お仕置き
―――:てきとー同盟:ギルドハウス:―――
「こんにちは初めまして。コヨイハさん。私たちのギルドハウスへ――」
盗賊系の勇者2:50であるコヨイハは死に戻りから目を覚ますと見知らぬ部屋に召喚されていた。
そして起き上がろうとしたが、死んだことによるペナルティ――通称デスペナによって、体中に倦怠感が発生しており、起き上がることはできなかった。
目を動かして状況を確認すると、コヨイハは今の状況に大いに焦った。
そこはベットの上だ。
そして、なぜか見知らぬ少女に膝枕をされていたのだ。
彼女は鈴のような声色であり、見かければ絶対に忘れないほどの美少女だった。
さすがは少女の造形に徹底的にこだわったVRMMO-RPGだけはあるな、と変なところで感心する。
「ここはどこ? 君は誰? どうして俺の名前を知っているんだ?」
「質問は3つね。ここは、私たち≪てきとー同盟≫のギルドハウス、私はその副長のラララ。君の名前はほら……」
そういって、ラララはコヨイハの頭の上あたりをそっと撫でた。
「ここに貴方の名前とリングエンブレム、それからHPの表示が私からは見えるわよ? ≪鑑定≫スキルのおかげかな?」
「は?」
コヨイハはそのHP表示があるという場所に手を触れようとする。
膝枕をされて寝ている体制から手を頭のところに持っていこうとすると、当然その手は上に一度上げられることになり――
「ちょっと、どこ触っているのよ」
「あ、すまん……」
コヨイハはラララの柔らかい部分を触ることになり、怒ったラララに投げ捨てられてしまう。
「もぅ、サービスはこれでおしまい! 堪能した?」
「あぁ。でももうちょっとくらいはいいだろう? 暇なら――」
「暇だけどね。ちょっと前に職がなくなっちゃったし。でもそれとこれとは別よ」
「あ、すまない。というかそれ、こんなところで遊んでいて大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。少し前までは偉い人だったんだからね。蓄えはあるわ」
「へぇー」
コヨイハは、ラララのリアルの前職が社長かなにかで、何かの問題で解任させられたか、定年退職した人物像を想像した。
つまり年齢層が相当に高いおばちゃんである。この頃では比較的高い年齢層でも機械に強い人間というのも多く、VRMMO-RPGは囲碁や将棋と同じく一般的な娯楽として知られていた。
そうした層が一度ゲームを始めるとその情熱は異常に高く、病院にたむろしていたおじいちゃん、おばあちゃんたちが自宅でゲームに耽ることで社会保障費軽減の役に立っていた。
「で? ギルドハウスの中ならさっき探検してきたから紹介できるけど、どうする?」
「暇人やねぇ。しかし、そもそもなんで俺がここにいるところから説明してもらわないと」
「そうねぇ……」
ラララは、通常死亡するとセーブポイントに戻るだけだが、セーブポイントを設定していなかったり、近くにギルドハウスがあるとそのギルドハウスがセーブポイントとして機能することを説明する。
「セーブポイントみたいな制度はなるべく地域住民の人たちには見られないようにした方が良いって配慮らしいよ」
「ギルドハウスならギルドメンバーしかいないからな。地域住民に見られる余地はない。か……。で、そのギルドハウスはどこにあるんだ?」
コヨイハは先ほどから微妙に聞こえる金属が掠れる音が聞こえてくるのが気になった。
「あ? 気になっちゃった? じゃぁそこの椅子に座ってごらんなさい」
「ん?」
コヨイハは促され訳もわからず椅子に座る。
それは、無駄に豪華な感じの椅子であった。
「そして椅子の横にあるスイッチをON」
「うぉ、なんじゃこりゃ?」
すると、コヨイハの座っていた椅子が床ごとせり上がっていくではないか。
やがて上昇が止まるとそこは船のコントロールルームであった。
椅子の前には各種の計測器やボタンが並ぶ。
そして正面の窓には――
「はい。ようこそ。私たちのギルドハウスの制御室へ――」
「空中かよここ」
「地面とか土地代が無くて――、住んでいるひとの迷惑にならないようにと思ったらこうなりました」
「飛ぶのかよギルドハウス」
「浮力はあっても推進力はないから移動はしませんけどね」
「それでもすげーよこれ」
さきほど気になった金属音はこの船を飛ばすためのエンジンの音だったのだ。
