電子レンジねこ
引きこもりの必須アイテムというのは多数存在する。
たとえばインターネット、それからテレビ、寝るための布団にトイレ、そして、ご飯である。
そのご飯をおいしく食べるうえで欠かせないのは電子レンジであろう。
「あぁ、電子レンジに卵とかよくやったなぁ。あいつら、殻付きのものはもちろん、生たまごの状態でも爆発するんだぜ」
「なにそれ?」
ヤマダはその電子レンジという発明の偉大さをクラスメイトたちに説明するが、かなり反応は薄かった。
それはそうだろう。
クラスの約半数は貴族であり、商家の人間であったりする。
料理などするものはごく少数だ。
感心を持って聞くのは――友達となった貴族の少年、エイト・エイトロープ・マッカヨウくらいなものであろうか。
「だが、簡単においしく食べられるのであれば作って料理人にでも勧めるのは良いかもしれないな。その電波? というのは理解できないが、オーブンであれば作れないことはないはずだ。少なくとも勇者召喚よりは簡単だろう」
勇者召喚に見られるように、魔法陣の技術は多少なりとも進んでいて、魔力を集めたり、恒常的に熱を出すという仕組みはどうやらあるようだ。食料備蓄用に冷蔵庫もあるらしい。
ただ、小型化、というのは難しいらしい。
これはこの世界の魔術の源流が思念によるものから来ているのだろう。
魔法陣とはいっても、原理とすれば要求を文書に陣として記載し、魔力を対価にすることで対象が事象を起こす、といった仕組みなのだ。
対象とする精霊、地域、世界といった存在はある程度の大きさがなければその陣を読み取れない。
だから考える。
例えば屋根の上に魔法陣を敷き、余熱を電子レンジ(という名前の実際はオーブン)として使うのだ。
確か太陽光を使った温水風呂などがこの原理と似たようなものだろう。
太陽光を受けるソーラーパネルに相当する魔法陣の面積は大きいかもしれないが、それと接続したオーブンは小型化ができる。
開発は大規模なものではあるが、得られるものは大きいと考える。
特に冬場は暖房として使えるかもしれない。
「しかし、サウスフィールドの連中はこんなことばっかり考えているのか? フェイノくん。君とかも?」
「いえ、ヤマダさまが特殊なだけかと……」
フェイノはフェイノでサトウキビの開発などを行っている。
人のことは言えないのだが、その話をしてしまうと自身がサウスフィールドの姫であることがバレてしまうので語ることは無かった。
「なんにせよやってみるか。創るのは僕であるから、俺が利権をもらっていくが良いか?」
「あぁ、引きこもりながらうまい飯が食えれば俺としてはそれでいい。俺自身に大した実力なんてないからな」
「おい、ヤマダがなんかアホなこと言っているぞ。引きこもりって、邪神じゃあるまいに」
「あははー」
周囲のクラスメイトはヤマダとエイトの会話に引き込まれ、いつのまりか集まり笑っていた。
彼れらが今やクラスの中心であった。
「注意点としては洗った猫を乾かす目的でこの電子レンジに投入してはいけないということだな」
「さすがにそんなものに猫を入れたら訴えられるだろう。爆発するぞ」
「爆発はしないんじゃないだろうか。いやでも猫皮が体内の膨張を邪魔するのか? この前、チョコチップメロンパンを袋ごとぶちこんだら、空気膨張で袋が爆発したし」
「それは知らんが、おいしく食べる目的で七面鳥ならば良いか?」
「生きたままでか? さすがにノーザンテリトの民は考えることは違うな」
「ちゃんと毛をむしって血抜きをしないと美味しくならないかな。やっぱり」
「なるほどなるほど……」
それを、アイシャだけは外からそれをずっと眺めていた。
・ ・ ・ ・ ・
タローの部屋にはアイシャが入り浸っていた。
さすがに夜にはアイシャは自分の部屋に帰っていくが、彼女が入り浸っていることは周知の事実だ。
彼女はマッカヨウ家の息が掛かっていることはそのマッカヨウ家の令嬢であるリスナの取り巻きの一人であることから明らかであるし、そこからの探りであると思われているのかもしれない。
であれば下手な手出しはマッカヨウ家と敵対することになる。
そんなことを誰も好き好んではやらない。
そしてそれ以上に、アイシャがタローの彼女であることは、彼らはなぜか隠してはいるが普段の言動から周りにはバレバレだ。
彼らが市場をデートをしているところを目撃した人間はかなり多い。
「それで――、フェイノのやつが死者復活の呪文とか使うものだからゴブリンロードが復活して……」
「は!? 復活呪文?」
なんでも無いことのようにタローは言うが、死者復活の呪文などはこの世界の常識では普通ありえないのだ。
だが、あの時のその場にはその常識が分からないものたちがほとんどだった。
タローやヤマダにはそもそも異世界の常識がない。
タローやヤマダは昨今のJ-RPGに毒されており「復活の呪文? 神官なら初期に覚える必須スキルだろ? 取ってないやつがいたらそれ地雷じゃん」くらいにしか思っていなかった。
クルスは、自身のマスターが邪神アマト―である。
その偉大なるマスターの卑巫女が神聖魔法を使うのは常識だと考えている。
だが、この世界の一般的な常識で考えれば死者が復活できるとすれば、超高位の高司祭にしかできないものだ。
この多くの主要な神々が神々の戦争でいなくなったこの世界では、超高位の司祭でも使える者は限られている。
ましてやサウスフィールド帝国で復活したとされる神話三大大邪神の一柱であればともかく――
と、そこまで考えてアイシャは固まった。
「そういえば、フェイノさんって、サウスフィールドの出身よね……」
アイシャは自分で調べたのだ。
フェイノがサウスフィールドの出身であることを。
するとフェイノは邪神のプリ―ストなのだろうか?
