素材の扱い
携帯投稿だと何故か文頭が一画分空きません。
どうしたらいいのか(._.)
「ふぅ……何とかなったわね……」
「無傷だよー! リュート強いんだね! 先輩は鼻が高いよ!」
「お、お疲れ様……」
俺はこうして脳内麻薬の分泌に若干の興奮を覚えながらも異世界での初戦闘を終えた。
剣を背中に納めたミモザとベリーニが近寄り労いの言葉をかけてくれる。
「中々やるじゃないの。頭の記憶は無いけど身体の記憶はあるみたいね? ちょっと変わった型だったけど」
「そ、そうみたいだな……」
「重いスラッグソーをあんな簡単に吹っ飛ばすなんてヤルぅ」
ただ野球の真似してフルスイングしただけなんだがな。
少し身体を動かして解ったが、カーラの言っていた事が多少理解出来た気がする。
45人分というのがどれくらいか分かりかねるが身体が物凄く軽い。
スラッグソーのスピードも案外見切れていたし、打撃の瞬間多少重く感じたけれどそこまで重いとは感じなかった。
色々と強化されてるんだな、今更ながら皆のおかげ、だな。
こんな事になるならもう少し交友関係を広げておけば……
いや、止そう。
うじうじ感傷に浸っている場合じゃないしな、そんな感情はゆっくり落ち着いてからだな。
「ん? 二人とも何してるんだ?」
魔物も倒したし出発だと思っていたら、二人はそれぞれの死体で何やらごそごそしている。
「何って、採取よ採取。当たり前じゃない、素材は大事な収入源よ」
「身包み剥いでるのー」
「あぁん……なるほどね……」
普通に考えればまぁ、当たり前の事だよな。
トレジャーハンターと言えど常に宝が見つかるワケじゃ無いし、どこから日銭を稼ぐと言ったら定番の魔物素材だ。
ファンタジーの鉄板だぞ。
冒険者の心得、敵、即、斬、集だ。
そうと分かれば俺もやり方を学ばないとだな。
この二人がどれくらいサポートしてくれるのか分からないのだ、学べる時に学ばないといけない。
あれ……?
俺はこんなキャラだったか?
分からない。
まぁいいか。
キリアシとスラッグソーのどちらに行こうか逡巡した後、自分で仕留めたのだからとスラッグソーの解体に勤しんでいるベリーニの方へと歩み寄った。
「なぁ、採集のやり方を教えてくれないか?」
「あ、リュート! 勿論良いよ! 半分くらい終わっちゃったけど」
「構わない。これは……棘か?」
スラッグソーは綺麗に鉄球とイルカナメクジの2つに分けられており、鉄球からは無数の棘が外されて床に転がっていた。
「そうだよー。スラッグソーの棘は丈夫で武器の素材になったり色々使えるから結構いい値段で売れるんだー」
「へぇ……釘バット……いやモーニングスターとかそういうのか?」
「うん、そうそう。釘バットって何か分からないけど……」
「あ、いや、気にしないでくれ。ほー鉄球が殻になってんのか、すげえな」
棘が抜けた鉄球の下部にぽっかりと穴が空いており、そこに粘液のようなモノがぬとぬとと滴り落ちている。
穴に手をかけ持ち上げる、少し重いが持てない重さじゃない。
殻を回し、しげしげと観察していると、口を開けて唖然と俺を見つめるベリーニと目が合った。
「ん? どうしたんだ?」
「だ、だってスラッグソーの外殻は少なくとも40kgはあるから……それを軽々こねくり回すからびっくりしちゃって」
「へ、へぇ〜……そんな重いのかぁ。俺ってば力持ちだったんだねぇ……」
マジかよ。
精々体感5kgくらいしか無いぞ、これは身体能力を色々確認しないと後が怖い。
加減を間違えて人の頭を潰しました、じゃ笑えないからな。
「よし、気を取り直してちゃっちゃと終わらせるよ! 皮を剥いだり爪を取ったりするのは基本的に全部一緒、ただ薄さだったり傷の少なさだったりで値段が変わってくるからそこは慣れと努力次第ってところー」
「なるほど。加工技術ってやつかな? 難しそうだな」
「私も最初はグロくて苦手だったんだ、皮も千切れちゃったり穴が空いちゃったり。あ、そうそう、気を付けないといけないのが毒を持ってる魔物だよ! 毒腺の場所だとか対処法だとかどこから毒素が出るとか覚えて無いと解体する時に毒を受けて死ぬ事もあるからね。怖い怖い」
「それは怖いな。けど魔法が発達してるんだろ? 解毒魔法とかは無いのか?」
「んー……あるっちゃあるけど……最後の手段ってやつだね。治療系は法術って呼ばれてるんだけど、基本的に教会や医院が牛耳ってるからそういうの使える人が少ないのが現状。ましてや冒険者やトレジャーハンターは学の無い奴等ばっかりだから法術には程遠いの。だから毒の対処法や治療、応急処置の知識が無いと駄目なんだ」
「2人には心得があるのか?」
「勿論! 毒学っていう学問もあるくらいメジャーだしね。私は独学だけど! 毒学だけに。むふふふ!」
「あ、あぁ……」
「独学だけどね! 毒学だけに!」
「あぁ! あははは! 何か上手いこと言ってるー!」
そのギャグには最初に気付いていたけど笑えなかった。
いや笑えないだろ?!
ちょっと涙目で2回も言われたらそりゃ笑わなきゃってなるのが普通の男の子だろ!
だってウルウルして上目遣いで頬に若干朱が挿してそりゃもう……
「ふふ……だからリュートも勉強だよ!」
俺が笑った事に安心したのか、目尻に涙を溜めつつも朗らかに笑う彼女の顔はとても眩しかった。
「そうだな! もっと教えてくれよ先輩」
不覚にもその笑顔に胸を打たれた俺は誤魔化すように、解体作業を行うベリーニの手元へ視線を落としたのだった。
灼熱の地に降り立つ龍斗。
広がる砂地に彼は何を思うのか。
女神ホルンの言付けを思い出し一路砂漠の街へと向かう。
次回
極限の暑さの中で