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キメラ勇者の異世界冒険譚  作者: 桑島 龍太郎
砂漠のトレジャーハンター
20/58

砂漠ネズミは人の夢を見るか

タイトルの場面まで話が進まなかった……

「わっひゃーーー! 速い速ーい! 凄いぞスコッチー!」


 全長3mの走行形態に変化したスコッチは、まさに飛ぶように砂漠を駆けていた。


 家畜小屋に寝かされた鬱憤が原因なのか、その走りは鬼気迫るモノがあった。


 岩窟村へ向かった速度など遊びと言わんばかりの加速力と持久力を見せ付け、無言でただ駆ける。


「なぁ……その、機嫌直せよ……」

「………………」

「私だってまさか家畜小屋に入れられるなんて思って無かったのよ……許して?」

「…………………………」


 うわー感じ悪い。

 朝からこいつ一言も喋らないでやんの。


 寝る場所の件で完全にヘソを曲げたスコッチは、あろうことか岩窟村のゲートの目の前で走行形態に突然変化し、有無を言わさず俺達を乗せて出発したのだが、その光景は村中を大混乱に陥れるのに充分だった。


「ヘソ曲げるのもいいけどうんとかすんとか言えよ」

「ぢゅん」

「こ……この野郎……」

「わー……今の私でも分かったなー……プライドってのが許せなかったんだろうねーよしよし、かわいそーなスコッチ」

「あれ、てゆーか家畜小屋が嫌なら抜け出して外で寝ればよかったのに」

「「確かに」」

「ぢゅ…………ぢゅい」

「それは私も思いましたが、ご主人様の言いつけを破るワケにはいきません……か……」

「律儀ねぇ……」

「うーん……なら、機嫌悪く振舞ってるのは褒めて欲しいからだね?」


 ベリーニがそう言ったと同時に、爆走していたスコッチが急停止する。

 背中に展開していた力場を制御する力が乱れたのか、俺達は盛大に前へ吹っ飛ばされた。


「いってぇな! 急に止まるなよ!」


 俺は頭から砂に突っ込み、スコッチに文句をいいつつ振り返ったが……

 どうやら無様に転倒したのは俺だけだったようで、ミモザとベリーニは空中で体勢を整えて華麗に着地を決めていた。


 そしてスコッチはペットサイズまで縮んでおり、恥ずかしそうに尻尾で小石を弄んでいた。


「なぁんだ……そういう事なのね」

「……きゅう」

「多分私達が褒めるよりリュートが褒めた方がいいよー。ね? ゴシュジンサマ」

「ったく……世間一般の人が砂漠の王者がこうだと知ったらどうなるんだろうな……家畜小屋でよく一晩明かしたな。偉いぞ」


 俺は溜め息混じりにスコッチの頭をぽんぽんと撫でてやると、尻尾をびたんばたんと打ち鳴らし喜びに震えているようだった。

 嬉しいと尻尾を振るってお前は犬か。


「あ……」


 俺がスコッチを宥めていると、後ろからミモザが気の抜けた声を発した。


「どうしたんだ?」

「着いちゃったよ……」

「着いちゃったって……」


 ミモザの代わりに答えたベリーニの言葉と共に、俺は自分の目を疑った。


「あれが……そうなのか……?」

「そうだよ! 砂漠の玄関口! デザートサンドだよー!」

「早すぎるわ……まだお昼過ぎよ……どんだけかっ飛ばしたワケ……」

「ちゅいーちゅちゅぢゅ……」

「年甲斐もなくムキになってしまいました……ってムキになれば出来る芸当なのがまた……」

「だって! 岩窟村からここまで馬に乗ったって4日はかかるのよ?!」

「ぢゅう! ぢゅっちゅーぢゅ」

「勿論私の知る限りの最短距離を走って来たのですけれどね、だとよ」

「ら、ラットドラゴンだし……それくらいは出来るんだよきっと! 信じられないけど実際あそこに見えるのはデザートサンドの城壁だもん」


 確かにベリーニが指差した先には高い城壁が横に伸びるように建っており、城門らしきアーチがある。

 そこから絶えず人や馬車や荷車なんかが出たり入ったりしているのが分かる。


「ここからは歩きだな。しかし、熱い……水を一発ぶっかけてくれ」

「はいよ。さっさと魔法の方も思い出して欲しいもんね」

「善処いたします……」

「よーし! さくっと行こうー! 砂だけにサクッとー」


 全身に水を浴び、ベリーニの一言には誰も反応せず、ぴしゃぴしゃと雫を垂らしながら俺達は砂漠の玄関へと歩みを進めた。




***


 


