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異世界転生はあっという間

貴方(あなた)は死にました」

 天界のような神々しい場所で神様らしき男性が僕に向かってそう告げた。


「昨今の転生者ブームに従い、選ばれた貴方もまた異世界へと行ってもらいます」

「へ?」

「説明とかはね、後から聞いてくれればいいから」


 こちらが反応する隙すら無いほどスムーズにスラスラと言葉を発する神に、僕は戸惑いから無言を返してしまった。神はそれを肯定と捉えたのか、


「君には神スキルを与えます! では行ってらっしゃい」


 パチン!


 神が指を弾くと、足元が急に無くなり僕の体は真っ逆様に落ちていく。天界から落とされた僕は暗いトンネルのような縦穴を進んで、しばらくすると視界が開けた。


「うわっ!?」

 そこははるか上空。雲の上の上、宇宙に近く空が青くなる前のはるか高み。僕は地上めがけて落下していた。


「ひああああああああああ!?」


 生前、エクストリームスポーツをやってみたいとは思いながらも、実際にその夢が叶うことはなかった。それがまさか、初めてで命綱もパラシュートもない状態でやらされるとは思ってもいなかった。

 僕の意識はそこで途切れた。



「おい坊主、大丈夫か?」

「んえ?」


 目を覚ますと僕は地上にいた。僕を起こしてくれたのは強面ながらも優しげな声の男性だった。


「こ、ここは?」

「ここはモンの町近くの森だよ」

「モンの町?」

「ああ。森を抜けてすぐだ。お前さん、ここら辺の人間じゃねえのか?」


 状況が飲み込めない僕を不審がる様子もなく、おじさんは親切にしてくれる。

 そもそもあれだけの上空から落ちて何故生きているのか。神様がこの世界に僕を送り込んだ理由はなんなのか。考えなければいけないことは山のようにあるが、ひとまずは、


「おじさん。僕を町まで案内してくれませんか?」

 僕は親切なおじさんを頼り、モンの町へと向かった。


 おじさん──キッコリーさんは木こりをしているらしく、仕事の途中だというのに僕を町まで送り届けてくれた。


 突然だが、僕の名前は星野(ほしの) (めぐる)。純日本人だ。前世と言うには記憶に新しいが、僕は一度死んだ。そしてこの世界に生まれ変わったのだが、姿形は以前のまま。年齢は十九。職業は大学生。将来の夢はパイロット。だったのだが、その夢が叶うことはなく死んでしまった。


 前世の記憶はしっかりとしている。ではこの世界についてはどうだろうか。神様からスキルをもらったからか知らないが、言語は問題ない様子。ただ、世界観の説明も何もされず、所持金なども持たされずに放り出されてしまった。これでどう生活しろというのだ。


 現在僕は、町の外縁に当たる街道脇の原っぱで、のほほんと空を見上げていた。

 この地域は標高が高いのか、雲がかなり近い場所にある。時折、上空を船が何隻も通るのを見ると、技術もそこそこ進歩しているのだろうか。この世界の飛行船は、水に浮かぶボートをそのまま飛ばしたようなもので、どんな機構で飛んでいるのか不思議でならない。


 心を落ち着かせてみると分かったことがいくつか。スキルの使い方と、神様の言っていた『説明とかは、後から聞いてくれればいいから』という言葉の意味だ。

 一つ目のスキルの使い方について。


「メニューオープン」

 と唱えると目の前にホログラムのような映像が現れ、自分のステータスを表示してくれる。なお項目は、スキルのみ。


 僕も驚いた。まさかスキルの表示しかされないなんて。

 メニューにはスキル名しか表示されていないわけだが、それが「飛行船クラフト」だとは。

 この飛行船クラフト、使い方は自然と分かるのだが、いかんせん材料がないため今は肥やしになっている。神スキルというからには無償で高性能な飛行船くらい出してくれてもいいような気もするが、神(から授かった)スキルということらしい。必ずしもチート能力とは限らないって? そんなのあんまりだ。