コントロールルームの正面には開けた窓があり、外には空が広がっていた。
緩やかに流れる白い雲が美しい。
そしていまコヨイハの座っている席はどうにも上座の艦長席としか思えない。
たぶんこんなギミックが好きなやつがこのギルドハウスを設計したのだろう。
「すげー。すげーよこれ。何やっているんだよ運営は――。女の子カワイイだけじゃないのか」
「それからここのタッチパネルを叩くと、上空から地域支配している映像が見えるんだよ」
「おぉスゲー」
ラララは目の前の制御パネルを操作する。
ウィンドウシステムと同じように広がるそれを操作すると、いくつもの地上の様子がそこには広がっていた。
その地上を移すパネルの一つは、確かに先ほど夜杖真澄とコヨイハがいて、その他勇者たちが殺された場所であった。
「で、コヨイハさん? 貴方はさっき、夜杖真澄を殺そうとしたの?」
ラララはそう言うと、コヨイハの膝の上に座る。
これでコヨイハは椅子から動けなくなった。
その白い指が、コヨイハの首筋に触れる。
「それでねぇ、どうなの? どうして夜杖真澄を殺そうとしたの?」
「いやいや、ちょっとまってよ。殺そうとなんてしていないから」
「じゃぁ、どうして?」
「ちょっと押し倒そうとか思って」
「へー……。やっぱりちょっとお仕置きしちゃおっかなぁー」
椅子に座るコヨイハの上にラララは座っていた。
そのためコヨイハは席を立つことが物理的にできない状態になっている。
コヨイハの首に振れるラララの指が妖しく揺れた。
コヨイハはごくりとのどを鳴らした。
「お仕置きって……」
「ほら、人や魔族は殺されれば死ぬけど、勇者は殺されても死なないでしょう? そしてここはセーブポイントなわけじゃない。殺しても何度でも甦るわけよ。フェニックスのように。だから何度でも天国に逝せ続けることが出来る」
「こわっ。ラララちゃんのお仕置きマジでこわッ」
「力が衰えたとはいえ、これだけの至近距離で魔法を放てば即死はできるから……」
ちょっとだけラララがその指に力を入れると、コヨイハは恐怖に怯えた。
「いやだって、俺も、俺も夜杖真澄の分霊カード持っているから。こっそり強制契約しようと思って!」
「本当なのそれ? いや、だから無理でしょう。あの二人引き離せないって」
「ん? 夜杖真澄と知り合いなのか?」
「んー。あー。えーと…」
ラララは少しだけ困った顔をした。
「ほら、私の方が先に魔族領――じゃなかった邪魔台国に来たでしょう。だから知っているわけ」
「へー。他は?」
「え、えーっと。大抵の魔族なら分かるわよ? それなりに……」
ラララは旧魔王であるため、この邪魔台国の全ての魔族を知っているのだが誤魔化した。
「なら、クルス・アマト―とか知っているか?」
「知っているもなにも――毎日会っているわよ?」
クルス・アマト―の本体は暇をしているのか、毎日ラララのところでお茶をしていた。
「俺、クルス・アマト―の分霊カードも持っているんだよねぇ……」
「う・そ……」
「なんだか最近運回りがよくて……」
「――まさか。それも≪始まりの魔女≫の効果だというの?」
「なにそれ?」
「って、まさかね。しかしそんなに分霊カード持っているとかさすがにそれは信用ならないなー。ちょっと見せてよ」
「――それならどいてくれないかな。ウィンドウ出せないのだけど」
「いや。狭くても出せるでしょう。って、ちょっ。なんで私の身体の中に出しているのよ。気持ち悪いじゃない」
「あれ? ラララたんには俺というか人様のウィンドウが見えるのか?」
「そりゃ≪鑑定≫スキル持っていれば。レベルとかもはっきり」
「≪鑑定≫ぱねぇな」
コヨイハは無実を証明しようとウィンドウシステムを起動したが、なにしろラララとの距離が近すぎて出したアイテムウィンドウがラララの身体にのめりこんでしまった。
ウィンドウは通常他人には可視できず、触れることもできないものであるが、見えるように設定で許可を与えるか、ラララのように≪鑑定≫スキルを取れば見ることはできてしまうようだ。
「で、なに変なところを触っているのよ」
「いや、ウィンドウ操作しないとアイテム取り出せないんだよ」
「だからって調整してボタンのところをそんなところにするのはどうなのよ?」
「つまり、ラッキーすけべ?」
「狙ってやるな。死にたいの? いや殺す」
「うわやめてー」




