伸びてきた。
「…あげる。」
手には紙皿。その上には全種類のマカロンと彩り豊かなフルーツタルトや激辛で評判のスナック菓子がのっていた。
「えっと…篠田君だよね?ありがとう…。」
「別に…。なんか清田さん?ていうあのツンツン頭の人に渡されたから…。俺甘いもん食べれないし。…その辛いやつだけちょっとちょうだい。」
見た目は明らかに不良な拓未の、意外なまでに穏やかな口調に面食らいならがも彩は彼は良い人だと思った。
「あの…篠田君て「拓未で良い…。」た…拓未君はなんでこの弁論部に入ろうと思ったの?」
「なんか、入学決まったと同時にポストに手紙入ってて、今日のことと不参加不可っていうの見てとりあえず来てみたら今に至ったって感じで…俺もよく分かってないんだよね。なんかもう入部決まってるかんじだし。「拓未君も!?」え・・・?」
「実は私も。手紙入ってて、最初は行くの怖いって思ってやめようとしたんだけど、行かなかったらどうなるのか考えたらもっと怖くて一応来てみたの。やっぱもう入部してることになってんのかなぁ…?」
拓未が横目で彩を見れば不安そうにしているのがすぐに分かった。訳が分からないまま入部させられて辞めたいとも言い出せず困っているのだろう。
「俺が言ってあげようか?」
「え?」
「この部活入りたくないって自分で言えないなら、俺があの部長さんに代わりに伝えようか?」
拓未の提案に彩は驚いた。初対面の自分にまさかここまでしてくれようとする彼はやはり良い人だ。
彩の中で怖そうな人=不良という意識は完全に消えていた。
「ん~でも、拓未君はどうするの?」
「俺?俺は…しばらく様子見てみようかなぁと思ってる。この高校部活絶対入らなきゃ駄目らしいし…
ガイダンス聞いてた感じだと他の部活は結構夜遅くまでやってるっぽいからさ…。」
「えっ…そっかぁ…。」
正直彩は拓未も入部を断るつもりだと思い、それに便乗して自分の口で部長に伝えようと考えていた。
「だからさ、俺が代わりに…「ううん、いいよ。」…?自分で言うのか?」
「ううん、私も少し様子を見てみようと思う。まだ全然訳分からなくてちょっと…っていうか結構不安なんだけど、頑張ってみるよ!!拓未君も一緒だし!!…ね?」
「・・・・・・そっか。じゃあ、1年同士よろしく。」
「うんっ!!」
1年生が打ち解けている中、2.3年生はというと・・・
「ちょっと何あれ!!恵里!!すんごい良い雰囲気作っちゃってるじゃん!!早くない!?ずるくない!?
こうなったら俺らも必殺ラブラブハリケーンを「静かにして下さい。なんですかその必殺技。作った覚えもなければネーミングセンスも最悪です。」恵里ー!!!!(涙)」
「にしても、今年の1年生は中々良さそうですね。安心しました。」「えっ!?無視?無視のまま??」
「うむ。気弱ではあるが芯の通っていそうな西田彩に、一見不良に見えるが実は優しい心を持っている篠田拓未。どちらも今後が楽しみだ。」「豪?豪は俺の話聞いてくれるよね?」
「そうっすね!!にしても…入部辞退の話が出た時は焦ったよな(汗)まぁ…拓未の方は辞める気無かったっぽいけど。」「カズ!?俺先輩でしょ?ね?聞いて聞いて!!」
「だよね~。京香もびっくりしちゃった。途中で声かけそうになっちゃったもん。あ~、でもあの感じ。うちらも昨年が懐かしいね!!」「昔に想い馳せなくて良いから!!京香!!お前俺とちょっとキャラ被ってんじゃん!!似た者同士なんだから無視しないで!!」
「そうですね。まぁ…もっとも、辞めたいと言ったところで辞められる部活では無いのですがね(苦笑)」
「亮まで!!何なの!!もう、皆冷たい!!馬鹿!!1年生のとこ行っちゃうもんね!!
彩ちゃ~ん!!たっく~ん!!俺も話に入れて!!っていうか入れて下さいお願いします!!」
突進する勢いで1年生に近づく義孝。
「わっ…えっと…部長さんですよね?」
彼のあまりの貫禄の無さに一応役職確認をしてみる彩。
遠回しに(この人部長じゃないでしょ…でもそう呼ばれてるし…)という気持ちが隠されているのだが、それに敏感に気付く義孝ではない。
拓未に至っては今まで呼ばれたことの無い『たっくん』にかなりの違和感を感じ、少し考えているような素振りだ。
「うん!そう!俺部長の桜庭義孝ね!!よっしー部長でも、よっしー先輩でも、よっしーさんでも好きに呼んで。」
「(よっしーは固定なんだ…)はい…よっしー部長よろしくお願いします。」
「うんうん、可愛い!!よろしくね!たっくんも、よろしく!!」
「あ…はい。」
「だーかーらー…1年生とおしゃべりすんのは京香だって言ってんじゃーん!!!!!」「ぐはぁっっ!!」
義孝目掛けて京香の飛び蹴りが炸裂。
突然のことに唖然とする1年生だが、上級生は慣れているのか、吹っ飛んだ義孝のことは特に誰も気にすることなく、1年生をとり囲むように集まる。
「よろしくね!!彩ちん、たくみん!!」
「京香ネーミングセンス部長並じゃん(笑)よろしくな、あややにたくみマン。」
「清田君も京香さんのこと言えたもんじゃありませんよ。彩さん、拓未君、よろしくお願いしますね。」
「西田に篠田。歓迎するぞ。」
「私達3年生は1年間だけだけど、よろしくね。彩、拓未。」
「「・・・・・・・・・・・・・・・はい!!」」
少し変わった人達ではあるが、皆優しく頼りになりそうな先輩達に囲まれて、前向きに頑張ってみようかなと思いだした彩と拓未であった。
その後30分程雑談に花を咲かせ、最後には全員で後片付けをし、帰り道が同じ者同士帰路を供にし、夕焼けの中を行くのであった。
歓迎会後の部室
「…う~ん…くそぅ京香め、より一層飛び蹴りに磨きをかけよってからに…ん?もう夕方か・・・。
よし!!じゃぁ、最後は皆で声出しして帰るぞ!!
ご唱和下さい!!真面目にば語れ!!・・・・・・ん?
って皆いないじゃん!!うぅ…恐るべしマダム・ラナイの星占い。明日こそは…
……今から走れば追いつけるかな??
…………恵里ー!!!!!!」
こうして、賑やかだった部室は静けさを取り戻した。
個性の強い上級生に、素直な1年生。
まだ明らかになっていない活動内容。
存在するのかしないのか、歓迎会に顔を出さなかった顧問。
明日になれば何か分かるかもしれない。
…し、分からないかもしれない。
続く。
〈後日談〉
「そういえば何故桜庭部長はあの日に歓迎会を行ったのですか?歴代の弁論部は入学式後に行っていたはずですが…?」
「恵里…いやぁ…こないだ先生に呼ばれて学校に来た時に、もう部活始めてるところ見てたら、急に皆に会いたくなって…なんかうまく呼び出せないかなぁと思ってさ…怒った?」
「(きゅん)…いえ。」




