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キメラ勇者の異世界冒険譚  作者: 桑島 龍太郎
第2章  今日から俺は
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切磋琢磨

 ブリーフィングと言う名の俺の告白からはや1週間が経った。


 スコッチを師匠とする稽古は午前に座学、午後はトレーニングといった具合で順調に進んでいた。


 座学はこの世界の歴史や地理、存在する種族等の勉強だ。

 もちろんハンターとしての心構えや知識も織り込んだ多彩な授業となっている。


 そっち方面はベリーニが専売特許なのでハンター関連の時だけ彼女が臨時で教鞭を取る。

 もちろん独学で勉強したという毒学も込みだ。

 驚く事にベリーニは教え方が妙に上手い。

 悪い事では無いのだが、いつものイメージの彼女からは到底想像出来ない情景であり、俺は素直に尊敬の念を覚えた。


 毒学は薬学として分類されているのだが、内容としては化学に近い気がする。


 元素記号や化学式といった物は無いけれど、毒の先駆者達が洗練してきた情報は内容がとても濃く、学んでいて面白いのだ。


 暗殺用に使える毒草なんかも存在するらしく、悪用厳禁だと教わった。


 やり手のハンターは毒の抵抗力を高める為に、常時少量の毒を服用し、解毒力と耐性を高めたりするのだとか。

 ウィルスのワクチン接種と同じようなもんだろうけど、恐ろしくて俺にはまだ真似出来ない。


 それぞれに対応する処置や薬草等も教わったが、基本丸暗記となるので一朝一夕でどうにかなる物でもない。

 これらに関してはまだまだあるのだが、語ればキリが無いのでここらで止めておくとしよう。


 話は変わり、現在確認されている種族は大まかに分類して人間、獣人族、亜人族、魔族、妖精族、水棲族の6種族存在する。

 人間は1種しか存在していないのだが、それ以外の種族に関しては細かく分かれており、これまた多種多様な種族が存在する。

 例に出すと

 獣人族には猫人族、犬人族、兎耳族、白狐はくこ族。

 亜人族とは蜥蜴族、蝿王族、蟷螂族等の昆虫的特徴を持つ人間の総称らしい。


 魔族は種族が多すぎるのと生活様式や文化が様々な事により、あまり多くは分かっていない。

 確実に分かっている事はただ一つ、過酷な居住環境による強靭な肉体構造と圧倒的な魔力量である。


 人間と魔族の個人同士における力の差は天と地ほどの差があり、それゆえに魔族は恐れられ、時には悪の象徴として扱われて来た過去がある。

 好戦的な種族も数多く存在し、そのせいもあって悪いイメージが強い。

 各種族に族長が1人おり、それを束ねるのが各地の魔王なんだと。


 今はどうなっているか不明だが、1000年前の魔王達は世襲制では無く実力主義であり、暗殺や下克上がまかり通る戦国時代のような殺伐とした時代だったという。


 彼ら魔族が存在する大陸を人間達は冥暗の狂乱大陸マッドネスフィアーと呼んでおり、現在発見されている中で1番広い面積を誇る。


 だが彼の地に到達するには、左右果てが見えない程の規模を持つクルシナク大瀑布と言う難所をどうにかして突破しなければならない為、人間には未開の地同然なのだ。


「ちなみに余談ですが、魔大陸には人間も少数ですが暮らしていますよ」

「えっ」


 頭上から唐突や発せられた教師スコッチの驚き発言に思わず腕を止めて反応してしまう。


「ほらほら、腕が止まっていますよ。不測の事態にも対応出来る心の静けさを保ってください」

「は、は……い……すいません。でも結構……集中……力的にも……限界が」

「甘えた事を言っていると追加100回ですよ?」

「すいませんすいませんすいません」

「人間やれば出来るのです。簡単に諦めるのは愚の骨頂です、今何回ですか?」

「ぐ……ふぅぅぅう! さ、さんびゃく……よんじゅううううはちぃいィイイ」


 スコッチの問いかけに淀みなく答える。

 今まで語っていたのは、今日まで習った事を要約しての事だ。

 そしてそれは俺の背中に乗り悠々と読書に勤しむスコッチへ、復習の意味も兼ねての説明だった。


 現在俺は午後のトレーニングに励んでおり、トレーニングメニューは至ってシンプル。

 走り込み、腕立て伏せ、腹筋背筋、素振り、組手である。


 走り込みが終わり、腕立て伏せをしている真っ最中なのだが、何故か背にスコッチが座っているのだ。


 大幅に筋力が増加している為に、スコッチが普通の腕立てではあまり効果が薄いと判断し、重量増加を考えて今の構図が出来上がったワケだ。


 人型のスコッチが乗るくらいどうという事は無いとタカをくくっていたのだが……

 あろうことか彼女は、10数える毎に1kg分重さを増やすという暴挙に出たのだ。


 ミモザとベリーニはとうに素振りを始めているというのに、俺は腹筋も背筋も終わっていない。


「さんびゃくぅう……ごじゅ……うううだらっしゃあああ! も、もう無理だ、死ぬ ……いっそ殺して……」


 設定回数を50程オーバーして、俺の筋力は限界を迎え、自らの汗でしっとりと濡れた地面に糸の切れた人形のようにべチャリと音を立てて倒れ込んだ。


 口の中にジャリジャリとした砂の感覚が広がり、やや血の味も混ざっている。

 どうやら奥歯を噛み締め過ぎて歯茎から出血してしまったようだ。


 全身からとめどなく汗が吹き出してくる。

 バスケ漫画かよってぐらいびっしょびしょだ。


「ふむ、中々に持ちましたね。お疲れ様です」

「へぁ……」


 背中に乗ったスコッチが労いの言葉を掛けてくるが、気の抜けた声でしか反応出来ない。

 しかしいい加減に背中からどいて頂きたい。

 うつ伏せの状態で加重されたスコッチが乗ると、肺が圧迫されて結構苦しいんだこれが。


「それでは次のトレーニングへ移りましょう」

「少し……休みたいなー……」

「丁重にお断りさせて頂きます」

「ぐっ……」


 俺のささやかな願いは当然のように却下される。

 少しくらいインターバルくれたっていいじゃないか!

 と心の中でささやかな抵抗をしてからゾンビのようにノロノロと起き上がり次のトレーニングへ移行する。


「はぁ……」

「どうかしましたか?」

「いや、何でもないよ……」


 ため息を吐きつつ、プルプルと震える腕でバケツに入った水をコップであおる。

 適度に塩気と柑橘系の味がついた水が、乾ききった細胞の一つ一つへじゅくじゅくと染み渡っていく。


 次のトレーニングである腹筋背筋で凶師(スコッチ)は何をやってくれるのだろうか。


 胸に1抹どころか10抹くらいの不安を抱えながら腹筋の姿勢をとる。


「さぁ、始めましょうか」


 満面の笑みを浮かべた彼女からは、何か企んでいる事がヒシヒシと伝わってくる。


 俺はスコッチにトレーニングまで見てくれと頼んだ事を軽く後悔しながら腹筋を始めたのだった。

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