告白
「さて……諸君。ここに集まってもらったのはほかでもない。これからの我々について重大な事実を発表したいと思っている」
そう言って俺は目の前にいるミモザ、ベリーニ、スコッチの3人を見る。
それぞれの顔付きは至って普通、ベリーニはむしろ何の話かと怪訝な表情をしている。
「現在我々は眼前に迫る脅威、すなわちジュピターリザードの」
「ちょっと待ってよ! いきなり意味不明な事言い出すのやめてよ」
「すいませんでした」
ちょっと某戦艦アニメのブリーフィングをやってみたかっただけなんだ。
反省はするが後悔はしていない。
でも正直かなり緊張していて、掌が汗ででヌルヌルしている。
激しい動悸も止まらない。
「では……最初に謝らなければならない事があります。俺はみんなに嘘をついていました。集まってもらったのはその嘘をついた理由を打ち明けたいと思ったからです」
「嘘って記憶喪失の事ー?」
ベリーニがお茶菓子を頬張りながら核心をついて来る。
どうしてわかったんだろうか。
スコッチとミモザは何も言わず、ただ俺の瞳を見つめるだけだ。
「はい、その通りです」
「そうなんだー。どうして嘘ついたの?」
「話しても信じて貰えるかどうか疑わしいですけど……今から話す事は全て真実で嘘偽りはありません」
「あの遺跡に倒れていた事も関係しているのかしら」
それまで黙っていたミモザが静かに口を開いた。
瞳には少し悲しそうな、失望に似た色が浮かんでいた。
そんな顔をしないでくれ、心が折れそうになるじゃないか。
「関係あります。実を言うと俺はこの世界の人間じゃない。記憶が無いんじゃない、この世界を知らないだけなんだ」
「え」
「は?」
「ほぅ……」
3人がそれぞれ口から出た言葉を最後に、しばらくの沈黙が流れる。
「ごめん、ちょっと意味がわからないよ」
「この国の人間じゃないって事? 外の国から来たの?」
沈黙を破ったのはミモザとベリーニだった。
スコッチは1人でブツブツと呟いており、しかしどこか納得した表情をしている。
「そうじゃない。この世界の外、だよ。この世界に俺は存在しなかったんだ」
「うーん……生まれた時からその姿って事は……まっままましゃか魔族!?」
「ベリーニ、少し黙っててくれないかしら。話がまったく進まないわ、質問は全てリュートが話し終えた後にしましょう」
「ふぁい……ごめんなさい……」
「リュート、話を続けていいわよ」
「あ、あぁ。すまない」
しょんぼりと俯いてしまったベリーニを横目に見ながら俺は話を続けていく。
元の世界の事。
事故で死んでしまった事。
女神と魔女神に対面した事。
命を貰い、この世界に転移して来た事。
俺に関わる事は全て話した。
洗い浚い全て、年齢=彼女居ない暦まで全てぶっちゃけた。
そんな事話さなくても、という事まで話した。
最後に、こんな俺でもよければ仲間でいて欲しい。
と謝罪と祈りを込めて頭を下げた。
頭を下げてからも反応は無い。
一言ぐらいあっても良さそうなんだけど……。
頭を下げてからおよそ1分が経過した、頭を上げるタイミングを完全に逃してしまった。
「あの……これで俺の話は終わりなんだけど……」
気まずい、非常に気まずい。
心臓が爆発するのではないかと思うほど動機が早い。
背中が嫌な汗でびしょびしょになっている。
「かなりぶっ飛んだ話だけど……信じてみるわ」
神のお声が聞こえた。
天よりまろび出たかのような麗しきその声の主は、と少し顔をあげてミモザへ視線を送る。
繭を八の字に曲げ、苦虫を噛み潰したような顔をしていたが怒っているわけじゃなさそうだ。
「本当か! 本気って書いてマジか!?」
俺は言葉の勢いを利用して、くの字に曲げていた腰を正す。
よし、ここからは質問コーナーに移ろう、それがいい。
「よくわかんないけど私もリュートの事信じるよー初めての後輩だし、先輩の貫禄というか威厳というか、それを見せ付けてあげるよー」
少し意味が違うが、ベリーニもまた信じてくれたようだ。
チラ、とスコッチを見るが彼女は完全に自分の世界に入り込んでいるようで視線すらくれなかった。
「気になる点や詳しく知りたい事があれば何でも答える」
「そうね……ならディラックの海と言うのを教えてくれないかしら」
「つまりだな、完全に時が停止している空間と考えてくれていい、と思う。詳しくは俺にもわからないんだが……道具袋的なものから出し入れが可能な便利空間と認識してくれればそれでいいと思う」
「ふうん……凄いわね、さすが神の力ね」
「神の力ってわけじゃない、そういう空間が実際に存在するんだ。事実俺もそこに行った事があるわけだし」
「じゃあ決まりね」
「何がですか」
苦虫顔から一転、朗らかな笑顔を俺に向けてミモザが一言。
「これからの旅や探索の荷物持ちはリュートって事よ」
「えぇぇ……なんだそりゃ……」
「別にいいじゃない、嘘ついた罰よ」
「さいですか……」
ホントになんだよそりゃ、よりによって聞く所そこかよ! と思わず突っ込みそうになってしまう。
「魔装って言っても別に呪われてるわけじゃないのね? その空間にはまだ魔女神様が置いていかれた魔装や魔具があるわけよね? あぁ……そういえば私、大事な愛剣無くなっちゃったのよねぇ」
「それはつまり……」
「冗談よ、たかる程落ちぶれちゃいないわ。換えの剣も持ってるしね」
じゃあ言うなよ!
金持ちだと分かったら掌返す嫌な独身女性みたいだぞ。
「聞きたい事は色々あるけど……。この世界には召喚魔法もあるから異次元の存在も肯定されてる、でもまさか知的生命が人間しかいなくて魔法が無くてカガク? が発達してる世界があるとはね」
「お互い様だと思うぞ?」
「そうね。で?リュートはこれからどうするの?」
「あの予定表にもある通りしばらくはここに留まるつもりだ。んで、ある程度経ったらどこか旅に出ようと思ってる」
「えーじゃあ私も旅に出るー」
「ベリーニがそう言うなら自動的に私もって事になるわね」
「いいのか?」
「いいんだよ! 私もこの街にずっといるつもりも無いしー、1箇所に留まるハンターもいないし!」
「そういう事らしいわよ?」
本人達が良いと言うのであれば俺に止める権利も無いしな。
「私は是非も無しにご一緒致します」
スコッチは聞くまでも無く、予想通りの反応で安心する。
「期限は1年間を目処にしようと思ってる。その間に詰め込むだけ詰め込む、剣術や魔法はスコッチに稽古を頼みたい。ミモザも一緒にやるって話なんだがベリーニはどうする?」
「ふぇ? そりゃもちろん参加するよー! 私だけ除け者よくない、ダメ絶対」
「つー事だ。スコッチ、頼む」
「ご主人様の御用命とあらば拒否する理由が見当たりません」
「ありがとう」
さて、これからが本番だ。
待ってろ世界。