 それからもう一つの神様についてだが、メニューを開いた状態で神様に呼びかけることで、サポートチャットのようなものが現れ音声付きで説明をしてくれる。


「へい神様。この世界について教えて」

『ここは天上王国エデノの町の一つモル。天上人が暮らす浮遊島だよ』

「へい神様。天上人について教えて」

『天上人は君と同じ人間と思っていいよ。自力で空を飛ぶことは叶わないがその知識で空を支配した人種族だよ』

「へい神様。僕はこれからどうしたらいい?」

『好きにしたらいいよ』


 と、このようにAIよろしく便利にこの世界のことを教えてくれるようだ。残念なのは、ラノベに出てくるような鑑定的な使い方はできないらしく、本当に便利知識サポートなだけだった。


 目下、僕がやるべきは日銭の確保と寝床の確保だ。

 モルの町は……というよりも、浮遊島には外敵がいないためか、町を囲うような塀などはなく、出入りが規制されていない。そもそも、島への侵入経路が空路しか存在しないためなのだろう。空から魔物が襲ってくることはあるようだが、それも基本的には飛行船でなんとかしているらしい。


 この世界にもやはり魔物がいるようなのだ。そして、僕の飛行船クラフトにはこの魔物が重要になってくる。船の材料は木材や金属など様々な物を用いることができるようだが、この世界の飛行船を動かすのに、魔物の魔石がいるらしい。


 つまり、僕は自力で魔石をゲットするか、お金で魔石を買わなければ一生飛行船に乗れないのだ!

 なんの説明もなしに初めて来た世界で生活するのがどれほど大変か!


 というわけで、僕は親切なおじさんを頼ることにした。

 おじさんの元で木こり見習いとして働き、森の木を材料として集めつつお金を貯めること半年。

 僕はとうとう、魔石を手に入れるだけのお金を貯めることに成功した。



「メグル! 飛行船ができたら俺を一番に乗せてくれよ!」

「もちろんです! 一緒に旅しましょう!」


 キッコリーさんの家を飛び出し町の中心付近へと向かう。

 飛行船の動力となる魔石は通常の魔石とは別で、「拍動する魔石」というのが必要になる。これをスキルで生成することもできるのだが、その場合には素材として生きた魔物を用意する必要がある。それは無理だし、今の手持ちで魔物の生け取り依頼を出すこともできない。


 この世界には魔物を討伐するハンターが存在しており、彼らが所属するギルドに依頼を出すことで魔物を討伐してもらったり護衛をしてもらったりすることができる。


 ギルドは公的な派遣会社のようなもので、ハンターたちはいわばそこの派遣社員だ。といっても、ギルドにそこまでの強制力はなくイメージとしては下請けや業務委託の方が近いが。まあ、僕には一生縁のない話だろう。戦ったりとかできないし。


 それに今日の目的は拍動する魔石だ。

 僕は魔石取扱店へと急いだ。


 カランコロンカラン。


 扉を開くと同時に小気味良いベルの音が鳴る。僕はショーケースに並べられた魔石を眺めながら「拍動する魔石」を探した。


「…………ん?」

 しかし、店の端から端まで見尽くしても拍動する魔石は一つも置いていなかった。


「すみません。拍動する魔石って置いてますか?」

 僕は若い男性の店員さんに声をかけた。


「拍動する魔石? そんなもの置いてるわけないじゃないか」

 店員は嘲るような半笑いを浮かべながらそう答える。僕はそんなバカなと思いながらメニューを開いた。


「へい神様。拍動する魔石はどこで買える?」

『拍動する魔石が市場に出ることは滅多にないよ。基本的に魔石工場から造船所への直卸のみだね』

「嘘だ……」


 僕のリサーチ不足。僕は魔石取扱店の看板だけを見て、ここに魔石があると思い込んでいた。ちゃんと調べもせず、通りに面したショーウィンドウの値段を頼りにお金を貯めてきたが、全ては僕の準備不足に終わってしまった。まさか、拍動する魔石が売っていないなんて……。


