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ウィルナの願い星 Self-centered   作者: 更科梓華
第零章 ~ 礎と意志 ~

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終始 肆

視界に映る魔物二体は、まだ距離があるのにかなり大きく見えるが、

中型は3から6メートルの範囲と村で規定し、こいつも規定では中型だ。


どちらも同じ姿、2メートル近い尾も入れて体長は約5メートル。


ネコ科動物特有の胴体手足、しなやかな動きは巨大な猫を連想させる。


尾は狐の様に大きくなっており、黒い眼球に紅い瞳と魔物特有の目を有し、


大人を咥え込んだ突き出した巨大な顎は、

牙を剝く肉食獣のものであり獲物を仕留める為の武器と化し、

大人を咥えて放り投げた首の力、単純な力もかなり強い。


加えて体を引き裂かれた者も草原で倒れている、爪や脚力にも注意が必要だが、


特徴は黒く染まった全身の内、

胴回りに赤い縞模様が数本見受けられ淡い光を放っている。


十年前と八年前多くの家族や仲間を失う原因となった別の魔物共にも

似た様な縞が見られた。

嫌な記憶が脳裏を(よぎ)るが、過去に思考を奪われる訳にはいかない。

更に視線を移し情報を模索する。


警戒すべきは、左の魔物、その周囲に映る遺体には炭化した部位がみられる。

かなりの高温でなければこうはならない。


更に動きの中に落ち着きを見せ、左側の魔物周囲の少ない遺体は相方に戦わせ、

自身は危険から遠ざり、人間を危険視する慎重さを持つ可能性を示す。


戦闘面で人間より弱い筈が無い、左の魔物は警戒が必要だろう。


特に遠距離攻撃魔法。これの情報は先程貰った。


逆に右の魔物周囲には遺体が多すぎる。死因も様々だ。


場当たり的に戦い、何も考えていない、

もしくは此方を甘く見ている可能性が高い。


多くの被害に対して敵へのダメージは大小二種の矢がそれぞれ数本撃ち込まれ、

他にも魔法による攻撃で黒紫色の血を多少見せている。が以前健在。


視覚聴覚嗅覚から得た情報を脳が認識していく過程で、

体温が上昇するのを感じ、怒りがヨービルの胸に込み上げる。


ヨービルは情報こそが戦闘に勝つための鍵であるという考えを持ち、

感情を抑え、知り得た情報を基に使える全てを使い作戦を立案する。


戦闘地点に到着後、約三分が経過し行動を開始した今、最初に行う事は

ここにいる全てに自身が立案した作戦指示を送る事、


「ダルナク隊は退避、子供達が監視塔におる」


「他はワシらと共に死んでくれ」以上である。


使える全てに含まれたこの場の村人三人が

「あいよ、ヨルさん」「まかせろ」「かまうこたぁないんよ」

と気軽に答えを返すが、皆の状態は既に満身創痍、


一人は口から顎先にかけて大きな赤い線を二本引いている。

一人は上半身が赤く染まり。一人は火傷が酷い。


「すまんな、供に逝こう」

ヨービルは三人に届く事も無い程に小さな囁きで答え、

言葉は先に逝った仲間にも向けられていた。


ヨービル達がこの場に着き約三分、ダルナク隊は五人が三人に

村人は三人倒され残り三人と、かなり数を減らしていた。


妻のアリエッサには、支援に差し支えない距離での戦闘になる為、

手の合図でそのまま土製防壁側に留まってもらっていた。


ダルナク含め三人全員が負傷し、全てが炎熱による傷であり、

長袖の服が片腕半袖になっている者もいたが、

彼ら三人を撤退させる理由は負傷ではなく、

自分の半分程度の年齢で死んで欲しくなかった。


何よりダルナクはまだ若く、ウィルナの父親であり、

ダルナクに懐いている二人含め、子供達三人を泣かせたくなかった。


「援護する。即刻退避せい!」


ヨービルの声を合図にダルナク達三人は後ろを振り返り脱兎の如く撤退を開始、

ヨービルの言葉に従い、その言葉を信頼した行動である。


「挟み込む、横に広がれ」という指示を続けざま村人に飛ばす。


挟み込む事で攻勢に転じ、自身と妻アリエッサの視界を確保し、

魔法射線軸から村人を離し黒獣を確実に捕捉する為の指示、


村人三人が槍、鋤、弓を構え、痛みに耐え、視線を離さず、

これ以上の侵攻を阻む為、警戒しながらゆっくり正面を向け続ける態勢で、

黒獣の正面から村の入口とは逆方向に離た位置で立ち塞がるため足を踏み出す。


左の黒獣に鋤、槍持ち、右の黒獣に離れて弓持ちが相対していた。


「魔力が尽きた!」

自身の現状を伝えたのは、先程魔物の行動を伝えてくれた女性だ。


敵をマークし攻防ラインを維持し続ける事の重要性を知っていたから

多くの仲間が目の前の敵に時間を稼ぐため立ち塞がり倒れた。


魔力、体力は勿論、自身の生命力さえも限界を迎えつつある今、

それでも今いる仲間への連携集中攻撃を防ぐため、背後の村の為、

