表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/137

体育館とカラオケ

―――:遠野の地:―――


 遠野地域でギルド≪遠野くにオング≫を取り巻く環境が一変したのは、ギルドマスターである孫左衛門 (愛称まごりん)がガチャで分霊を引き当てた後であった。


 そのSSRの分霊の少女の名を遠野那由他(なゆた)という。


 SSRキャラである彼女の持っている≪応援≫というスキルは凄まじいばかりの威力があった。

 そのスキルの内容を遠野那由他(なゆた)から聞き出した孫左衛門はその壮絶な威力を聞き、渋る彼女から強引にそのスキルを使わせたのだ。


 それにより体育館とカラオケを用意した遠野の地に人々がやってくるようになった。

 背景としては、旧ノキタミア領からの難民が多数やってきて治安が悪化することを嫌った隣地であるノーザンテリトが、遠野の地を楽園と称して積極的に宣伝し難民たちを遠野へと誘導したからだ。


 帝都の謎の爆発から始まる混乱は旧ノキタミア内に戦乱の渦としてどんどんと拡大し、難民の数も増加の一途をたどっている。

 そんな中、なぜか『偶然に偶然が重なって』、その情報は旧ノキタミア内や避難を始めた多数の難民たちに広がっている。

 それらの多くが、この遠野を目指してやってきているのだ。

 いままで忌み嫌われていた遠野の地である。とても不自然ではあるが、それを不自然とは誰も思わないのはまぎれもなくスキルの力だった。


 囲まれた地域に存在するモンスターらは列をなして人々に襲い掛かろうとするが、囲んでいる塀の上からヤリでも突き込めばモンスターらは簡単に死に、入れ食いのように肉の調達には困らない。しかも、なんと貴族の間でもちもちとした食感で人気のライオンまで採れるというのだからゴージャスである。

 コメや麦などはさすがにないが、首都である地域から少し北に出れば森が広がっており、植物系の食材に困ることもなかった。

 人口が増えれば攻城戦の報酬であるガチャ石(Gストーン)の実入りも多くなる。

 そのガチャ石(Gストーン)を使ってさらに設備を充実させればさらに人が増えるという好循環を期待できる。


 そして、攻城戦に勝利した彼らはギルドハウスを入手もした。

 ギルドハウスというのは、地上に転がる家のようなケチなものではなない。


 ギルドハウスは天空に浮かぶ艦であった。


 大空に浮かぶギルドの本拠地というのは、VRMMO-RPGとしてはありがちなものではある。他のVRMMO-RPGでは空飛城、飛空庭などと呼ばれている。ギルドの人たちがメインで活動する場所だ。


 まるで駆逐艦が空に浮かんでいるような様相を見せるそのギルドハウスは、ギルドの人たちに大いに感銘を受けさせている。人数分の部屋があり、好きなものを置けるようになっている。


 空から眺める景色も壮観であった。


 特に艦長室は、置かれた椅子に座りボタンを押すとせり上がって指令室に繋がるという、お約束のギミックまでもが付いた無駄に豪華な仕様であった。

 それを見たギルドメンバーは思わず艦長服と付けヒゲの製作を開始したという。

 体育館が作れる程度の生産スキルを持つメンバーには製作は容易なことだ。

 そしてそれも、遠野那由他(なゆた)の分霊による≪応援≫のスキルにより成功率がウィンドウに表示される数値よりも『不自然に』上昇した。


「ははは。遠野の≪応援≫というスキルは最強すぎるな。これが分霊ではなく、本体であるとすればどれだけのことが起きるか……」


 SSRとはいえ、分霊でさえもこの威力である。

 ギルドマスターである孫左衛門はSSRの分霊である本体のことに思いを馳せる。

 分霊を保持していれば、本体と契約するのはさほど困難なことではないらしい。

 だが、それには遠野那由他(なゆた)の本体と直接本編で会わなければならない。


 しかし、その住んでいる場所に行くにはかなりの問題があった。


 遠野那由他(なゆた)の住んでいる場所は、遠野地域の最奥にある塔であった。

 それも白亜の巨塔である。


 そこには強力な罠やモンスターがひしめいており、その塔を突破することは事実上困難なレベル差があった。

 何か月か、あるいは何年かレベリングすれば突破可能であるかもしれないが、少なくとも今のレベルでは無理だと思えるほどには難しい難易度であった。

 遠野那由他(なゆた)の分霊による≪応援≫スキルは、さすがに本人に対して適用はしないようで、塔を攻略しようとした勇者たちはことどごく死に戻ることになる。


 だがそれは逆にその力の確かさを示すことにつながる。


 遠野という名前からは、きっと遠野物語から来ているに違いない。

 であれば、遠野那由他(なゆた)の魔族としての正体は座敷わらしを想定しているのだろう。

 その場所に住み、それを支配する者に幸福を授ける引きこもり。

 引きこもりを外に出さないために魔道王国がその技術の粋を極めて作成した白亜の巨塔。

 それが強力なのも一種、当然ではある。


「あれが攻略できれば……」


 孫左衛門は想像する。


 かつて栄華を極めた魔道王国で確率を左右した≪始まりの魔女≫遠野那由他(なゆた)の実力を。

 魔道王国は、伝承ではあまたの魔族を作り出し、人々に奉仕を強要したという。

 遠野那由他(なゆた)のその力が本物で、真に発揮するのであれば、生産系スキルでホムンクルスの想像、つまり魔族の製造が可能になるのではないかと。

 ほとんどゼロに近しい確率だが、スキル自体が存在することはウィンドウのスキルツリーの項目から確認ができているのだ。期待はできるはずだ。


 ≪まよいが≫と名付けたギルドハウス艦の船上で、孫左衛門は一人愉悦に耽る。

 ならば、遠野那由他(なゆた)の本体を獲得できるなら、魔道王国の再来をこの地に起こせるだろうと――



 ――いま、旧ノキタミアなどの周囲に振りまかれた戦乱たる不幸とは対照的に、遠野の地では人々がモンスター肉に酔いしれながら歌い踊る、楽園といっても良い世界が広がっていた。


 その不幸に、新造された魔族の少女たちが加わるのだろうか?

ちなみに、遠野の塔のイメージ

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