だが、邪神が復活したとされるのはついこの間だと聞いている。
だとしたら、邪神が復活してその後にプリ―ストになったとすると、いつの間にここまで来たのだろうか?
サウスフィールドとノーザンテリトはノキタミアを挟んで反対側だ。
大陸の南北反対側といっていい距離である。
「そんな力を持った存在が、なんでこんなサウスフィールドの地に来たのかしら?」
「あぁ、学園物がしたかったらしいよ? サウスフィールドでは騒ぎになるからって」
確かに、彼女が邪神復活に携わっていたのだとしたら彼女はサウスフィールドや魔族領では超の付く有名人であろう。
何がしか「遊ぶ」のであれば反対側の国であるこちらに来ていてもおかしいとは思わない。
どのような「遊び」なのかは分からないが……。
「そう? やっぱりやんごとなき身分の方なんですかね? それでどうやって来たのかしら?」
「さぁ??」
タローは少し考える。
レベルの高い勇者であればこちらに来ることはもしかしたら簡単なのかもしれない。
レベルが上がれば取れるスキルもあることだろう。
フェイノはこれ以上考えても進まないと思い、質問を変えた。
「他には誰がいた? その使者復活のスキルを使っているときによ」
「盗賊風の冒険者かな。この前話しただろう? それに≪殺戮の小悪魔≫って二つ名の冒険者か」
「殺戮の小悪魔ですってぇ」
「うわ、急に大声だすなよ」
盗賊風の冒険者というのは知っている。冒険者ギルドで泳がせている魔族の一人だ。
だが、≪殺戮の小悪魔≫とは聞き捨てならないものだ。
この世界の各国では魔道王国が滅びてから多くの国が群雄割拠する世界となったが、国を守るためにはどうしても異形の力を必要としていた。それが俗にいう英雄だ。
異形たる魔族の力、特に戦略級ともいわれる戦闘系魔族の力は絶大だ。
魔族を嫌悪しながらも魔族を使わざるをえないという矛盾がここにある。
――が、魔族を使うということを嫌がるというのであれば、魔族であることを隠せば良い。
例えばノーザンテリトのバハーム将軍のように。
魔族は女であるという刷り込みは、ニンゲンの振りをする男の魔族にとって最強の隠れ蓑となる。
だがごく一部では魔族であることを晒してでも国家戦力として保有する戦闘系魔族というものも存在する。
それは使い勝手が良い、永遠に続く暴力発生装置だ。
それがノキタミア帝国であれば≪夜杖真澄≫であり――、サウスフィールドでの≪殺戮の小悪魔≫であった。
「サウスフィールドでは魔族領を制圧して帝国を名乗ったそうだが、真相はここにいた。ということなのかしら?」
「よくは分からんが、そうなんじゃないか?」
「例えば――、魔族領で邪神が復活して、サウスフィールドがイケニエとして姫を差し出して、気に入った邪神が卑巫女化した後、そのまま居させるのは風文に悪いとこちらに島流しにしたとか?」
「はは。アイシャは面白いことを考えるな」
タローはなんといって答えたらいいか分からず曖昧に答えた。
タローはヤマダが前代の勇者だと知っている。
名前からそれは簡単に類推できたし、本人にも確認している。
同じ日本人だから「女の子をゲットして学園ライフを満喫しているだけだ」ということも分かる。
だが、その感覚を異世界人に伝えるのは難しい。
「それなら――、彼女を説得して魔族達の怪我とかを直してもらえるかもしれないわね。拒否したら殺してでも奪い取るとか考えるべきかしら?」
「奪い取るって……、単純に頼めばやってくれると思うよ。友達なんだし。ヤマダあたりに『ここに病院を建てよう』とか言えば面白がって作ってくれるんじゃない? そこで治させせればいい」
「なにそれ?」