「いや。こんなところで諦めてたまるか」

 僕は冷ややかな目を向けてくる店員とおさらばし、ひとまず近くの広場に出る。露店商がちらほらといる人通りのある広場の中央、噴水のヘリに腰をかけて神様サポートを呼び出した。


「へい神様。拍動する魔石を手に入れるにはどうすれば良い?」

『造船所で働けば良いんじゃない? そのスキルがあれば造船もチョチョイのチョイだしさ』


「へい神様。今すぐ手に入れるには?」

『魔物の生け取りが自力でできないなら買うしかないけど、そのお金もないなら、奴隷商に行くといいよ』


「奴隷商? なんで?」

『拍動する魔石は、奴隷からも作れるからだよ」

「……まじで?」


 僕は耳を疑った。神様ともあろう者が、人の命を拍動する魔石に変えてしまえと言ったのだ。いくらなんでも終わ倫理すぎて言葉が見つからない。


『もちろん、ただの人間じゃ無理だよ。拍動する魔石に出来るのは天上人以外の異人種だからね』

「倫理ぃ。その違いは何?」


『そもそも天上人は奴隷にならないのが一つ。それから、私は天上人が崇める神であって、他の種族が崇める神とは別なんだよ。だから、ほら、別に私の信徒じゃないなら、信徒である君が有効活用した方が良いじゃん?』

「終わ倫理ぃ……」


 この世界で暮らして半年だが、気づいたことがこれだ。神様の倫理観がなかなかに終わっているせいか、この世界は感覚が日本で暮らしていた僕とはだいぶかけ離れている。

 その終わっている倫理観というのは、別人種に対してだ。この浮遊島には天上人しか暮らしていないため、その終わった倫理観を体験することはあまりないが、奴隷にされた別人種の扱いを見れば一目瞭然だ。


 亜人と呼ばれるエルフや獣人、ドワーフなど様々な人型種族は魔物が蔓延る地上で暮らしている。天上人のハンターたちは亜人を捕まえて奴隷として売り払うわけだが、その奴隷の扱いがかなり酷い。人権などあるはずもなく、基本的に奴隷は使い捨てのように扱われる。最低限の食事で過酷な労働を強いられ、使い物にならなくなれば浮遊島の端から外へと捨てられる。


 そんな島で暮らしているからと、博愛的な日本人である僕の魂は汚れたりはしない。僕は奴隷の酷い扱いには反対だし、自分から奴隷を痛めつけるようなことはしない。されど、現状を変える力もないため、周りに合わせる日本人らしく慎ましやかに静かに暮らすことにしている。


 脱線。つまり現時点で拍動する魔石を手に入れる方法はないに等しいということが分かった。

 お金を貯める木こり生活に半年も費やして、こんなところで立ち往生しているわけにはいかないのに。現実は僕を打ちのめす。楽しい異世界ライフかと思いきや、毎日筋肉痛に泣く木こり生活とは。


 そもそも、市販の飛行船はそれなりに良いお値段がする。下級のハンターが使うような跨るタイプの、オートバイのようなものですら日本円にして百万は下らない。


『倫理観が君の行動の邪魔をするなら、倫理的にギリ許されるような奴隷を探したら良いんじゃない? 犯罪者とか、今にも捨てられる直前の奴とか』

「終わ倫理神はちょっと黙ってて」


 この神様サポート、いらない気を使って割と自発的に話してくるため、こうして制する必要があるのが難点だ。

 やはり造船所に働きに出て、そこで拍動する魔石を手に入れるしかないのか。


クラフト系の話が大好きです。

と思いつつ今まで書いたことはなかったので挑戦してみました。

ぜひぜひ気軽に感想いただけますと幸いです!

よろしくお願いします!☺️

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