エピローグ:名前を呼ぶという祈り
僕がこの物語を書き終えようとしている今も、窓の外の景色は変わらない。けれど、あの頃とは決定的に違う。静まり返ったこの部屋には、もう彼らの息遣いも、毛布をこする音も、喉を鳴らすゴロゴロという振動も残っていない。ただ、彼らがいないという事実だけが、季節を幾度も越えて、この部屋に深く居座り続けている。
のーす。アース。モコ。ベル。
君たちは今、どこでどんな空を見ているのだろう。僕が選んだ「さようなら」の代償は、君たちとの未来そのものだった。誓約書に書かれた冷たい文字は、君たちに会う権利さえも奪い去った。けれど、どんなに法的な線引きがなされようとも、僕の記憶の中に染み付いた君たちの温もりを消すことまではできなかった。
今でもときどき、ふと名前を呼んでしまう。仕事から帰ったとき、夜中に目が覚めたとき。誰もいない部屋で名前を呼ぶと、まるで彼らが返事をしてくれたような気がして、自分の無力さと愛おしさに胸が締め付けられる。あの鳴き声が、足音が、僕の生活のすべてだった。
この物語は、君たちへの遺書ではない。僕が君たちと確かに同じ時を生きていたという証であり、君たちが確かに僕の人生のすべてだったという、消えることのない証明だ。誰かに何かを証明したくて書いたわけじゃない。ただ、僕という人間の心の中に、君たちが確かに「いた」ということ。僕の日常を君たちがどれほど輝かせてくれたかを、どうしても形にして残したかったのだ。
君たちは今、僕の手の届かない場所にいる。でも、どうか安心してほしい。君たちが今寄り添っているその場所で、これまでと変わらない、あるいはそれ以上の精一杯の愛情に包まれていると、僕は信じている。君たちがこれからも健やかに、穏やかに、この世界で愛されながら過ごしてくれること。それだけが、僕の今の願いだ。
だから、どうか長生きしてね。
その温かい命が、君たちの毎日が、一日でも長く光に満ちたものでありますように。
いつかまた、巡り会えるその時まで。
君たちがいた場所は、僕の人生そのものだった。
君たちが僕を愛してくれたように、僕も最後まで君たちのことを愛している。
ありがとう。
またね。