右側最後の自分がここに立たねばならなかった。


弓を持ってはいるが矢筒の矢ニ十本は使い果たし、火傷が酷く痛み、

魔力すら尽きた今、叩くための道具として握っているに過ぎない。


周囲に転がる何かを手に取りたいが、視線を逸らさず屈んだその瞬間でさえ、

攻撃を受け倒されそうで取れずにいる。


黒獣二体に相対し村人が左右外側二地点、ヨービルがその中心点となり

村を背に黒獣に対する三角ラインの形へと行動を開始する。


二点に位置する黒獣と三点に位置する村人側という、

黒獣二体それぞれが視覚的に、こちら二組を警戒する陣形を形成し、

ヨービルの更に左後方、

村の入口側土製防壁裏で構えるアリエッサが更に陣形を支援という位置へと。


挟み込むという言葉は正確ではないが、精神的に挟み込むという意味で

ヨービルは使い、村人もそれを理解していた。


今回の場合、最低勝利条件は眼前に映る黒獣二体の討伐ではない。


村に入れず撃退する事なのだから、村に侵攻する黒獣の背後に回り込む事も無い。


更に対角線近くで挟み込んだ場合、

お互いの魔法射線軸に入る事となるため選択肢と成り得ない。


理解したダルナクは陣形形成まで自身を囮とする為、

ヨービルと黒獣二体の作る三角形中心にあたる位置まで即座に移動し注意を引き、


この時点で尽きていた矢に代わり、傷ついた体で氷弾魔法を発動し、

右の黒獣の正面、顔の前の地面に着弾させ、村へと走り出す。


背を見せて逃げれば追い(すが)るのが獣の習性であり、魔物も同じ習性を見せる。

同じく僅かでも脅威に感じる何かが自身に迫った時は、必ず距離を取る。


この場合、眼前の地面で砕けた氷弾により後方へと退く形となり、

左の黒獣も警戒しダルナクと氷弾の着弾音に気を取られている。


ダルナクが振り返り村へと走り出した数秒後、

動きを止め警戒していた左の黒獣がダルナクに炎弾魔法を構築し撃ち出すが、


亀甲型の青く輝く防壁魔法がダルナクとは離れた位置で構築され、

その射線を遮断、二者の衝突により炎弾は防壁で燃焼し、数秒後防壁も消滅した。


戦闘態勢にあるヨービルの妻アリエッサの防御魔法で、

両手を開き正面にあった両腕をゆっくりと下げている。


ここに到着後、この魔弾で倒れた人もいたが、

アリエッサがその魔弾を見ていたからこそ対策出来た。


しかしそれは仲間を見捨てるという事、

行動を起こさず、敵意を向けさせず、約三分近く隠れ耐えてきた。


ヨービルは悲痛な顔をする妻に目を向け、妻も口を結び頷いたが、

それこそ脅威となる魔弾の対処が可能だという妻の意思表示であり、

ヨービルは攻撃に専念する事が出来た。


反撃の為、ヨービルの右の黒獣へと突き出した右手から、

ウィルナの魔法と形状の似た円錐形魔弾が構築され


「うちの嫁、なめるなぁ!」

という言葉と共に、氷弾を眼前に撃たれた右側の黒獣に発動させた。


ヨービルの魔弾に対し右の黒獣は確実に避けれるコースと速度である為、

避け易い方向、ヨービル視点で左へ体を浮かせ、回避する。


「皆、も少し下がれ」というヨービルの言葉と共に、

自身を走り抜けるダルナク達を横目に、更に連続して二回発動、

警戒された攻撃は、全てヨービル視点で左へ飛び跳ねる様に避けられた。


その間、村人三人は相対する黒獣を視界に捉え、

警戒しつつ確実に村の入口付近まで後退、黒獣と距離を取る。


警戒と観察を続けている左の黒獣からヨービルに炎弾が飛ぶも、

再度アリエッサの防壁魔法に防がれる。


亀甲型の青く輝く防壁魔法と衝突した炎弾は着弾と同時に起爆、

小屋程の大きさで爆発し爆炎と熱波を周囲に拡散させた。


「ぶぇいあああぁ!!!」


炎弾の爆発を無視してアリエッサの防壁魔法から体を右に出し、

煙と熱波の中を穿つべく撃つ四弾目はヨービルも円錐型の炎弾であった。


右の黒獣はこれも予測し慣れたように簡単に左に飛んで回避、

しかしヨービルが放った炎弾は背後の空中で起爆、


右の黒獣は、回避を確信していた直後に背後の小さな爆発で驚く形となり、

後ろを警戒しヨービルの前方へと後ろに振り返る形で大きく躍り出る事となった。


直後、黒獣の後方左右の大地から、

土操魔法で構築された鋭尖形土柱五本に貫かれ、

その巨体は土柱に持ち上げられた先の空中で動きを止めた。


数秒後魔法の効果は失われ、鋭い獣牙の土柱は在るべき姿へと崩れ去り、

黒紫の血を流し動きを止めた黒獣の体に砂や土となり降り積もる。


現着後、隣の土製防壁に黒獣の魔弾が直撃しても、誰が逝ったとしても

三分間身を潜め、離す事無く地面に両手を当て続けた正面の位置。


「先ずは、一体」老齢、故に老練。


上げていた両手を下ろし、ヨービルだけが納得し言葉をその地に残した。

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