ワシントンなら仕方がない
―――:邪魔台国:国境近郊:―――
「ちょっとぉ! 何やっているのよ! もぉ!」
旧魔族領と呼ばれる土地である邪魔台国では、世界有数といってよいほどのハイレベルなモンスターたちが多数存在する、いわばモンスターの楽園である。
ゴブリン、オーク、オーガー、そしてライオンにキリン、数多の種類のモンスターがそこにはいた。
そこで狩を成功させれば一気にレベルが上がることはいうまでもない。
サウスフィールドでの弱いモンスター(要はブタさん)の大量狩りに伴うレベリングも良いが、歯ごたえのある敵を倒して楽しもうと思うのも勇者にとっては当然の欲求であり、そのために邪魔台国まで来た勇者一行であったのだが、初めてエンカウントしたゴブリンの群れを全滅させたあたりで突然現れた少女に怒られてしまった。
「ここでの狩は自然保護の観点から禁止されているわよ。狩りがしたいのなら農協で猟友会に入らないとダメなんだからねッ。猟友会のパス持っているの?」
その少女は剣士らしく左腰に長剣を差していた。
どうも地元民のようだ。
そしてこのモンスター溢れる土地の中で、しかも一人で生存できるとするならば、それは相当の実力の持ち主だと推測できた。
「農協? 猟友会? なんでこの世界に農協なんてあるんだよ!? 俺らがどこで狩ろうと自由じゃないか!」
勇者の一人が不貞腐れたように尋ねる。
実際、理不尽な主張と考えて怒っているのだろう。
「サウスフィールド農業協同組合。略して農協よ。農協は異世界にもあるんでしょう? 知らないとは言わないわよ。ここにはライオンとかキリンとか、ワシントン条約とかいう条約で規制された希少なモンスターがたくさんいるんだからね!」
「異世界でワシントン条約はないだろ。ここのどこにワシントンがあるんだよ」
「知らないわよ。運営がそう言いだしたんだから」
「分かった。ワシントンなら仕方がない。で、どこにあるんだよ。そのサウスフィールド農業協同組合っていうのは?」
「そりゃサウスフィールド王都に決まっているじゃない」
「おぃ、サウスフィールド王都ってどんだけ距離があると思っているんだよ!」
「だって仕方ないじゃない! この邪魔台国っていまサウスフィールド帝国の属国って設定なんだから」
だいたいサウスフィールド王都から邪魔台国まで距離にして約1週間である。
ソースは勇者たち本人だ。
「だいたい、お使いクエストってそんなものじゃない? 狩りたいなら戻ってよね」
ちなみに、戻って農協に願いでても邪魔台国での狩りの許可は簡単には出ないのは一種のお約束である。
勇者にそう簡単に邪魔台国での狩りの許可を出してレベルを上げられてしまうと、次回の攻城戦で冒険者職員ギルドの勝利が遠のくからだ。
許可がでるとすれば≪冒険者職員ギルド≫に入会するか、サウスフィールドと友好関係にあると認められる場合だけであろう。
「お使いクエストって、あのなぁ……」
「俺たちは勇者だぞ! ムリヤリ押し通すってこともできる!」
勇者たちは剣を抜いた。
それに対して少女は目を細める。
「やめてよッ! 君たちは殺されても死にはしないんだろうけど、私たち魔族は攻城戦以外で殺されたら、本当に死ぬんだからねッ」
「へぇ、君は魔族なのか」
「えぇそうよ。だから? 私の名前は夜杖真澄――。分霊はSRのレアリティ設定をされているわ」
そのSRのレアリティという言葉に反応して勇者たちに動揺が走る。
「おぃ、聞いたか。SRだってよ?」
「強そう」
「俺ガチャだとRしか当たってないんだが」
「おれはRすら当たってないぜ」
「それ運なさすぎ」
「しかし、じゃじゃーん!」
しかし、その勇者の中の一人が冒険者組合カードを掲げた。
「俺は夜杖真澄ちゃんの分霊カードを持っているのだぜ!」
「おぉぉー。これは勝てる」
「いいんじゃない。youは契約しちゃえよッ」
そのとある勇者が夜杖真澄の分霊カードを持っていたのだ。
だが、その勇者を見つめる夜杖真澄の姿は冷ややかだった。
「こんな雰囲気で、契約もなにもあったものじゃないよ。それに私の分霊カードってすでにNTR状態でしょう? 別の相方とすでに契約しているんだから無理ね。――そのせいでSSRからワンランク落ちているといっても良いのだから」
「えー。それじゃどうすりゃ良いんだよ。せっかく分霊カードあるのに」
「攻城戦で私を拘束するなり殺すなりして、強制契約とかすればいいんじゃないですかね。倒せるものならば。そのときは当然うちの相方も出張ってくるけれど。強いわよ彼は――」
うっとりとした表情で夜杖真澄は、自身のパートナーである彼氏のことを語り出す。
それは完全にノロケ状態であった。
これでは例えどんな困難に打ち勝って強制契約で縛ったとしてもすぐに逃げられそうな勢いであった。
「無理ゲーじゃねーか。いろんな意味で」
「なら、人のモノになるような魔族なんて殺しちゃえばいいんだ」
「あれ? そういうこと言っちゃう? そんなんじゃモテないよ?」
「う……」
そうこう言って騒いでいる勇者たちだが、それは陽動であった。
本命は≪隠密≫スキルを持った盗賊系の勇者による背後からの奇襲だ。
前回猛威を振るった≪隠密≫スキルは、数々の冒険者たちを屠ったことで知られている。
だが、夜杖真澄はそれを看破していた。
彼女もまた、≪気配感知≫スキルを有していたのだ。
夜杖真澄は振り向きざま抜刀する。
そして抜刀した瞬間、剣は気配を消していた盗賊系の勇者の身体を真っ二つにした。
上半身と下半身が完全に折り重なるように崩れ落ちた。
「うわ、ひでぇ」
「――ちなみに私の分霊の能力は『倒した敵の経験値の増加』ね。私の分霊カードを持っているそこの君なら知っていると思うけど。それがどういう原理か、知りたくはない?」
「いや、ちょ、ちょっとまて!」
夜杖真澄は語り掛ける。
人ひとり殺したというのになんでもない様子に、勇者たちは恐れおののいた。
盗賊職とはいえ、一撃のもとに倒すその実力だ。
それが自身に向かえば――と考えるのも道理であろう。
「くそ。逃げるしか――」
「逃げることは出来ないわね。ここで私が殺した勇者の数は7人だから――。『範囲指定:現地より500m。対象:勇者2:50。発動! スキル≪過去殺戮≫――』」
人々が魔族に謝罪と賠償を強要するため、過去に向かって対象が殺戮した人間の数を増やすスキル≪過去殺戮≫が、いま勇者たちに牙を剥いた――