「止まれ! 身分証の提示を求む!」


 ゲートを通過しようとするが、目の前にシンプルな直槍が突き出される。

 この門の衛兵だろうな。

 しかし困った。

 やはり身分証の確認があるのか、岩窟村ではミモザのおかげで何とかなったがどうしたもんか。


「あ、はいはーい。お疲れ様ー」

「この暑い中いつもご苦労様」


 ミモザとベリーニは腰につけたポーチから金色のカードを取り出して衛兵に手渡す。


「確認しました。長旅お疲れ様です、してこちらの方の分は……」


 衛兵が訝しげな顔で下から上へ舐め上げるように俺を見る。


 急いで懐を漁るフリをするが無い物は無い。

 上手い言い訳は無い物かと思案しているとベリーニが衛兵に声をかけた。


「ねね、私に免じて通してくれない? この人お父さんの知り合いの息子さんなの。訳あって記憶と持ち物どっかに置いて来ちゃったみたいで……お父さんなら何かわかるかなって思ったの」

「そ、そうはいいましても……規則ですので……」

「貴方、休みが欲しくない? 羽を伸ばしていても賃金が入るような休みが」


 困った顔でベリーニと俺を見比べる衛兵にミモザがトドメの一言を放った。

 あれだ、有給休暇ってやつだ。

 それを与えるから見逃せと暗に言っているのだ。

 

「そ、それは……いえ、分かりました。便宜の程宜しくお願い致します」


 俺の前を妨げていた直槍がスッと上げられる。

 ベリーニとミモザがサムズアップをしてウィンクをくれた。

 すげぇ、すげぇよあんたら。

 

 あれ? 

 でも待てよ?

 ただのトレジャーハンターがどうしてそこまでの決定権を持つんだ?

 ハンターってのはそこまで影響力のある職なのか?

 頭の上に疑問符がぽこぽこ湧いてくるが、2人はさっさと先に進んでしまっており言及するタイミングを逃してしまった。

 

 そんなこんなで無事デザートサンドに入る事が出来た俺は、まず人の往来の凄さに驚いた。


 ゲートをくぐり、しばらく進むと石造りの商店や露店がずらりと並び、様々な種族の人達が行きかっている。


 一般人もいるが、多くは冒険者なのだろう。

 腰に剣を差した人。

 背中にどでかいハンマーを背負った獣人。

 頭から角を生やしローブを着た魔術師風の人。


 異世界ファンタジーの現実に、俺はカルチャーショックを感じ、少し目眩がしていた。


 そんな時、前を行くベリーニがくるりと向き直り何故かドヤ顔で話しかけてきた。


「ほらほら! ぼーっとしてないで! 身分証無いんでしょ? 再発行は色々と手続きが面倒だから裏ルートで作っちゃおう!」

「う、裏ルートって……そんな事デカイ声で言って平気なのか?!」

「へーきへーき! 悪い事じゃないし! ここは大人しく先輩の胸を借りなさーい!」


 えへん、と胸を張るベリーニ。

 思わず俺はその滑らかで磨き上げたような華奢な胸部を凝視する。

 見事なモノだ。

 見事な絶壁だ。

 

「ちょっそんなマジマジと見ないでよ……」


 俺の鋭い視線を察したのか、慌てて踵を返し歩き出す。

 さすがに見すぎたか。


 しかし悪い事では無い裏ルートとはこれいかに?

 特に突っ込む事も無く、ミモザは隣を歩き。

「あ。あの串焼き美味しそう」

 などと呟いているわけで。

 俺の頭の上には先ほどの疑問符がさらに増殖を続けている。

 

 そんな事とは露知らず、意気揚々と歩くベリーニを先頭に俺達は商店街を抜け、さらに真っ直ぐ進むと目の前に巨大な屋敷が見えてきた。


「でけぇなぁ……」


 城では無いものの、間近に迫るそれの存在感は抜群で思わず声が漏れてしまう。

 あそこにはどんな金持ちが住んでいるのだろうか。


「ただいまー」

「ご苦労様」

「へ?」

 

 気付けば先程のゲートに立っていた衛兵と同じ鎧を着けた2人組が立つ大きな格子門に立っており、ミモザらはその守衛に軽く挨拶をして門をくぐっていく。

 まったくもって意味が分からない。

 頭の上の疑問符が感染爆発パンデミックを起こしている。


「ほら、さっさとおいでよー」

「いやだって、え。今ただいまって言った?」


 くいくいと手招きをするベリーニに戸惑い、足が止まる。


「平気だよー。だってここ、私の家だもん」

「はい?!」

「ぢゅぃ?!」


 のほほんと衝撃の事実を告げられた俺はぽかんと口を開けたまま、ただただベリーニを凝視する事しか出来なかった。

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