第十八話 再び京へ
織田軍との戦から数日。
明智城の一室。
俺は机の上に置かれた鉄砲を眺めていた。
戦場で使ったものと同じものだ。
十丁。
これが、今回の戦で大きな意味を持った。
だが――。
「……まだ足りない」
俺は呟いた。
十丁では少なすぎる。
それ以前に、問題がある。
壊れた時、どうする?
火縄が切れたら。
火皿が壊れたら。
銃身に問題が出たら。
部品を交換できるのか?
今のままでは、職人が一丁ずつ調整して作っている。
つまり、同じ鉄砲でも微妙に違う。
「これでは大量運用できない」
俺は鉄砲を手に取った。
現代の銃器とは違う。
だが、基本的な構造を知ることができれば、改善できる可能性はある。
問題は――。
「俺には、分解する技術がない」
下手に触れば壊してしまう。
ならば、知っている者に聞くしかない。
堺でも鉄砲鍛冶には会った。
だが、まだ足りない。
もっと深く知る必要がある。
鉄砲を分解できる者。
その構造を理解している者。
そして、修理や改良まで行える者。
俺は立ち上がった。
「……そうた。京だ」
もう一度、京へ行く。
*
稲葉山城。
俺は道三の前に座っていた。
「また京へ行きたい、だと?」
「はい」
道三が怪訝そうな顔をする。
「戻ってきたばかりではないか」
「承知しております」
「理由を聞こう」
俺は持参した鉄砲を前に置いた。
「これです」
「鉄砲か」
「先日の織田との戦で、鉄砲が有効であることは確認できました」
「うむ」
「ですが、十丁程度では戦を決めることはできませんでした」
道三は黙って俺を見る。
「もっと数を揃える必要があります」
「それは分かる」
「そのためには、鉄砲を作れる者を増やさなければなりません」
「職人を増やす?」
「はい。」
俺は鉄砲を指差した。
「しかし、今の鉄砲は職人が一丁ずつ調整して作っています」
「それがどうした?」
「同じ部品を使えるようにしたいのです」
道三の眉が上がる。
「同じ部品?」
「はい」
「それが可能なのか?」
「分かりません」
俺は正直に答えた。
「だから、調べたいのです」
「職人に聞くのか」
「はい」
「何を知りたい?」
「製造方法だけではありません」
俺は続ける。
「どのような構造になっているのか。どの部分に負担が掛かるのか。どこが壊れやすいのか。そして、壊れた時にどう修理するのか」
「なるほど」
「鉄砲は撃って終わりではありません。戦で使い続けるなら、整備と修理が必要になります」
道三は腕を組んだ。
「職人なら、試し撃ちもするであろうな」
「はい。実際に撃たなければ、鉄砲の良し悪しも分からないでしょう」
「つまり、職人から鉄砲そのものについて聞き出す」
「その通りです」
「そして?」
「最終的には、美濃で修理までできる体制を作りたい」
道三の目が細くなった。
「修理のために京へ行くのか」
「それだけではありません」
俺は鉄砲を見つめた。
「いずれは、同じ規格の鉄砲を作れるようにしたいのです」
「……量を揃えるつもりか」
「はい」
「十丁では足りぬ、と」
「まったく足りません」
道三はしばらく黙っていた。
やがて、口元に笑みを浮かべる。
「よかろう。行ってこい」
「ありがとうございます」
「ただし、戻ったら儂にも教えよ」
「もちろんでございます」
「鉄砲が美濃の力になるというなら、儂も知っておきたいのでな」
「承知しました」




